5.勇者休憩する


 聖剣を手に入れて再び家に戻った俺たち。


 その間にもキメラとかヒドラとか、わんさかと現れたが三人の勇者達はバッサバッサと倒し、楽勝で居間にたどり着いた。


 居間に入ると、祖父母は居間から続く縁側でお昼寝。

 父親は新聞を読んでいて、乃愛は宿題をちゃぶ台でやっていた。

 母親は台所で夕食の下準備をしている。



「――ふう、疲れた。ちょっと体力回復のポーションを飲ませてくれ」


 ハテンはちゃぶ台前にドッカリと座るなり、懐から瓶に入った紫の液体を出して飲み干した。


「にがっ」


 ハテンはポーションを飲み干して、苦虫でも噛み潰した表情をする。


「良薬は口に苦し」


 そう言いながら、眉間に皺を寄せて同じポーションを飲むリード。

 リアは緑のポーションを飲んでいる。魔力回復なのかもしれない。そして「酸っぱ……」と呟いている。


「そんなに不味まずいなら、これ飲みますか?」


 新聞を読んでいた父親が立ち上がり、冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出して、三人に配った。


「……これは?」

「リボビ○ンDです。美味おいしいですよ」


 ハテンが恐る恐る、栄養ドリンクを一口飲んだ。


「!!……うっま!」


 そして一気に飲み干す。

 そんなハテンを見て、リードとリアも栄養ドリンクを飲んだ。


美味うまい……!」

美味おいしい!」


「ははは、ヤク○ト1000もレッド○ルもありますよ」


 父親は嬉しくなって、マイドリンクを次々と勇者達に与える。


「すげえ、ポーションよりも体力回復しているぞ!」

「イエノブのお父さんは崇高な薬師か何かですか?」


「……いえ、しがないサラリーマンです」


 と、恥ずかしそうに眼鏡をクイッと直す父親。


「ねーねー勇者さん! 魔王はこの家のどこに居るの? あたし、部屋に辞書を取りに行きたいんだけどー?」


 両親祖父母よりは、勇者達の話を信じている乃愛は、本当に魔王がいると仮定してずっとここに居たらしい。


「分からないわよ。自分から「ここにいまーす」なんて言う魔王なんて居る?」


「たいてい、ダンジョンは辿。つまり、必然的に行くべき場所にいる可能性が高い」


「じゃあ、私の部屋は大丈夫かな?」


 と、乃愛は立ち上がる。

 すると、リードもスッと立ち上がり、


女性レディの一人歩きは危険です。私が一緒に行きましょう」


 と、乃愛の手を取るリード。

 乃愛は「え? え?」と顔を赤らめて動揺し、その光景を見ているハテンとリアはものすごく白けた顔をしている。


 父親も「ちょっと待て!」と立ち上がり、


「お前! 気さくに女子の部屋に入ろうとするとは、一体どういう教育を受けたらそんなうらやましい事が出来るのか!」


 と、リードの肩を揺さぶり続ける。


「……お父さんも心配なら、一緒に行きますか?」


「お前のお義父さんになったつもりは無い! ヤクル○1000返せ!!」


「パパは黙って!……あの、本当に一緒に行ってくれるんですか?」


 乃愛が頬を赤らめてリードを見上げる。

 無駄に顔の良い(というか、三人とも顔がすこぶる良い)リードが微笑み、


「もちろんです。どこまでもお供致しますよ、姫」

「姫って、あたしの事……!?」

「僕だって地獄の果てまでお供しますけどね!」と父親。

「もちろん、お父さんも命がけでお守り致しますよ!」


 と、父親と乃愛とリードはギャイギャイ言いながら、居間を出て行った。



 沈黙が流れる居間。


 すると、ぽつりとリアが言った。


「あいつのあだ名教えてあげようか?『三国一の女ったらし』だから」

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