10.女勇者は、足元の「異世界の歴史」を調べた! なんと「産業構造」を見つけた!

 

◆ミナァート王国・中央通りにある商人ユウジの店(兼住居おうち)――


女勇者タカコ「んぅ~商人ユウジの淹れる紅茶は美味しいですねぇ~♪」

男商人ユウジ「一応言っておくが、うちは喫茶店じゃないからな?」

女勇者「(←聞いてない)うわ、この紅茶碗ティーカップ、猫と魚の模様なんだ?

    かわいい~これ女勇者わたし用にしちゃお♪」

男商人「バーロー、勝手に自分用マイカップにするな」

女勇者「せやかて商人ユウジ、漆塗り木製の紅茶碗ティーカップとか少し贅沢やん!」

男商人「女勇者タカは高校生探偵だったのか……」

女勇者「あ、そう言えばこの前、商人ユウジは「服飾・雑貨などの日用品」が

    日本むこうより異世界こちらの方が高価たかめなのは、生産技術の関係だ――とか

    言ってましたよね?」(※第9話参照)

男商人「おう、そういや説明してなかったな。それじゃあ今回は、この

    異世界『リーフエンド』の文明水準レベルについて少しだけ話そうか」

女勇者「わいわーい」



男商人ユウジ「そもそも、この異世界『リーフエンド』の住人であるエルフ族

    は美しい自然との共存をとうとむ、穏やかで物静かな種族だ。彼らエルフ

    には生活の糧ひつようなものは『住み暮らす森から分けてもらう』という理念かんがえ

    がある。例えば、食糧たべものの調達は森での採取と狩猟が主であり、

    農業は小さな庭先菜園をいとなむぐらいだ。衣類や家具などの生活

    雑貨は、必要な分だけを、動植物を材料に自ら手作りする――

    まさに『自給自足の暮らしぶりスローライフ』だな」

女勇者タカコ「木々の新芽を残し、森の動植物を無暗むやみに傷つけない……まさに

    森の妖精エルフですよね。あぁ~素敵ステキだなぁ~中二病こころがぴょんぴょん

    するんじゃぁ~♪」

男商人「難民救助はよコイツ何とかして……。一方、かつての彼らエルフは土地の開墾を好まず、

    「都市部」を形成しなかったため、その生活基盤は森の平地に

    数世帯が集まって暮らす「集落」程度ぐらいの小規模なものになった」

女勇者「今でも森の中には「エルフの隠れ里」がいくつもありますよね」

男商人「ここで面白いのが、地球むこうで提唱されている「文明発展」の順序アプローチ

    との違いだな。地球むこうでは『効率的な食糧生産の発明』とそれを

    支える『人口集中』が揃うことで『余剰生産物』が生まれて、

    それを基礎いしずえにして『職業の多様化』と『階級の分化』が進むこ

    とにより文明が発展するとされている」

女勇者「へぇー…エルフの価値観ライフスタイルとは真逆ですね?」

男商人「おそらく彼らエルフの場合、種族特性である「数百年に至る長寿命」

    と魔法文明の基礎となった高度な「文字言語」が、エルフ族の

    歴史・文化・知識などの共有および継承を成したのだろうな」

女勇者「なるほど、じつに興味深い」(←教授ガリレ●っぽく)



男商人ユウジ「ただし、このような彼らエルフの『自給自足の暮らしぶりスローライフ』が異世界こっち

    の「第二次産業」の発達を遅らせてしまったとも言える」

女勇者タカコ「ダイニジサンギョウ? 異世界こっちにも同人誌あるんですか!?」

男商人「二次創作のことじゃねーから。第二次産業ってのは、英国イギリスの経

    済学者コーリン・クラーク氏が提唱した古典的『産業分類』の

    ひとつだよ」


◇クラークの産業分類◇

 ・第一次産業……自然界に直接働きかけて富を取得する産業。

         (例:農業、林業、漁業、鉱業など)

 ・第二次産業……第一次産業で採取・生産した原材料を加工して富を

         作りだす産業。

         (例:製造業、建築業、電気・ガス業など)

 ・第三次産業……上記に分類されない産業。サービス業などの無形財

         により富を創造する産業。

         (例:小売業、金融業、飲食・運輸などのサービス業など)


男商人ユウジ「クラーク氏は、長期間にわたる各国のデータを分析して『社会

    の発展にともない、産業の比重や労働力が第一次産業から第二

    次産業へ、さらには第三次産業へと移行シフトしていく』ことを提唱

    したんだ。これを『ペティ・クラークの法則』と呼ぶ」

女勇者タカコ「そう言えば日本あっちにいた頃、農業(第一次産業)の後継ぎ不足と

    かよくニュースになってましたよね?」

男商人「うむ。途上国では第一次産業の比率が、先進国では第三次産業

    の比率が高くなる傾向にある。例えば日本だと、第三次産業が

    国内総生産GOPや労働人口の約7割を占めているからな」

女勇者「なるほど~。ちなみに冒険者わたしたちの「冒険業」は、やっぱり第三次

    産業ですか?」

男商人「そうなるな」



男商人ユウジ「ちなみに、異世界こちらの産業構造が変化シフトした転機きっかけは――魔物モンスターの出現

    と、冒険者おれたちを異世界召喚したことだ」

女勇者タカコ「あ、冒険者わたしたち魔物モンスター退治に専念できるようにですね?(ドヤ)」

男商人「正解ピンポーン。せっかく主戦力として冒険者おれたちを誘致しても、食糧の余剰

    生産が無ければ冒険者おれたちの生活を保障できないからな。彼らエルフは、

    自然界の運行を司る「精霊魔法」を農林漁業に応用することで

    『効率的な食糧生産方式』を考案し、まずは第一次産業を急速

    に発展させたんだ」

女勇者「かわいい小妖精エルフたんが作った農作物ですか……これは一部の人間に

    高く売れそうですね」

男商人「おまえ天才だな!?」


女勇者タカコ「それじゃ、エルフが『ミナァート王国』を建国したのも冒険者わたしたち

    の生活圏を保障するためですかね?」

男商人ユウジ「うむ。魔物モンスター侵攻に対する防衛拠点でもあるが、冒険者おれたちの生活

    に関わる領域――宿泊ホテル業・小売業・飲食業などの第三次産業を

    発展させる過程で自然と「都市部」を形成するに至ったらしい」

女勇者「あれ、第二次産業は置いてきぼりですか?」

男商人「第二次産業の発展は少し遅れて、優れた鍛冶屋であり錬金術の

    造詣ぞうけいも深い「ドワーフ族」が、この異世界リーフエンドに冒険者として召喚

    されたことを契機きっかけに高度化が進んだらしいぞ」

女勇者「おぉ~今度は「大地の妖精ドワーフ」の登場ですか♪」

男商人「ただ、彼らドワーフの技術領域(主に鍛冶・石工)と「手作りの一点物フルオーダーメイド

    にこだわる職人気質がんこさから、生活用品の量産には不向きだったよ

    うだけどな」

女勇者「ふむふむ。「服飾・雑貨などの日用品」が日本むこうより異世界こちらの方

    が高価たかめなのは、そういう背景があったんですね!」



女勇者タカコ「ところで、商人ユウジさんはドワーフに会ったことあるの?」

男商人ユウジ「商売上、俺は何回か会ったことあるけど……彼らドワーフは偏屈屋だか

    らな。会ってもらえるまで大変だったよ」

女勇者「あぁ~女勇者わたしもドワーフに会ってみたいなぁ~。錬金術も見て

    みたいです!」

男商人「ふむ。たしかに錬金術はあまり見る機会が少ないが、その恩恵

    は身近にたくさんあるぞ。例えば……この店にも使われてる

    「窓ガラス」とかな?」

女勇者「え、あの「窓ガラス」が錬金術なんですか?」



<次回につづく…!>

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