第49話 誕生パーティー作戦会議
王宮に、突如としてグランベル家が騎士団を引き連れて現れ、娘を出せと王子と口論になった。
当然、そのような事態になれば、王宮を中心として噂が広がるのは避けられない。
──王家とグランベル家の間に、仲違いが起きた──と。
「しかも、シグート王子がユミエお嬢様にご執心なのは知る人ぞ知る公然の秘密でしたので、痴情のもつれがあったのではと騒ぎになっておりますね。あくまで、私が軽く外で聞き込みを行った範囲での情報ですが、すぐに王国中に広まるでしょう」
「本当に何やってるんですかお父様ぁーー!!」
離宮にある、リフィネの私室。簡単なお茶会会場へとセッティングされたその場所で、俺はリサの報告を聞きながら頭を抱えた。
そう、お父様の親バカっぷりが恥ずかしいというのはもちろんだが、貴族が家を挙げて王宮に詰めかけるというのは、それだけでかなりの一大事なのだ。
仕事の虫だったお父様がそれを分からないはずもないのに、どうして今回はそんな目立つやり方で詰めかけて来たのさ!!
「ユミエが虐められてるかもしれないって聞いたから、当然だろ?」
「当然じゃないです!! お兄様も次期当主なんですから少しは政治に興味を持ってください!!」
「お嬢様も現代のパワーバランスについては勉強不足ですけどね」
「リサも余計なこと言わなーい!」
何を当たり前のことを、とばかりにお茶を口に含むお兄様を説教しつつ、余計な茶々を入れるリサの口を塞ぐ。
そんな私を宥めたのは、意外にもリフィネだった。
「良いではないか、妾の評判を考えれば、予定を越えても帰ってこない娘を心配するグランベル卿の気持ちも分かるぞ。むしろ……それですぐに兵を挙げて取り戻しに来るなど、よほど愛されている証ではないか。少し、羨ましいぞ」
「リフィネ……」
シグートと話している時も思ったが、リフィネは脳筋で子供っぽくはあってもバカではない。むしろ、そういった政治の後ろ暗い側面については、俺よりも知識がある方だ。
そんなリフィネが見せる儚げな表情を見ていても立ってもいられなくなった俺は、その体をぎゅっと抱き寄せた。
「大丈夫ですよ、もしリフィネが誰かに拐われたり虐められたりしたら、シグートがすぐに駆け付けてくれます。きっと、こーんな顔して鬼みたいに暴れ始めますよ」
「ぷくく……なんだそれは。兄上のそんな顔、想像も出来んぞ」
俺が自分の顔を手でぐいっと引っ張りながら全力の怒り顔を見せてやると、リフィネは思わずといった様子で笑い出す。
可愛らしいその姿に癒されながら、優しく頭を撫でていると……そんな俺達へ、モニカは幽霊でも見つけたかのような目を向けていた。
「本当に、リフィネ様は変わられたのですね……驚きましたわ」
「変わったというより、今まで無理をしていたんだと私は思いますよ。リフィネは元から良い子です」
「あ、あまり褒めるな……照れるだろ……」
顔を赤らめつつも、俺から離れることなく撫でられるがままになっているリフィネ。
そんな王女様を微笑ましく思っていると、モニカも俺と同意見なのか、その表情を和らげる。
「こうして見ると、お二人は姉妹のようですわね。……リフィネ様に気に入られたら、ユミエさんを手に入れやすく……いえ、王子とくっついたら本当に姉妹になれてしまうと気付かれたらライバルに……?」
姉妹みたいだ、以降のモニカの言葉がよく聞き取れなかったけど、リフィネのことを好意的に見てくれてるみたいでホッとした。
「モニカお前、まだユミエのことを……」
「ふふん、当然ですわ。"今回のこと"で少し有利になりますしね」
「うぐぐ……シグートが少し辛くなるから平気だと思ったのに……!」
「……? お二人とも、何の話をしているんですか?」
「「なんでもない」」
息ぴったりに、お兄様とモニカが明後日の方を向く。
何か隠してるのは間違いないけど、意地悪しようとしてる感じはないから、多分俺は知らない方がいいことなんだろう。追及はしないでおく。
「まあ、お父様のやらかしは、今頃お父様自身がシグートとお話してどうにかしているはずですから、私達はリフィネの誕生パーティーの準備です!」
代わりに、パン、と手を叩いて話題を切り替える。
その方が都合が良かったのか、当然話に乗ってくれた二人へと、俺は本題を切り出した。
「リフィネがちゃんと良い子だっていうことを貴族社会に浸透させて、招待客を集めたいと思っているんですが……モニカさんはその辺り、お手のものですよね?」
「当然ですわ。知り合いの令嬢達に声をかけておきますので、ご心配なく」
「ありがとうございます!」
胸に手を当てて自信満々に宣言するモニカに頼もしさを覚えながら、にこりと笑いかける。
そうしたら、「ユミエさんのためですもの、当然ですわ!」なんて言われたけど……あの、これはリフィネのためのパーティーだからね? 分かってる?
「後はお兄様ですけど……シグート以外のお友達、呼べますか?」
お兄様がシグート以外の誰かと一緒にいるとこ、見たことないんだけど。
そんな意図を込めて尋ねると、何を言ってるんだとばかりに首を傾げられた。
「俺だって、社交パーティーには何度も出てるし、王都で騎士団同士の交流試合があった時にお父様についていくから、相手の令息と個人的に手合わせして仲良くなったりしてるぞ? シグートと仲良くしてるから、何もしなくても人は寄ってくるしな」
「……えっ」
もしかして、お兄様って物凄く社交性高いの?
いつも俺にベタベタしてるから、交遊関係はそんなに広くないかと思ってたんだけど。
「……ああ、えっと……ユミエはまだこれからだから、あんまり気にするなよ。お前なら友達百人だってすぐ出来るから!」
そんな俺の反応をどう解釈したのか、お兄様はそんな風に俺をフォロー(?)しようとする。
当然、そんなお兄様の言葉を聞けば、他の二人も勘違いするわけで。
「大丈夫ですわユミエさん、お友達なんていなくとも、私は気にしませんの!!」
うん、モニカは俺にトドメを刺したいのかな? 終いには泣くよ?
そう思った俺は、まだ気付いていなかった。
モニカよりも強大な一撃を、リフィネが隠し持っていることに。
「ユミエ……お前も妾と同じだったのか! お揃いだな!」
「…………」
そんな悲しいお揃いはいらない──
ボッチ仲間を見付けたとばかりにキラキラとした笑みを浮かべるリフィネを前に、俺は力なくテーブルに突っ伏すのだった。
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