第48話 思わぬ襲撃者
リフィネの誕生パーティーが立案されることになったけど、じゃあいきなり招待状を出して来てくれる人がいるかというと……少し微妙だ。
いや、曲がりなりにも王女だから、来てくれる人もそりゃあいるだろうけど、リフィネのこれまでの言動を振り返ると、喜んで来てくれる人はさほどいないだろう。何かと理由を付けて断る人だって、一人や二人じゃないはずだ。
だから、まずはリフィネが変わったのだということを、離宮のみならず貴族社会に浸透させなきゃならない。
「というわけで、まずは私の友達を招待しました。モニカ・ベルモントさん……知ってますよね?」
「ああ、魔法が強いとかで有名だった令嬢だな、もちろん知っているぞ。妾が殴りかかったら、腰を抜かして逃げ出したがな」
「あ、あはは……」
変わった……んだよな?
いや、うん、少なくともいきなり殴りかかるようなことはしなくなったはずだし、きっと大丈夫だろう。うん。
「姫様!! ユミエ様ーー!!」
「む? メイ、どうした?」
俺がそこはかとない不安を覚えていると、リフィネの専属メイドであるメイが、慌てた様子で駆け込んで来た。隣には、困り顔のリサもいる。
二人揃ってどうしたのかと思っていると、メイは必死の形相で叫んだ。
「大変です。王宮に襲撃者が!!」
「襲撃!? どういうことですか!?」
リフィネの命を狙ってる人間がいるかもしれないという話を聞いたばかりだ、襲撃者と聞いて心穏やかではいられない。
いや、襲撃先が王宮なら、狙いはむしろシグートだろうか? どちらにせよ心配だ。
そう考えて、勢いよく立ち上がった俺は……続く言葉に、思わず脱力してしまった。
「グランベル家が、娘を返せと乗り込んで来たんです!! 騎士団を引き連れ、それはもう戦争すら辞さないという雰囲気で、今も対応している王子と『娘を返せぇ!!』と凄まじい口論を……!」
「……は?」
呆然としたまま、リサの方をちらり。
視線で本当なのかと問い掛ける俺に、リサは呆れ交じりの表情でこくりと頷き……俺は、その場に崩れ落ちるのだった。
「王子!! うちの娘はどこにいるのですかな!?」
「ですから、今は離宮に……僕とは関係ありませんので」
「白々しい!! いくらうちの娘が可愛くて仕方がないからと……娘はやりませんぞ!!」
「グランベル卿、話が噛み合ってないのだが……」
目の前にいる王子よりもむしろ、周りに聞かせようとしてるんじゃないかってくらい大声で叫ぶお父様の声は、離れた場所からでも本当によく聞こえた。
王宮へと続く正門の前、もっとも人通りの多い場所で親バカ全開の雄叫びを上げる父親を目の当たりにし、さすがの俺も顔から火が出るんじゃないかってくらい恥ずかしい。
「お父様、何してるんですかぁーーー!!」
「おおユミエ、お父さんが迎えに来たぞぉ」
俺が叫びながら駆け寄ると、お父様はさあ飛び込んでこいと言わんばかりに両腕を広げている。
素直に飛び込むのも癪だったので、力の限り体当たりしてみるのだが……残念ながら、俺の体格では大した威力はなかったようで、笑顔のまま受け止められてしまった。むぅ。
「おお、そんなに寂しかったのか? よしよし」
「お父様、お髭痛いです……」
思い切り頬擦りしてくるお父様に、俺は苦言を呈するものの……あんまり聞いてる感じはしない。
というか、今の今まで鬼の形相でシグートと言い争ってたお父様が、俺が来た途端デレッデレになってるもんだから、道行く人がお化けでも見たかのように驚いた顔になってるんだよね。
お父様、恥ずかしいから離れて。切に。
「ユミエ、大丈夫か? どこも怪我してないよな?」
「ユミエさん、助けに来ましたわよ!」
そうしていると、お父様の後ろからお兄様と……モニカまでもが現れて、俺の下に駆け寄ってきた。
思わぬ組み合わせに、俺は目を瞬かせる。
「あれ? モニカさん、お父様達と一緒に来てたんですか?」
「当然ですわ! ユミエさんが帰ってくるまではと、グランベル家にずっと居候してましたもの」
「えぇ……」
それでいいのか、ベルモント家。
というか、モニカ宛に送った招待状、送り先をベルモント家にしてたから、この襲撃がなかったらモニカは王宮に来れてなかったのでは?
「それとお兄様、怪我ってどういうことですか?」
「モニカから聞いたぞ、王女は誰彼構わずすぐに殴りかかるような奴だって。ユミエがやられていないか、心配で心配で……」
「あれ? それに関しては、私もお手紙を出したはずなんですけど」
リフィネは思ったより良い子だったから、大丈夫だって内容で。
「うん? 来てないぞ。事故か手違いで届かなかったんじゃないか?」
「えぇ!?」
そんなことある!? と思うけど、魔物も盗賊も普通にいるし、車みたいな便利な移動手段もなく紙媒体一つでやり取りしなきゃいけないこの世界では、こういうのはよくあることらしい。
うぐぐ、失念していた……。
「えーっと、それで、最後にお父様……騎士団まで引き連れて、こんな場所まで来て……お仕事は大丈夫なんですか?」
「心配するな、リフィアに任せてある。行ってこいと快く送り出してくれたぞ」
「お母様ぁーー!?」
ダメだうちの家族、早くなんとかしないと。
そう思うのだが、今は何よりもまず、この場を収めないことには落ち着いて話も出来ない。
「取り敢えず、シグ……王子。お父様達の誤解は私が解きますので、中に入れて貰ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。とはいえ、こんな急な訪問で、王宮に通すわけにも行かないからね。離宮の方に連れていってくれ」
「はい、ありがとうございます」
周りの目を気にして、以前のように"王子"と呼んだ俺に、シグートもまた王子らしくそう指示を出す。
本当に、どうしてこうなった……。
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