4.『せいけん』を探して
田舎ならではの無駄に広い庭の一角に
その犬小屋前で勇者ハテン一行は、くるんとした尻尾をフリフリと揺らし、キラキラとした目で彼らを見上げる雑種の
ちなみに彼の雄たけび声が「ジャパァ~ン」と言うので
「……!?……!?」
ハテンは声を失い、リードとリアに最終確認をするが、二人も「違う」とばかりに首を横に振る。
「だから犬だって言ったでしょ?」
「だって、
「
「待って!」
リアが、突然杖を構えた。
「この辺りに禍々しい気配がする!」
その言葉にハテンとリードが俺と
すると『クックック……』と、どこからともなく第三者の声がした。
――――俺の腰下辺りから。
「イエノブ危ない!!」
ハテンが俺を突き飛ばした。
俺はそのまま砂利にスライディングする。
衝撃と摩擦で顎や手のひらがめちゃくちゃ痛い。
「な、何するっ……!」
「イエノブ、逃げろ!」
振り向きざまに、俺の視界に広がるのは鋭い鋭利な爪だった。
喉に突き刺さる数センチ前で、リードの蹴りが
信じられない光景が目の前に広がっていた。
巨大化した紅は再び悪役っぽい『クックック……』笑いをして、
『我が名は暗黒魔王の腹心、大魔術師ミスタァ〜・エックス!』
と、ミスター・エックスと名乗る元・
『勇者ハテンと以下同文、死ね!』
「お前は馬鹿か! 同文だったら、全員オレだ!」
――なんて言いながら、哀愁漂うオーケストラ曲が流れ始め(多分、ボス曲)ハテンとミスター・エックスの攻防戦が始まった。
ハテンも勇者と名乗るだけあって見事な剣裁きを見せているが、魔王の腹心だというミスター・エックスの鋭い爪裁きはそれ以上で、ハテンを庭のブロック塀に追い詰める。
――そして。
キィイイン! という金属音と共に、ハテンの剣が宙を舞い、祖父の盆栽棚を破壊しながら、地面に突き刺さった。
(つか、さっきからミスター・エックスは大魔術師なのに、物理攻撃なのはなんで?)
リードとリアが加勢しようとするが、ミスター・エックスがハテンの喉元に爪を突き立てた。
『おっと、変な真似をすると、こいつの命が危ないぜ』
ギリッと奥歯を噛むリード。
「くそっ、聖剣があれば……」
「え? そういう問題?」
「たいてい、聖剣レベルの武器になると、持っているだけで付与される加算ボーナスでどんな敵もなんとかなるものだ」
「なーる、攻撃力+20みたいなやつか!」
「そうそう! イエノブ君、ラストダンジョンに住んでいるだけあって、よく知っているわね!」
その時だった。
「
屋内から、のんきな母親の声が庭に響いた。
「なんだよ~! こっちは取り込み中だから! 行くの無理!」
すると、勝手口からサンダルを履いた母親が、一本の小さな刃物を持って来た。
「台所の包丁置き場に、変な包丁が一本あったのよ~。これが業者さんが探している剣じゃないの~?」
「「「「あっ!」」」」
それは金色に光輝く小さな剣だった。
それを握りしめている母親。
「そ、それは勇者しか抜けない『聖剣マジヤバイヤー』!」
「するっと抜けたわよ?」
「って、事は貴女様が本当の勇者!?」
「何言ってんの」
と、母親は呆れた口調で喉元に爪を突き立てられているハテンに剣を手渡した。そして、ミスター・エックスを見上げて、
「あら、
と笑いながら、再び勝手口から台所へ戻っていく。
ぽかんとする一同。
その隙をついて、ハテンはミスター・エックスを聖剣で切り裂いた。
『ああああああ~……! そんな馬鹿なっ……!!』
ミスター・エックスの体が小さくなるにつれて、黒いガスが頭上から抜けていき、再び尻尾を振り、目を輝かせて「ジャパ~ァン」と吠える可愛い
――最後までミスター・エックスは、魔法を使わなかった。
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