第51話 誕生パーティー当日
あれよあれよという間に時間は過ぎ、ついにリフィネの誕生パーティー当日となった。
会場の準備は、抜かりなくメイを始めとした離宮務めのメイド達がこなしてくれているので、何も問題はない。
途中、なぜかメイが「会場の一番目立つところに姫様とユミエ様の絵画をドドンと飾り付けましょう!」などと言い出し、他のメイドはおろか厨房の料理人や庭師なんかも賛同し始めたのには流石に驚いたけどな。
恥ずかしがって必死に止めようとしたリフィネが、逆になぜダメなのかとメイから懇切丁寧にリフィネの可愛さを延々と説かれてしまい、顔を真っ赤にして逃げ出す事件があったりしたが……まあ、些細なことだろう。
「ちっとも些細ではないぞ! メイのやつ、あの後も隙を見ては妾の絵を飾ろうとするし……どうせ飾るならユミエの絵にすればいいと言ったのに」
「あの、ここはリフィネの離宮なので、一番目立つところに私の絵が飾られているのは流石におかしいと思いますよ」
ぷんすこと頬を膨らませるリフィネに、俺は苦笑を漏らす。
俺は自分を心底可愛いと思ってるから、リフィネと違ってデカデカと絵を飾られることに抵抗はない。というか、グランベル家では既にやられている。
けど、ここはあくまでリフィネのために用意された離宮なのだ。飾るのはリフィネの絵であるべきだろう。
「なら、目立つところでなければユミエの絵を飾ってもいいのか? 妾の部屋とか」
「はい、それはもちろん」
ただ、だからといってリフィネからそんな風に聞かれるとは思ってなかったから、少し驚く。
そんな俺に、リフィネはにぱっと笑みを浮かべた。
「えへへ、それなら妾の絵を飾られても文句はないのだ」
「そう……なんですか?」
俺の絵がリフィネの部屋にあることと、離宮にデカデカとリフィネの絵が飾られることにどう関係があるんだ??
よく分からず首を傾げていると、その間に俺達の身支度が終わったらしい。傍でドレスの着付けを手伝っていたメイとリサが一歩下がる。
「姫様、ユミエ様もとても可愛らしいです!」
「メイの言う通りですね。わざわざグランベル領から取り寄せた甲斐がありました」
二人から思い切り褒められて、リフィネは照れたようにもじもじと指先を弄り始め、俺は当然だとばかりに胸を張る。
最近ずっとリフィネの離宮で寝泊まりして、グランベル領に帰れてなかったんだが……デザイナー少女のマニラが、王女の誕生パーティーに出席する俺のために新作のドレスをデザインしてくれたのだ。
しかも、マニラの話を聞いたリフィネが興味を持ち、せっかくだから二人でお揃いのドレスにしたいと言い始めた。
普通、社交の場では令嬢同士デザインが被らないように気を遣うものだし、相手が王女ともなれば尚更、デザイン被りなんて以てのほかだ。
それはもちろん、リフィネも知っていたんだが……それでも、と不安そうな顔に上目遣いまで足されて懇願されては、断れるはずもなかった。
俺の可愛いアピールは演技なんだが、やっぱり天然ものは格が違うよなぁ、俺も見習わなければ。と思ったもんだ。
なお、それをリサに相談したら、「お嬢様は自分が名優だと思い込んでいるだけの天然記念物なので大丈夫ですよ」と言われてしまったんだが。
それ、褒めてんの?
「えへへ、ユミエ、妾、可愛いか?」
そんなリサとのやり取りを思い出していると、リフィネが俺のドレスの裾を引っ張りながらそう尋ねて来た。
答えなんて分かりきってるだろうに、それでも直接俺の口から聞きたいのだと期待の眼差しを向けるお姫様。
もちろんその期待には応えてやるところだけど、ただ応えるだけじゃ言わされた感が出て味気ないよな。
「はい、とっても可愛いですよ。私が男の子だったら、このまま結婚を申し込んでしまいそうなくらいです」
俺の褒め言葉に、リフィネはしばしきょとんと目を丸くした後、すぐに嬉しそうに頬を緩めた。
「ああ、妾もユミエのような男になら、貰われてやってもいいのだ!」
「えへへ、私達、相思相愛ですね!」
「ああ、大好きだぞユミエ!」
「私もですよ~」
甘えるように抱き着いてくるリフィネを抱き返し、仲良し姉妹のような他愛ないやり取りを交わす。
そんな俺達を、メイド二人組が微笑ましそうに見守り──
「はあぁぁぁ、尊いです……! 姫様とユミエ様、いっそこのまま本当に結婚しませんかね?」
「何を言ってるんですか、メイ。そんなことをしたら戦争を起こしますよ、グランベルが」
「過保護過ぎませんかあなたの主人。いやまあ、あれだけ可愛い娘がいれば当然といえば当然かもしれないですけど」
全然微笑ましい会話してなかったわこいつら。
いくらなんでも戦争は起きないから。ていうかそもそも、"男の子だったら"って前置きしてるだろ、聞いてなかったのかコラ。
「っと、そろそろパーティーが始まる時間ですね。会場の方にはもう人が集まっているでしょうし、行きましょうか、リフィネ」
「う、うむ」
俺がそう言うと、リフィネは緊張でガチガチになりながら俺の手を握る。
こういう時、主役のエスコート役は婚約者か、いなければ父親なんかが務めるのが普通なんだが……今回は俺がエスコートすることになっている。
リフィネにとって、恐らく初めてとなる誕生パーティー。良い思い出になるように、俺がちゃんとサポートしてやらなきゃな。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、会場には私のお兄様やモニカさんもいるはずですし、それに……何があっても、私がフォローしますから」
ね? と言い聞かせると、リフィネの緊張も少しは解れたのか、握り締めた手の力が少しだけ緩んだ。
「ああ、頼りにしているぞ、ユミエ」
「はい!」
笑顔を交わし、部屋を後にする。
さて、俺にとっても、こういうちゃんとしたパーティーに出席するのはまだ二度目だから。
リフィネのためにも、いっちょ気合い入れて行きますか。
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