第八話 "大聖堂の闇の底にて" / 後編

 マグハリ村へ向かう前に就寝して回復、そして移動で疲労点がまた溜まり、差し引き4点回復。

 プラトーンの再編は行えないようなので、ハリスたちには留守番をしていてもらうことになる。重装備で夏の砂漠を歩くのは大変だろうし休んでいてくれ。


 さて。二十ほどの小さな家が立ち並ぶ村の民は、突然やってきた我々を警戒しているのか、遠巻きにしながらひそひそと話している。

 その中から一人、尊重だという老爺が前に出て、「こんな何もない村に、なんの御用ですかな」と尋ねてきた。


フィオラ:「あー……遺跡の調査に来たんだけどよ。話聞かせてもらっても?」

村長:「遺跡ですかな?それなら二年前に、マーティアス大聖堂のヒアナ・シュリア大司祭様(リカント女性/63歳)が、数名の聖堂騎士の方々と共に調査をされておりましたな」


 そんな話は聞いていないが。資料の見落とした部分にでも載っていたのだろうか。

 さらに詳しく話を聞いてみると、大司祭は調査の際、遺跡の最深部にあった鋼鉄の大扉を開くためのパスコードを、村長に教えてもらったらしい。

 その大扉には、恐ろしい魔神が封じられているという言い伝え(おそらくラフィキに取り憑いていたものと同一個体)があったそうなのだが、大司祭ならばその魔神にも打ち勝てるだろうと考え、教えたそうだ。

 実際、大司祭はその魔神を討伐して帰還した。……連れていた神殿騎士は、ひとり残らず・・・・・・やられてしまったそうだが。


村長:「そういうわけで、既に大扉は開かれているはずですな。パスコードも最早秘密にする理由がありませんで、ご希望ならお伝えしますが」

ウルリサ:「ありがとうございます。しかし、神殿騎士が全滅とは……とても強い魔神だったのかしら」

カデア:「なーんか……怪しいよな。ヒアナ大司祭の実力の程は知らないけど、そこまでの被害が出たのに、自分だけは生きて帰って来てるって」

ヤザン:「大司祭と言えば……神罰房の使用許可を出せる階級だな。だからどう、という訳ではないが」

フィオラ:「今からその大司祭様に取り入ろうってのもなぁ。抜け道ならもう分かってっし、むしろ顔合わせたくないよな」


 村で聞ける話はこれくらいだった。30G支払えば泊めてくれるそうなので、若干残っていた疲労点とプラトーンのHPダメージを解消する為に利用させてもらう。

 

 改めて、遺跡の中へと。先述の通り、大司祭が既に調査をしているため、魔物もいなければ調査するような場所もなかった。

 そのままノンストップで最深部まで辿り着くと、開かれたままの大扉があり、その向こうには、数刻前に発見したプラットホームが広がっている。

 ……それから、四人分の亡骸の姿も。白骨化してしまっているが、その装備から、聖堂騎士のものだとひと目でわかる。


ウルリサ:「二年前だものね……って、大司祭はずっと放置していたの?亡くなったことを知っていたのに……?」

カデア:「そう思うよな。あろうことかティダンの神官が、碌に弔いもしていないなんて、流石におかしい」

フィオラ:「たしかに。クッシーニの方みたいな状況だってんならともかく、こっちはちゃんと安全確保されてんだから、いつでも来られたはずだよな」

ヤザン:「ふむ……すると、彼女のことは警戒すべきか。大司祭ともあろう者が、うっかりでこんなことをするとも思えない」

アルナブ:「嫌な予感、大的中の気配がするなぁ……」


 大司祭の正体を訝しみつつ、そこから更に奥へ進むと、壊れてぼろぼろになった等身大のマリオネットを発見する。見識判定を振ってみるが、もちろん失敗。


フィオラ:「んだこれ。でけえ人形だな」

アルナブ:「人形というより、これは……なんだっけな。何かで見た記憶はあるんだけど、思い出せない」

カデア:「魔法の道具とかか?操霊術で使うにはデカすぎるし」


 本文によると、デーモンルーラー関係のものらしいのだが、あいにく誰も分からなかったので詳細は不明である。


 その後、プラットホームを少し調べてみると、壁にひっそりと魔動機文明語の文章が書かれているのを発見した。内容は、だいたい他の場所で見つけた文献やらなにやらと似たようなもので、『魔神は人形に封印された』『完全に屠るのならば、真の名を紐解け』といったところ。


フィオラ:「人形……って、つまりこれじゃねえか?大丈夫か、こんなもん持ち歩いて呪われたりしねぇ?」

ウルリサ:「でも、なんというか……抜け殻、って感じがするわね、このマリオネット。魔神は解放された後、ってことかしら」

カデア:「それこそ、大司祭様が退治するために引きずり出したとか……けど、なんか腑に落ちないな。魔神退治をしに来たような人が、どうして死体を放置なんて?」

ヤザン:「……件の魔神は、かつて英雄に取り憑いていた、という話だったな。今回も同じことが起こっているという可能性はないか?」

アルナブ:「あるかも。というか、ずっとその線を考えてた」

フィオラ:「じゃあなんだ、あたしらがすべきことは……大司祭の野郎をぶっとばすことじゃなくて、目を覚まさせてやること?」

ウルリサ:「……貴女が言うと、あんまり変わりないように聞こえるわね」


 実際、いずれにしろ蹴って殴って投げ飛ばして解決することにはなりそう。


 再度の調査を終えて、再び鍵のかかった大扉の前に戻ってきた。村で教えてもらったパスコードも八桁だったので、試しにこれを入力してみる。

 すると、見事大扉は上下に裂けて、それぞれ地中と天井の中へと格納されていった。プラットホームに大扉ってどういうデザインだよ、と思ったらそういうデザインだったか。


フィオラ:「おー、開いた。この番号、いろんなとこで使いまわしてんのか」

カデア:「セキュリティ的にどうなんだろうな、それ……?」


 現代で同じことをやったら間違いなく大変なことになると思うが。

 まぁ、ゲーム上の都合に合わせたものということにしておこう。良い子と良い企業のみんなは真似しないように。


 さておき、開かれた道の先へと進む。床には埃が薄く積もっているが、数ヶ月もあればこうなるだろう、程度の具合だ。

 そんな通路をしばらく進んで行き、突き当たりにあった階段を登ると、天井の高い大きな空間があった。天井には、ティダンが統治する活気に満ちた昼の世界と、シーンが支配する平穏と静寂に包まれた夜の世界が描かれている。この世界における太陰太極図的なものだろうか。


ウルリサ:「神殿に描かれているようなものね。ということは、ここはもう大聖堂の内部なのかしら」

ヤザン:「先程の通路も、不定期ながら清掃されていたみたいだからな。ここから先は、大聖堂の者と出くわす可能性がありそうだ」


 そうして壁画、もとい天井画を眺めていると、一行がやって来た通路とは反対の側から、規則正しい足音が聞こえてきた。

 そちらに視線をやると、暗闇の中から、ティダンの聖印が刺繍された司祭服を身にまとったリカントの女性(猫科らしい。なんで急にちゃんと描写するようになったんだ)が、騎士を従えて現れた。


フィオラ:「おう、客か。もしかして噂のヒアナ大司祭か?」

ヒアナ:「どちらかと言えば、客はあなた達の方ですが。いかにも、私がヒアナ・シェリア大司祭です。最下層の扉が開いたようなので、様子を見に来たのですが」

カデア:「……どうする。素直に言うべき相手じゃないと思うけど」

アルナブ:「けど、偶然迷い込みました、っていうのも通用しないんじゃ?」

ヒアナ:「無駄な足掻きは結構。どうせ、神罰房に捕らえたあの女を取り戻しに来たのでしょう?察しはついていますよ」

ヤザン:「なるほど、貴女が一連の事件の黒幕か。ならば、話は早いな」

フィオラ:「だな。目ぇ覚ましてもらうぜ、大司祭様よ」


 向こうが殺る気十分ならば、こちらもそれに応えるしかない。どの道避けては通れない存在だったのだ、むしろ好都合と捉えよう。

 かくして、八話クライマックスの戦闘が始まる運びとなった。


 ◇ 取り憑かれた大司祭 ◇


 敵は〔邪神を崇める神官〕と〔悪の騎士〕。……なのだが、戦闘が始まる前に、ヒアナに対してアクションを取れるらしい。

 まず、道中でマリオネットを拾っているので、〔異常感知判定/目標値14〕を行なう(コロコロ)カデアが成功してくれた。ほんまありがとうな。


カデア:「……大司祭の身体から、黒い塊みたいなものが、溢れたり戻ったりしてるな。やっぱり、正常な状態ではなさそうだ」

フィオラ:「魔神の真の名とやらを叫べばいいんだっけか?やってみようぜ───"キィフラ・ニミア"!」


 推定魔神を追い払うべく、試しにそう叫んでみる……が、何も起こらない。


フィオラ:「……あれ。なんか足りてない?」

アルナブ:「いや、もう1パターン試してみよう。"ニミア・キィフラ"!」


 順番を入れ替えてみると、今度は反応があった。浮き沈みしていた黒い塊が、弾き出されるようにして、ヒアナの身体の外へと飛び出す。

 その塊の表面には、苦悶の表情を浮かべる人の顔のようなあぶくが、浮かんでは弾けている。おおよそ通常の物質や生物だとは思い難い。


魔神?:「ちっ……後少しで、再び魔神将を世に顕現させる計画が成就するところだったものを」

ウルリサ:「ぺらぺらと喋ってくれるわね。立場が分かっていないのかしら」

フィオラ:「なら、教えてやらねーとな。覚悟しな。魔神野郎」


 無事に真の黒幕を引きずり出したところで、今度こそ戦闘開始だ。

 ちなみに、ヒアナは自動的に気絶・戦闘から除外されている。巻き込んでしまう心配はしなくて良いらしい。


 改めて、敵の確認。気絶したヒアナの代わりに、〔ホローンダーヤ〕という魔神が参戦している。

 加えて、騒ぎを聞きつけた神殿の騎士たちが四人ほど駆けつけて来ている……が、彼らは清く正しいティダン信徒だそうで、こちらに味方してくれるらしい。データ的には〔悪の騎士〕と同じものだ。

 ……つまり6vs2になる訳で。しかもこちらには、〔輝く肉体〕〈投げ〉〈狩人の麻痺毒〉とデバフが揃いまくっている訳で。


フィオラ:「はっ。そこで神殿の床のシミにでもなっときな、アブク野郎」

アルナブ:「魔神のシミがある神殿、嫌じゃない?……何はともあれ、これで一段落、なのかな」


 あまりにも一方的な虐殺が繰り広げられたため、戦闘描写は割愛とする。

 味方の神殿騎士、減らしても良かったかもな……まぁちゃんとギミックを解いた褒美ということにしておこう。

 ちなみに、剥ぎ取りは全部の出目が6という異常事態が発生したことにより3400Gの収穫となった。本当に起きるんだこういうこと。


 ◇ 再会 ◇


 戦闘終了後、意識を取り戻したヒアナはからは、先程の邪悪な雰囲気はすっかり消え去っていた。どうやら本来の人格に戻ったようだ。


ヒアナ:「私は……二年前、マグハリ村郊外の遺跡を調査した時に、あの魔神を封じていたマリオネットを、手違いで破壊してしまったのです。結果、あの魔神は私に取り憑き、同行させていた騎士達を……」

ウルリサ:「そうだったのですね……それで、母……サヤリは?」

ヒアナ:「この奥の神罰房に。案内がてら、取り憑かれていた間のことをお話させて頂きます」


 ヒアナに取り憑いたホローンダーヤは、彼女の地位を利用し、ヤミアデミアと結託して奴隷売買を始めたそうだ。その目的は、魔神将顕現のための生贄を集めること。

 そのために、〈アビススナッフ〉の材料であるシャードを提供したり─────ニオという吸血鬼に協力を求めたりしていたらしい。


フィオラ:「ようやく、あのキザ男の所在が掴めそうだな……どこにいるかってのは分かるか?」

ヒアナ:「あいにく、こちらから招いたことしかありませんでしたので……ヤミアデミアの方が、接点自体は多かったのではないかと」

カデア:「じゃ、結局奴のところに殴り込みに行かないと分からないのか……」


 まぁ、今まで推測でしかなかったそれが、確定となったのは大きなところだろう。


 また、黄金呪刻師であるサヤリを大神殿に連れてきたのも、ホローンダーヤがヤミアデミアに頼み込んだそうだ。奴は、儀式に必要な召喚具の力を〈時の卵〉によって取り戻すために、その技術を欲したらしい。

 幸い、サヤリはそれに協力しなかったため、魔神将召喚の計画は無事失敗になったと言えるだろう。この件はあまり気にしなくてよさそうだ。


 やがて、大きな牢獄に辿り着く。しかしその大きさに反して、中に捕らえられていたのは一人だけ。

 意識を失ったまま、力なく横たわっていたその人─────サヤリの姿を目の当たりにしたウルリサは、流石に一度冷静になったのか、ためらいながらも牢獄からサヤリを運び出すことを選んだ。


ウルリサ:「こんな状態では、どうせ話はできないから。まずは起きてもらうためにも、一度連れて帰りましょう」

ヤザン:「……そうだな。今回の件で、大聖堂もしばらく大変だろうし、長居させてもらうのは難しいだろう」


 こうして、無事に……とは言い難いが、親子は再会を果たした。


 そのうち、リーム司祭も一行に合流して、感謝の言葉を述べた。

 今後は、正気を取り戻したヒアナ大司祭と共に、大聖堂の立て直しに取り組むつもりらしい。魔神のせいで、邪教徒や裏社会組織との繋がりが大量にできてしまったのだ、とてつもなく大掛かりな仕事になることだろう。

 とはいえ、流石に我々がそこまで関与することはできないので、一旦ここで別れを告げて、こちらも本来の目的に向けて動きださせてもらおう。


フィオラ:「さて……なんか分かるといいんだけどな。卵についてよ」


 ─────そう、〈時の卵〉を求めているのは、魔神だけではないのだ。


 ◇ リザルト ◇


 能力値成長は精神が伸びた。B2には到底届きそうにないが。


 そして今回の獲得経験点、なんと4020点。想像以上に貰えた。

 それでもグラップラー7とスカウト5を両立させることはできないので、ひとまずグラップラーを上げておく。これで《シャドウステップⅡ》《カウンター》を獲得し、戦闘特技には《踏みつけ》を採用。最近火力不足気味な気がしたので。

 1000点残っているが、これは保留とする。エンハとケミを上げる理由があまりないから、というのもある。


 報酬金は、本来の額である3300Gに加えて、神殿と聖堂、それぞれの騎士の遺品を持ち帰ったことによる謝礼が4200Gで、計7500G。

 無事に金欠を脱することができたが、とはいえすぐに必要なものがあるかと言われるとそうでもない。強いて言えば、プラトーンの雇用費を払えないという悲しい事態に陥らなくなったので一安心だ。

 それに、買い物は次回の冒頭でもできるだろう。多分。ということで一旦保留として、今回のリザルト処理はこれにておしまいに。


 次回、『母と娘』へ続きます。

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