第十二話 "紅雪の花の如く" / 中編

 ゼンドリファーエンに送られた先で、早速戦闘……の前に、吹雪の夜は月明かりだけではまともに前を見通せないため、手には〈たいまつ〉を持つことに。

 その後少し進んで、蛮族と遭遇。。敵は〔オーガ〕一匹と、〔ハイランドフーグル〕という、寒冷地に適応したフーグル種が二匹。

 オーガはともかく、フーグルは命中も回避も大したことは……と思ったが、雪の積もる地面は「足場が悪い」判定となるようで、フィオラとオーガだけ命中・回避に-2。さらに〔崖っぷち〕のギミックまであり、そこそこの命中・回避補正が生まれる環境となっている。

 〈魔香草〉は……まああるし、練技を入れてさっさと締めた方が良さそうだ。


 先制はこちらが取った。敵は全員前線に配置。

 まずは……オーガに【パラライズ】を通されると非常に苦しくなるので、そこからか。ひとまず【キャッツアイ】【ガゼルフット】と言いつつ、崖っぷちへ移動。《ファストアクション》込みで四連キックをしてみる(コロコロ)一発しか当たらず11点。手が塞がっていて〈投げ〉が使えないのが非常に苦しい。でも[輝く肉体]はニオ戦で使いたいしな……

 とりあえず、アルナブに【カウンター・マジック】を使ってもらってこの手番は終了。相手の手番に。


 相手はオーガが【パラライズ】を唱える(コロコロ)1たりず抵抗失敗、大人しく〈月光の魔符〉を破いておく。

 フーグル二匹は〔機動飛行〕を使って攻撃、《シャドウステップⅡ》のおかげでなんとか避けた。やはり最強の特技か。

 そしてこちらの2ラウンド目……の前に、雪原の第二のギミック効果がある。

 ラウンド終了時、2dの目が経過ラウンド数より小さければ雪崩が起こるというものだ。ピンゾロが自動失敗扱いになったりはしないようなので、1ラウンド目は特に何も起こらない。


 あらためて2ラウンド目、プラトーン部隊に前進してもらい、オーガへ攻撃。7点のダメージと、麻痺毒を与えてもらう。その後2連キック、今度は両方当たって27点。次でなんとか落とせそうだ。

 敵の2ラウンド目、先ほどと同じことを……するより、普通に殴ったほうがいいか。一発目は1たりなくて、《シャドウステップⅡ》でもう一回(コロコロ)(自動失敗)ここへ来てやりやがったな。顔面で受け止め、17点。

 続くフーグルは、〔機動飛行〕が無い手番なので2回*2回攻撃。一発当たり10点貰って、のこり19点に。


フィオラ:「やり辛えな、この地面……!オーガはどうにかする、回復くれ回復!」

ウルリサ:「えぇ。思ったよりも、厳しい戦いになりそうね」


 3ラウンド目、キックは一発だけ当たって12点、残り2点で倒しきれず。

 仕方がないので、ここは【ヒールスプレーA】とウルリサの【キュア・ハート】で立て直す。

 敵の反撃、オーガの攻撃に対して……手数が足りねえ、やるか。《カウンター》で蹴り返す(コロコロ)1たりない。今日のフィオラの出目の平均値4くらいしかねえぞ。

 まぁ……他に使えるものもない。仕方ないので22点を甘んじて受け入れる。フーグルの攻撃はなんとか躱して、雪崩も起こらず。


 これは……沼りそうだな。オーガへのトドメはプラトーン部隊に任せて、フィオラは一旦【ヒールスプレー】と〈ヒーリングポーション+1〉を使っておく。17点回復して、敵の手番。フーグルの〔機動飛行〕による攻撃はどうにか回避。


 5ラウンド目、フーグルの片方にプラトーンの攻撃とキック一発が当たって21点。相手は4回攻撃をフィオラへ(コロコロ)(2回鳴り響く自動失敗SE)今日でこのキャンペーン終わりかもしれません。


サウリル:「あの……大丈夫?」

フィオラ:「はは。大丈夫そうに見えるか?これ」

アルナブ:「言ってる場合じゃないでしょ……はやくもう一体倒しちゃおう、それで状況がよくなるから」


 32点受けて、6ラウンド目。【ヒールスプレーA】を入れるものとして……プラトーンは片方倒し切れれば回復、駄目なら攻撃か。先にフィオラが動く。

 二連キックを今度は両方当て、一発は一回転。トータル38点与えて、なんとか一匹撃破。プラトーンは【キュア・ハート】をしておいてもらう。

 残ったフーグルの反撃もどうにか避けて、7ラウンド目へ。


カデア:「……なんか、地面から違和感を覚えるな……もしかして、崩れそうなんじゃないか?」

フィオラ:「へぇ、雪崩が。……巻き込まれた場合、死ぬほど不味くねえ?」


 実際には2d+6点の水・氷属性魔法ダメージを受ける程度で済むのだが、まあ余計なダメージを負わないに越したことはない。

 プラトーンに通常攻撃をさせつつ、フィオラも二連キック(コロコロ)(ピンゾロ)(6ゾロ)もうだめだこいつ……とりあえず、6ゾロで当たった方が13点与えた。

 敵の反撃、一発食らって6ゾロ、20点。雪崩は起こらず8ラウンド目に。

 二発当たれば倒せそうだったが、そう上手くは行かず、単発ヒットとプラトーンの攻撃で17点、残り7点。

 【ヒールスプレーA】で念の為に回復したが、敵の攻撃はギリギリ回避成功、雪崩もなし。7点をプラトーンがぴったり削って、なんとか勝利した。


フィオラ:「ようやく倒れたか……目的まであと一歩だってのに、危うく負けるとこだったぜ」

ニオ:「まったく、先が思いやられるな?……まぁいい。やる事は済んだ、さっさと戻るぞ」


 ちなみに、ニオの方も蛮族と戦ってくれていたらしい。蛮族共からすれば、なぜ吸血鬼が、と思う場面だったのかもしれない。


 ともあれ、無事に戦闘を終えたので……剥ぎ取りをやってから帰る。

 成果は1480G。使った〈マテリアルカード〉が8枚と、ポーション代まであるしまあまあ赤字か。

 なんかもう一回くらい成長処理が入りそうだし、【バークメイル】と【ビートルスキン】を揃えておいてもいいのかもしれないな。


◇ 〈時の卵〉 ◇


ゼンドリファーエン:「終わったか。これで、あの子供に山を下りさせることができるな」

ニオ:「あぁ。……さて、黄金竜よ。約束の〈紅金〉だが、少し急いで貰えないか」


 争う音が止んだことに気がついてか、ゼンドリファーエンが迎えに来たところへ、ニオがなにやら交渉を始めた。


ニオ:「先程の小屋にいるエルフの娘が、マイドゥルスの高弟ヌイ・アッシャールの、失われた技術を身につけている。その技を、いまに蘇らせるために、我々は〈紅金〉、そして〈時の卵〉を求めているのだ」

フィオラ:「なーにが"我々は"、だっての……けど、卵が要るのは本当だ。可能なら、今すぐにでもな」

ゼンドリファーエン:「ふむ。……まぁ、良かろう。我が盟友に連なる技となれば、興味が無いでもない。懐かしき黄金の輝きが、再びこの世に蘇るというならば、その端緒に居合わせるのも、時の定めたるところであろう」


 まだ少女を送り届ける任務が終わっていないが、その前に〈紅金〉を譲ってくれるらしい。なんだかんだ話の分かる竜だな。


 その後、小屋で待機させていたファディヤを回収、再び吹雪の中へ飛び立つと……一行が最初に降り立った断崖の下へと連れてこられた。


フィオラ:「ここは……ただの崖っぽいけど。この辺りに埋めてんのか?」


 問いかけに答えることはなかったが、ゼンドリファーエンはそのまま崖へと近づくと───みるみるうちに、崖が溶けていく……否。そもそも崖ではなく、暗い色の氷によって閉ざされた洞窟だったようだ。


ゼンドリファーエン:「この先に、我のねぐらのひとつがある。行くぞ」


 言われるがまま、後ろをついていくと、やがて巨大な空洞に辿り着いた。

 積み上げられた黄金の財貨の奥で、ゼンドリファーエンは足を止め、振り返り、財貨の山の一箇所を爪先で指し示す。


ゼンドリファーエン:「これだけあれば、ひとつは作れるだろう。まずは受け取れ」

フィオラ:「……だってよ。お前が使うんだ、確認もここでしておけ」

ファディヤ:「うん。……でも、その前に。鉄槌を復活させてもらいましょう」


 一歩前に出たファディヤにそう言われ、〈焔蠍の鉄槌〉を託す。

 ファディヤは更に前へと進み、ゼンドリファーエンの顔の間近まで寄ると、鉄槌を掲げ、堂々とした声で、


ファディヤ:「ゼンドリファーエン様。〈紅金〉も有り難いですが、〈焔蠍の鉄槌〉に息吹を吹きかけて頂く約束も、この場で果たして頂けますか」

ゼンドリファーエン:「うむ、そのような約束もあったな。それが無ければ、〈時の卵〉も作れぬことだ。……少し待て、その場を動くなよ」


 そう言うと、その口からゆっくりと、極高温の炎が吐き出される。それは、まるで吸い込まれていくかのように、〈焔蠍の鉄槌〉へと向かっていく。

 そして、その玄能に触れると……鉄槌は瞬く間に灼熱し、黄金の輝きを放った。

 不思議なことに、ファディヤの手が焼け落ちるようなことは起こらないようだ。


ゼンドリファーエン:「これで充分だろう。さぁ、我が期待に応えよ。そして、盟友の技を披露してみせよ」

ファディヤ:「……感謝します。ゼンドリファーエン様」


 時間にして、僅か一秒にも満たない間の出来事に、一人と一匹以外が呆然としたままでいると、儀は終わったのか、お互いに一歩下がる。


ヤザン:「……まるで別人だな。それとも、あれこそが受け継いだ記憶によるもの……なのか」

カデア:「あんたとしては、少し複雑な思いもあるところか。……それで、ファディヤ。他に問題は無さそうか?」

ファディヤ:「大丈夫。少し、時間はかかるかもしれないけど……後は、見守ってくれるだけでいいわ」


 凛々しい顔でそう言って、ファディヤは即席の金床を作り、そこへ大量の〈紅金〉を並べる。

 ニオを含めた一行は、暫しの間、彼女がそれを加工するのを、黙って眺め続ける。


 槌が振り下ろされるたび、あたかもそこに極小の太陽が生み出されているかのような、強烈な光と熱が発せられる。巨大な竜すらも収まる空洞が、あっという間に、金属を融解させた高炉の中のように熱を帯びていく。


ファディヤ:「……でき、た……出来たわ。これが、〈時の卵〉よ」


 それが収まると、大量にあった〈紅金〉は、ふたつの楕円形に姿を変えていた。


ゼンドリファーエン:「見事。どうやら、術は正しく継がれたようだな」

フィオラ:「これが……ありがとよ、ファディヤ。それから、あんたも」

ウルリサ:「これで、あなたの故郷は救われ……いや。その前にもう一つ、やることがあるんだったわね」

サウリル:「そうだった。ほら、物が手に入ったことだし……って」


 振り返ると、我先にと、来た道を戻るニオの背中が見えた。

 ここですべきことは終わった、ということだろうか。


フィオラ:「……ま、いいさ。大方、ここからマカブを目指す間にでも、もっかい会いに来るんだろうよ」

シヴァニカ:「それが本当の決戦、ということね。……私達も、そこに連れて行かれるのかしら」

フィオラ:「……あぁ。そうだな。お前らにも来てもらえるとありがてえ」


 すべきことが終わったのは、こちらも同じではある。

 ゼンドリファーエンに礼を言って、一行もねぐらから外へと戻ると、吹雪が収まり始めた薄明の空を背に、ニオがこちらを振り返っていた。


ニオ:「じきに夜が明ける。我にとって、不利な時間だ。……だから、今日のところは退いておく」

フィオラ:「あぁ。二度と戻って来んな、とは言わねえよ。……決着、付けようぜ」

ニオ:「そうだな。……あの子供のことは、お前たちに任せる。キャラバンにでも連れていけば、黄金竜も納得するだろう。すべては、その後だ」

フィオラ:「……変なとこで律儀な奴だな。連れ帰る途中で襲われるもんかと思ってたんだが」

ニオ:「趣味ではない、それだけのことだ。……ではな」


 そう言い残して、ニオは飛び立った。夜明けということは、もう間もなく、我々の迎えも来るだろう。


カデア:「丁度、来たのと同じ所だ。ここで待ってようぜ」

アルナブ:「そうだね。……あ、僕はちょっと、仮眠取ってるね……zzz……」

フィオラ:「ぐっすりだなおい。……ま、あの吹雪の中、夜通し動いてたからな。あたしらも、帰ったらまずは寝させてもらおうぜ」

ウルリサ:「そうね……あっ。お母さんと女の子を拾いに、小屋まで戻る必要もあるじゃない」

ヤザン:「その辺りは……まぁ、グリフォン達が来てからでよいだろう。あの小屋は、それなりに快適そうだったしな」


 やがて、戻ってきたグリフォン達の背に乗せられて、サヤリと少女も回収。一行は無事に、山を降りてキャラバンへの帰還を果たすことができたのだった。


 ◇ 決着 ◇


 それから、半月後。雪山で傷と疲れが癒えた頃に、改めて、


クセナウイ:「……そうか。そうさね、そういう目的で、あんたはこのキャラバンに入ったんだった。そして、それは果たされた」

フィオラ:「あぁ。……世話になったな」


 〈時の卵〉を手にした今、キャラバンに残り続ける理由はなくなった───ここを去り、マカブへと帰る時が来たと、そう告げた。

 マウアーの吸血鬼化をなんとか止めているワリムの余命も、そう長くない。それまでに帰れなければ、この旅に、何の意味も無くなってしまう。


クセナウイ:「なにシケた面してんだい。一年近く共に旅した仲間の旅立ちだ、盛大に祝ってから送り出してやるよ」

フィオラ:「へっ、気前いいじゃねえか。それなら最後に、蓄えてる酒全部貰ってから、行かせてもらうか」


 クセナウイやプラトーンのメンバー以外にも、仕事を手伝ってやった名もなきモブ、クセナウイ以外のメゼーの面々……フィオラのことを親しく思ってくれていた者は多かったようで、送別会と冠された宴は、キャラバン全体を巻き込んでの大騒ぎになった。


 宴は夜まで続き、みな酔い潰れて……そろそろ月が沈む、という頃になって、ようやく終わりを迎えた。


フィオラ:「……ふぁ……あー、よく寝た。つっても、二、三時間ぐらいか」


 そして日が昇る少し前に、目を覚ました。

 他の者は、まだ酔い潰れているか、眠っているかだ。大騒ぎの後だ、一人で酒瓶を開ける気分にはあまりならない。


フィオラ:「……いや……別れの挨拶とか、ガラじゃねえしな。丁度いい、このまま一人で行くか」


 ここからマカブまで、せいぜい二週間。馬やグリフォンを借りる必要もない。

 それに……個人的な喧嘩も、ひとつ残っていることだ。


フィオラ:「とは言え、まだ少し、酔いが残ってんな……覚めたら出発、だな」


 意を決し、天幕を出ると、大平原は白銀に染められていた。

 眠っている間に降り始めたのだろうか、空からははらはらと、淡雪が舞い落ちている。もしかすると、また吹雪がやって来るのかもしれない。


フィオラ:「……もう一日だけ、なんて言ってたら、えらい目に遭いそうだな」


 もとよりそのつもりはないが……そんなことを考えながら、キャラバンから少し離れて、帰るべき故郷のある方角に視線を向ける。

 流石にここからでは視認できないが、マカブはいまだ、瘴気の霧に呑まれたままであるはず。マウアー以外にも、住民の多くを、半永久の眠りに就かせながら。


ニオ:「懐かしいか?それとも、マウアーのことでも想っているか」


 ふと、遠くから声がする。そちらを見ると、大岩の上に、奴が座っていた。


フィオラ:「……よう。今なら、キャラバンの連中はみんな夢の中だぜ」

ニオ:「そうか。……約二名、まだ飲み足りないようだが?」


 その言葉に驚きつつ、振り返ってみると……


サウリル:「どーせ、こんなことだろうと想ったわ。あんたにしては、飲む量が少ない気がしてたのよ」

ウルリサ:「ふふ。素直に、心配だから付いてきた、って言えばいいのに」

サウリル:「だまらっしゃい」


 そこには、軽口を叩き合う姉妹の姿があった。


フィオラ:「お前ら……はー。バカだなほんと」

サウリル:「あんたほどじゃないっての。……で?ここまで来てあげたんだから、タイマンさせろ、なんて言わせないわよ」

フィオラ:「はっ、恩着せがましい奴だなおい。……お前ら二人とも、止めたって無駄なのは知ってっからな。好きにしろよ」

ウルリサ:「じゃ、お言葉に甘えて。……あなたも、文句ないでしょう?」

ニオ:「……まぁ、いいだろう。ここで退いても、マカブで同じ問答を繰り返されるだけだろうからな」


 呆れたように肩をすくめた後、ニオは岩から飛び降りた。

 それに応えるように、こちらも武器を構える。


ニオ:「─────始めよう」

フィオラ:「あぁ。マカブの命運を懸けた、一世一代の大喧嘩だ」



 ─────次回、決戦から。

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