第十話 "嵐とともに" / 前編
~ あらすじ ~
リーム大司祭からの依頼で、地方西部・カルザーラ塩源の岬にある街・クワヘリへと向かい、闇カルテルの摘発に協力することになった一行。
そこで、以前(七話)世話になった……なったっけ……?まぁ情報提供などをしてくれた胡散臭い男・ジェイクと再会。話を聞くと、この街の闇カルテルのリーダー格である女レプラカーン・アーティアは、彼の恩人なのだという(アーティア側は特に覚えていなかったようで、言及はされなかった)。尋問などを行なうためにも、一行は彼女を生け捕りにすることに。
そして牢の鉄格子越しに話をしてみれば、なんと彼女は黄金のキャラバンの出身だったと言う。三十年前に起きた大盗難事件の主犯であり、その際に持ち出した品々の中に〈焔蠍の鉄鎚〉もあったらしく、新たな上司であるヤミアデミアにもそれを伝えたそうだ。それが現在、キャラバンが狙われている理由になっているのだろう。
色々と話が繋がったが、ニオに関する情報はまたも得られず。〈時の卵〉についても新たな手がかりは無し。再び捜査が難航しているような気がしてならない。
……とりあえずは、今回の依頼の報告をするためにも、一度キャラバンへ戻ることにするのだった。
あ、リアルタイム読者のみなさん、明けましておめでとうございます。気がついたら2月になってしまいましたが私は元気です。
~ あらすじおわり ~
◇ お待ちかねの ◇
フィオラ:「───つーわけで、仕事自体は無事に終わったぜ」
クセナウイ:「そうか。……アーティアの奴、少しは懲りるといいんだがな」
フィオラ:「知り合いだったのか?……って、そりゃそうか。あんたもこのキャラバンで生まれ育ったんだもんな」
クセナウイ:「まあね。つっても、あいつとは特に面識があった訳じゃないが」
クセナウイも、アーティアがメゼ・ルドラの娘であることは知っていたが、親しくも詳しくもなかったようで、特に何も言及はなかった。
この規模のキャラバンともなると、メンバーの全員と面識がある方が稀なんだろう。現代でも、同級生や同僚全員の顔と名前を覚えている人間は、まあ多くないのではないだろうか。
クセナウイ:「さて、帰ってきて早々で悪いけど、また仕事の話……と、嬉しいニュースだ。どっちから聞く?」
フィオラ:「美味いもんは先に食う派だ。ニュースから頼む」
クセナウイ:「オーケー。ブワナ・ペサとの面会についてたが、一週間後にこっちへ来る予定があってね。その時に会ってくれる、という返事が来たよ」
フィオラ:「おー、ようやっとか。これで少しは進展があるといいんだけどな」
キャラバンに所属してから半年あまり。ついに、グリフォン達の長と出会える時がやってきた。
〈時の卵〉や、その材料である〈紅金〉についての情報が、なにか手に入る……はず。そうじゃないとそろそろ手詰まりだ。
クセナウイ:「何について話すつもりなのか、までは伝えてないから、そこは自分で上手くやるんだね。……で、仕事の話だ。一週間あればこなせるような内容だから、安心して行ってきな」
フィオラ:「あいよ。で、内容は?」
クセナウイ:「ディクシャから来てるのは、ヒューマで仕入れた荷物を運搬するための、追加の馬車の護衛。それから……ルドラの方から、物資の輸送と探索の手伝いが欲しい、って話だ」
ウルリサ:「……この間のこともあって、ルドラの方は……気まずいわね」
サウリル:「『死んだってことにしといてくれ』、だもんね。気持ちは分からんでもないけど……頼まれた側はやりにくくて仕方ないっての」
フィオラ:「だよなぁ……ってことで、ディクシャの方で頼むわ」
クセナウイ:「はいよ。……ま、ルドラの奴には、そのうちあたしから伝えておくとするさ」
ちなみに、ルドラの方を選択した場合、やはりアーティアについての話を聞けるそうだ。 話に行くかどうか、死んだことにするかどうか、かなり意見が分かれそうなところである。
ということで出発、の前に買い物とプラトーン編成の時間。
前回と同じく、前衛にウルリサ、ヤザン、カデア。後衛にサウリル、サヤリ、アルナブの並びで決定。
正直、グリフォン抜きのメンツでも強いんだよな……プラトーンというシステム自体が、どう動かしても強いと言うべきか。
やはり、NPCという点も考慮して、フェローとして同行してもらうのが、ゲーム的には一番丸い気がする。次のゲームブックではフェローNPC復活させてくれよな(最新作のエンシェントブルーでもリストラされてたし)。
で、買い物。欲しいものを大体揃え終え、お金に余裕も出てきたので、ミドルで割ってつかうための〈知性の指輪〉をふたつほど買っておく。
その他枠の〈ブレードスカート〉の代わりに着けておき、クライマックスの気配を感じたら戻す、という形にしようと思う。
ほかは……〈月光の魔符〉のⅠとⅡも二枚ずつ仕込んでおくか。【カウンター・マジック】があってようやく人並み程度の抵抗力、という具合なので、あった方がよかろう。
◇ ひさしぶりの ◇
買い物を終えて、再びのヒューマへ。都市は第四話ぶり、ディクシャと会うのは第六話ぶりになるか。
物語も終盤、残る未到の地も、南東のゴルドラン公国とトリファのみ。そこに到達するまでは、既出の人物や土地との再会の機会が多そうだ。
そんなディクシャの元に、本隊から馬車を送り届ける。なんでも、色々と安く仕入れることができたため、予定よりも荷物が多くなってしまい、持ってきていた馬車だけでは足りなくなってしまったらしい。
カデア:「……で、馬車が増えるということは、当然護衛の手も増やさないといけない、ってことか」
ディクシャ:「話が早くて助かります。という訳で、帰りもどうぞ、よしなに」
ヤザン:「以前は、この手の依頼をよくこなしていましたもので。構いませんよ」
アルナブ:「僕はまーったく経験ないけどね……力仕事も苦手だし、有事の際の活躍にだけ期待して欲しいな」
フィオラ:「マジで物騒だからな、この辺。前に手伝いに来た時も、賊に襲われたよなぁ」
なおこの後、チャレンジとしてしっかり賊や動物の相手をすることになる模様。
〔14点の魔法ダメージを与える〕をサウリルに任せ、フィオラは〔危険感知判定/目標値14〕と荷運び(生命抵抗力判定/目標値15)に挑戦(コロコロ)……どっちも失敗して、疲労点を8点頂いた。幸先の悪いスタートである。
余っていたハーブとタブレットを使い、6点解消しておく。MPはともかく、HPが減るのは非常に困る。
ディクシャ:「……ところで、買い付けの最中、ヤミアデミアについての噂を耳にしました。共有しておきましょうか」
フィオラ:「おう、頼む。……あたしが用があんのは、そいつの連れなんだけども」
ヤザン:「出会った時も、そんなことを言っていたな。知り合いが奴のカルテルに所属しているのか?」
フィオラ:「ま、そんなとこ……か?これまでの情報的には、所属はしてないっぽいんだよな……」
帰り道の途中、ディクシャが奴に関する話を教えてくれた。キャラバン全体としても、動向は掴んでおきたいのだろう、情報収集に余念が無いようだ。
ディクシャ:「そういった話は、特にありませんでしたが……さておき。奴はどうやら、マーティアスでの失態に続き、クワヘリのアジトも失ったことで、立場が悪くなっているそうです。このままだと、派閥争いや下剋上が起こるかもしれない、という噂もありましたね」
サウリル:「ざまーみろ、って感じね。このまま大人しくオーレルムから去ってくれたら、文句無いのに」
サヤリ:「マーティアスに、クワヘリ……あら。両方とも、みんなが関わった件ね」
フィオラ:「言われてみれば。ってなると……もしかしてあたしら、目ぇ付けられたりしてるか?」
ディクシャ:「可能性はありますね。奴もこのまま黙っている訳にはいかないでしょうから、威厳を取り戻すためにも、またなにか仕掛けてくるはず。キャラバン全体でも警戒は怠りませんが、あなた達は特に、一層気をつけた方が良いかと」
ウルリサ:「ご忠告、痛み入ります。……だいぶ追い詰められてるみたいだし、本人直々に動いたりするかもしれないわね」
追い詰められた狐、もといディアボロはなんとやら。蛮族と魔神のハーフという、ラクシアで最もろくでもない種族なのだ、復権のための手段は選ばないだろう。
……正直、あんまり相手したくないんだよな。ディアボロカデット"ウィッチ"とついているくらいだから、魔法で殴ってくるのが確定してるようなもんだし……
ディクシャ:「えぇ。……それから、〈時の卵〉の手がかりとなるかは分かりませんが、黄金呪刻師についての情報も」
フィオラ:「おいおい、めっちゃ情報くれるじゃん。さてはあたしのこと好きか?」
ディクシャ:「これでも一応、キャラバンの商い役ですから。情報網は広いですし、恩義には報いるのですよ」
カデア:「だってよ。仕事はこなしておくもんだな」
ディクシャ:「そういうことです。……で。ここから東、川沿いにあるトリファという街に、とても腕の良い黄金呪刻師がいるのだとか。あいにく、直接の面識や伝手は私にはありませんが、シュルカならばあるいは、といったところです」
サヤリ:「シュルカ様かぁ……話ができる機会、そんなにないのよね」
影が薄いので改めて注釈を入れると、シュルカは先行役のカビであり、キャラバンの進行予定地に単独で出向いていることが多い。
そして、現地住民に事前に話を通しておいたり、何か問題があれば先に解決したり、あるいは依頼という形で持ち帰ったりするのが仕事、だそうだ。
ディクシャ:「まぁ、常に本隊を離れている、ということもないですから。次に戻ってきた時にでも、伺ってみてはいかがでしょう」
フィオラ:「そうしてみっか。サンキュー、ディクちゃん」
ディクシャ:「変な呼び方はやめなさい。……こほん。情報はこんなところです」
かくして、ディクシャの手伝いは無事に終わった。……『「メゼー・ディクシャの警告」を記録すること』と書いてあるので、このルートを選んだことによる恩恵を後で得られるのだろう。一粒で二度美味しい。
その後、本隊へ帰還。報酬の4200Gを頂き、ブワナ・ペサの来訪を待つことに。
◇ 嵐とともに ◇
フィオラ:「戻ってきたぜ。ブワナ……なんだっけ、グリフォンの一番偉いのはまだ来てねえか」
クセナウイ:「いや、丁度いいとこに戻ってきたよ。あっちを見な」
ウルリサ:「……雷雲?……いや、あの影のほうですか?」
サヤリ:「そう。あれは─────あれこそが、ゴールデングリフォンの長、ブワナ・ペサ様よ」
帰ってくると、丁度ブワナ来訪の時だったらしい。遠くの空に立ち込める暗雲と共に、大きな影がひとつ、両翼を羽撃かせながらこちらへと向かって来ている。
それは、この間まで連れていたグリフォンよりもふた回りは大きな、巨大な黄金の個体───紛うことなき、ゴールデングリフォンの長だった。
彼の者は、キャラバンの野営地から少し離れた大岩に降り立つと、こちらへと視線を向けた後、静かに口を動かし始めた。
ブワナ:「……貴公が、余と話がしたいという者か」
フィオラ:「あぁ。〈時の卵〉っつー魔法の道具について、どうしても情報が欲しくてな。行き着いた先があんただ」
ブワナ:「ふむ。あれを欲しがる、その心は」
フィオラ:「……故郷が滅んじまってよ。その上、かわいい妹分が、クソ吸血鬼に唾付けられて、吸血鬼になるまで秒読みだ。呪いを解く術なんか分かんねえから、こうなる前の時間まで戻すしかなくなった」
ブワナ:「……よかろう。卵の製法、そして〈紅金〉の在り処についてくらいのものだが、教えてやる」
ブワナが語った内容はこうだ。まず、〈時の卵〉の製法は、彼が所有する〈螺旋水晶〉という道具に封じているらしい。これは、人の記憶を封じ込めることができる道具らしく、触れた者は、その記憶を取り込むことができるそうだ。
ただし、記憶を受け入れる"器"には、それ相応の負担が掛かるらしい。下手をすれば、自身と水晶の記憶との区別がつかなくなり、精神に異常をきたす可能性もあるそうだ。この手のアイテムにありがちなやつである。
そのため、記憶を流し込む前に、その前提となる黄金呪刻術や黄金九至宝に関わる知識を充分に持っていなければならないそうだ。有り難いことに、我がパーティには黄金呪刻師とその卵がいるので、この問題については彼女らに任せることになるだろうか。
そして、〈紅金〉についてだが……
ブワナ:「あれもまた、造らなければならぬものだが……残念ながら、そちらの製造法は既に失われている。この時代に再び作り出すことは叶わぬだろうな」
フィオラ:「……その感じ、現物はどっかにある、ってとこか。どこだ?」
ブワナ:「そう急かすな。古い遺跡の奥か、それか……黄金竜ゼンドリファーエンならば、あの宝の山の中に、いくつか隠し持っているやもしれん」
フィオラ:「黄金竜……ってなんだ。初めて聞いたわ」
アルナブ:「南の方にある山に昔から住んでるっていう竜だね。会えるかどうかはさておき、実在はしてる存在だよ」
フィオラ:「南か。じゃ、次の目的地はそっちだな。遺跡めぐりなんてキリがねえっていうか、今まで漁った遺跡で一個も見つかってねえんだ、望み薄だろ」
カデア:「だな。遺跡漁りの俺ですら、それらしいものは一度も見たことがない」
ということなので、ひとまず目的地……というか、製法と材料の入手法の両方が分かったということは、殆ど終着点が見えたようなものだ。ようやくゴール地点が判明したとも言える。
もっとも、〈紅金〉の方は『あるかもね』止まりなので、安心はできないが。
フィオラ:「〈時の卵〉については……あたしにゃ無理だ、多分。つーことでサヤリ、頼んだぜ」
サヤリ:「えぇ。なんの偶然か、私のお師匠様の最期の願いも、黄金九至宝……特に、〈時の卵〉の製法を見つけ出すことだったから。全力で望ませてもらうわ」
幸運なことに、腕が良いという黄金呪刻師の心当たりがある。ゼンドリファーエンへ会いに行く道中で、サヤリには一旦離脱してもらい、再び修行に取り組んでもらう、という流れになるだろう。
ブワナ:「ではまたな、人の子よ。水晶の記憶を受け入れられるだけの力が身についたら、再び余を呼ぶが良い」
こうして、黄金のグリフォンは去っていった。あの感じだと、比較的いつでも来てくれるんだろうか。
それなら最初から会わせてほしかった、という気持ちもあるが……まぁ、信用が足りていなかったとか、故郷がどうだの卵がどうだのといった事情が本当なのかを疑われていた、とかあるか。
それこそ、適当に大ボラを吹いて、〈時の卵〉の製法を盗み出そうとする輩がいるかもしれないし。……ヤミアデミアの一派とか。
クセナウイ:「話はまとまったみたいだね。運のいいことに、あたしらの次の目的地はゴルドラン公国だ。このまま同行してれば─────うん?何の騒ぎだ」
早速出発の準備を進めよう、と考えたところで、南東から早馬が駆け込んできた。
伝令役:「報告です!メゼー・シュルカが、トリファに向かう途中で大規模な賊と遭遇!至急、救援をお願いします!」
クセナウイ:「了解した。すぐに人を送る!……はっ。ここらで大規模な賊っつったら、予想はつくがね」
フィオラ:「ヤミアデミアと愉快な仲間たち、だな。丁度いい、サヤリを送るついでに街の安全確保と行きますか」
クセナウイ:「よろしく。……〈時の卵〉のこと含め、幸運を祈ってるよ」
そういう訳で、改めて出発となった。
辺りには、風が逆巻きながら激しく吹き荒れている。どうやらこの天候はブワナが起こしたものではなく、ただの嵐の訪れらしい。
遠くの空、そして大地に轟く雷鳴の音を背に、一行は馬を走らせることとなった─────といったところで、後編に続きます。
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