第十二話 "紅雪の花の如く" / 後編

 いざ、決戦……の前に、クセナウイからもらっていた餞別(12000G)を使って、買い物をしていたことにできるらしい。


 〈スカーレットポーション〉2個、〈マテリアルカード/緑A〉20枚、〈魔晶石(3点)〉3個、〈月光の魔符〉のⅠを2個にⅡを1個。これくらいにしておくか。

 ……この後、もう一戦ありそうだしな。

 〈信念のリング〉も欲しかったところだが、これは枠が空いていないので諦めておいた。〈ディスプレイサー・ガジェット〉まで合わせて買うだけの金も無い。


 そしてもうひとつ。本来は『プラトーンにウルリサとサヤリを入れることが強制される』だけなのだが、せっかくなので、『そもそもその二人しかプラトーンにいない』という話で進めることにする。

 ヤザンの麻痺毒もない、アルナブの支援もない。バチバチの殴り合いだ。


 まずは敵データの確認。ニオ改め〔アマーチュアヴァンパイア〕は、そこそこの基礎ステに加えて、神聖魔法レベル7と真語・操霊魔法レベル5も備えている。

 吸血鬼らしく、HP吸収攻撃も持っているが、物理攻撃であるなら避けてしまえば問題ない。近接攻撃とは別の主動作行動であるため、《マルチアクション》との併用もできないので、そこまでの脅威ではないだろう。

 ギミックは、前線エリアに〔大岩〕がふたつと、地面全域に雪が積もっていて、常に足場が悪い状態だ。もちろんニオは飛行能力持ちなので、これを無視できる。


 先制判定、まずは勝ち取った。《ファストアクション》を手に入れたことだし、初手で一気に削ってしまいたい。


フィオラ:「まさか、手加減なんか考えちゃいねえよな?───まずは、地面にちゃんと足着けてくれや」


 [輝く肉体]でペナルティを入れつつ、【キャッツアイ】【ガゼルフット】【メディテーション】【ヴォーパルウェポンS】。そこから“剣の恩寵”を宣言し、ありったけの力を込めて〈投げ〉をかます───(コロコロ)命中。転倒させて、更に《踏みつけ》からの《ファストアクション》で二連キックを叩き込み、トータルで48点。サウリルの【リープ・スラッシュ】で追撃して更に16点、残りは53点になった。


 ニオは大岩に隠れつつ、反撃で《マルチアクション》【フォース】と近接攻撃。精神抵抗・回避共に成功し、被ダメージは3点で済んだ。


 2ラウンド目、ニオへ再び〈投げ〉をした(コロコロ)(自動失敗)かった。

 大岩に隠れられてしまうと、別エリアからは視認できなくなってしまうので、ここは後方で待機していた姉妹にも前進してもらっておく。


 そしてニオの反撃、岩から飛び降りながらフィオラを狙うが、これはなんとか回避。出目8必要なので、《シャドウステップⅡ》込みでも割と油断ならない命中率だ。

 その後の《マルチアクション》では【キュア・ハート】をして回復、のこり71点に。このままじわじわと回復されていくと、姉妹のMPが底を尽きるのが先となるが……


フィオラ:「しぶてえ野郎だ。さっさと諦めたらどうだよ」

ニオ:「お互い様だろう───っ、また更に、賑やかになりそうだな」


 そんな拮抗状態のところへ、突然甲高い鳴き声が響いた。ゴールデングリフォンのものである。

 2ラウンド目の終了時から、キャラバンの仲間と共に加勢し、ニオに2d+6の物理ダメージを与えるか、フィオラの行動判定1回に+1の修正を与えてくれるらしい。


サヤリ:「グリフォン達が急に飛び出したものだから、慌てて後を追ってきたら……どうしても、争いは避けられないのかしら」

ニオ:「……あぁ。悪いが、こちらも譲れなくてな」

サヤリ:「そう。……なら、もう協力関係はおしまいね」


 このラウンドは、グリフォンの攻撃がニオに命中、8点与えてくれた。


 3ラウンド目、正直〈投げ〉が当たるかと言われると怪しい(要出目9)。ここはこちらも大岩を利用するか。

 岩から飛び降りての攻撃であれば、足場が悪いことによるペナルティを無視できるので、実質命中+2のボーナス修正を得られる。悪くない選択だろう。


 ということで、ここは一度大岩に隠れつつ、余っていた〈ヒーリングポーション+1〉を飲んで回復。サウリルも大岩に隠れてもらいつつ【リープ・スラッシュ】で16点、【キュア・ハート】の回復を相殺しながら耐えてもらう。


 ニオの反撃は、変わらず《マルチアクション》【キュア・ハート】。近接攻撃は《シャドウステップⅡ》パワーでギリギリ回避し、回復は17点。

 援軍の支援は、フィオラの行動判定に+1。ここで決めたいところ。


 4ラウンド目、【キャッツアイ】【ガゼルフット】だけ入れ直して、岩から飛び降りながらの〈投げ〉───(コロコロ)(自動失敗)こいつこの期に及んでまだ稼ぐ気か。

 ……まぁ、やってしまったものは仕方ないので、サウリルに【リープ・スラッシュ】をさせてこの手番は終了。

 今度はニオが大岩に隠れながら『吸血の牙』をするが、これはなんとか回避した。

 援軍はニオを攻撃するが、岩による防護点増加(+4)を突破できずノーダメージ。


 以降も、泥沼の戦いが続く。5ラウンド目は【リープ・スラッシュ】を見守りながら〈投げ〉を外し、ニオは攻撃を回避されつつ、援軍に攻撃されながらも差し引き17点回復。

 6ラウンド目、今度はこちらが大岩に隠れる。【キュア・ハート】は出目が奮わず、【リープ・スラッシュ】のダメージと差し引きしてHPが2減る形に。

 そして援軍は、フィオラの行動判定に+1。


 7ラウンド目、回避はできると信じて【キャッツアイ】だけをかけ直し、飛び降りながらの〈投げ〉。ようやく命中するが、《踏みつけ》は外してしまい、【リープ・スラッシュ】と合わせて35点、残り12点で留まった。

 ニオは岩に隠れながら『吸血の牙』を外し、【キュア・ハート】で20点回復。


 8ラウンド目、MPの尽きた姉妹は通常攻撃(4ダメージ)をするのみになった。フィオラは運良く〈投げ〉を当てるも、ダメージは奮わず、《踏みつけ》も外して6点与えたのみ。

 ニオの反撃はとうとう命中し、フィオラに21点。【キュア・ハート】は14点の回復、援軍の支援はフィオラの行動判定に+1。


 9ラウンド目、支援もあるしここはこのまま通すか、と〈投げ〉を決行、無事命中。今度は《踏みつけ》も当たって、姉妹の攻撃含めてトータル32点、残り3点に。

 だが【キュア・ハート】で回復されて、23点まで戻される。



 …………という感じの流れが、19ラウンド目まで続いた。とんでもない泥仕合だった。

 練技が切れてからは攻撃が当たらず避けられず、しかし【ヒールスプレーA】でギリギリ耐えながらニオのMPが切れるのを待ち、最後は姉妹と援軍の地道な削りによって、ようやく決着がついた。

 いやぁ……足場が悪い環境での戦いって、こんなに辛いんですね。ドルイドの皆さん、いつも【ウイングフライヤー】をありがとうございます。


 剥ぎ取りの成果は1300G。【ヴォーパルウェポンS】の時点で既に赤字なのに、そこへ〈魔晶石〉だの【ヒールスプレーA】だのの消費もあったので滅茶苦茶マイナスである。

 まぁ、もう物語も終わりも近いので、良いと言えばいいんだけど。


 ◇ 黒幕 ◇


フィオラ:「……勝負あったな」


 鮮血によって、鈍い赤色に染め上げられた雪の上に、ニオは倒れた。

 空を睨みつけるようにしているところへ、とどめの一撃をくれてやろうと、フィオラが一歩、また一歩、近づいていく。


サヤリ:「待って。本当に、彼を殺してしまってもいいのかしら」


 強く握った拳を振り下ろそうとしたその時、サヤリが間に割って入った。

 どうやら、何か思うところがあるらしい。


フィオラ:「……雪山にいる間に絆された、って訳じゃねえよな?」

サヤリ:「えぇ。……冷静になって、考えてみて。どうして彼が、〈時の卵〉を手に入れようとしたのか。まだ分かっていないでしょう?」

サウリル:「それは……確かに。フィオラの邪魔をしたかっただけなら、卵を完成させる必要はないわよね」

ウルリサ:「ということは……また別の理由で、それを求めていた?」

サヤリ:「そう。それに、黄金竜との約束があったとはいえ、彼は幼い子供の命を守っていたわ。わざわざ、私を攫ってまでして。きっとまだ、良心がほんの僅かだとしても、残っていると思うの」

フィオラ:「だから見逃してやれ、ってか。……いや、待てよ。そういやこいつ、まだ吸血鬼としては不完全なんだっけか」

サヤリ:「それもあるわ。彼は今、完全なる吸血鬼になるための儀式の最中、なんでしょう?……なら、その儀式ごと、〈時の卵〉で無かったことにできれば」

フィオラ:「……ただのエルフに戻るかもしれねえ、か。……分かった。こいつの返答次第で、サヤリの案に乗ってやる」


 どうせこの瀕死の重体では、まともに動けるようになるまで時間がかかる───マカブへ戻るのに充分なくらいの時間が。

 ここはひとつ、賭けてみることにして……ついでに尋問をするために、喋れるようになるのを暫し待つ。


ニオ:「……げほっ……相変わらず、甘いな。殺しまではできないか」

フィオラ:「図に乗んな。生かしてやるかどうかはこれから決める。……お前、なんで〈時の卵〉が必要だったんだ?」


 問いには、答えない……かと思いきや、足掻いたところで無駄だと諦めたのか、力なく口を動かし始めた。


ニオ:「……頼まれたのだ。ある者からな」

フィオラ:「どこのどいつだ。ヤミアデミア周りの奴か?それとも魔神か?」

ニオ:「誓約が、ある故な……直接、それを言うことはできない。だが、お前も知っている者だ」


 視線を……もとい、顔を空からこちらへと向けて、まるで何かを託すかのような声で、続ける。


ニオ:「我に、永遠の命を手に入れろと囁き、その方法を教えた者。無貌の神の神殿の秘密を知り、英雄の出現を待ち望んでいる者。〈焔蠍の鉄槌〉の在り処を、最初から知っていた者─────そして、〈時の卵〉を必要とする者」

フィオラ:「……まさか」

ニオ:「……ふっ。我の口から言えるのは、ここまでだ。後は、お前がどうするか決めると良い」


 今の言葉を信じるなら、すべての黒幕と成り得る人物は、たった一人。

 そしてその人物に……フィオラは、ところだ。


 気がつくと、雪は止んでいて、朝日が雪原を照らし始めた。

 サヤリは、駆けつけてくれたグリフォンの一匹の背にニオと自分を乗せて、キャラバンの天幕から離れるようにして飛び立っていく。


サヤリ:「吸血鬼は、日に当たるといけないのよね。……ひと目に付かない所に隠れているわ。ウルリサ、サウリル。申し訳ないけれど、メゼー達に、上手いこと言い訳しておいてくれるかしら」

サウリル:「はー……ほんと、お人好しばっかりなんだから。……気をつけてね」

ウルリサ:「もしかしたら、バレちゃうかもしれないけど……でも、なんとなく、クセナウイ様は、目を瞑っていてくれる気がするわね」

フィオラ:「かもな。……っと、あたしもそろそろ行かねえとな。最終決戦の第二ラウンドが待ってっからよ」

サウリル:「……あんたも、気をつけなさいよ。それと……元気でね」

ウルリサ:「えぇ。どうか、テケルロコ様の、正しき導きがあらんことを」

フィオラ:「はは。これからその神様の神殿に殴り込みに行こうってのが、中々笑える話だよなぁ。……一年間、楽しかったぜ。ありがとよ」


 サヤリ一家に別れを告げて、フィオラもグリフォンの一匹を借り、西へと向かう。


 一年前に旅立った、故郷へと帰るため───

      ───そして、物語の、本当の終わりを迎えるために。


 ◇ リザルト ◇


 経験点は2870、名誉は8d6で23、能力成長は筋力が出た。

 報酬金は無いが、出発前に済ませたものとして、最後にもう一度だけ買い物の機会を与えてもらえるらしい。

 アルケミストを3に上げて【バークメイル】を習得、マギテックを2に上げて〈マギスフィア(小)〉を買っておく。あまりにも命中が厳しいので、【ターゲットサイト】でも使えるようにしておくか、という考えからである。

 それから〈マテリアルカード/赤S〉を一枚と、残った7000Gはすべて〈魔晶石(3点)〉にして、23個購入。これで準備完了だ。



 次回、本当の最終決戦です。

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