第六話 "腐った太陽" / 前編

~ あらすじ ~


 ヒューマの東部辺りを旅していた一行。しかしある日、ウルリサとサウリルが、勝手にキャラバンのグリフォンを借り出して、北東にあるネジュドナジュの街へ行ってしまったとクセナウイから聞かされる。

 その理由は、そこにいるという彼女たちの母親・サヤリを殺すことだった。なんでも彼女は、十年前のある日、突然自分の夫を殺害したかと思ったら、そのままキャラバンを離れ、行方を眩ませてしまったらしいのだ。クセナウイは、事の真相は違うのではないか、と思っているようだが……

 ともかく、一行は姉妹に協力、場合によっては復讐をやめさせるように頼まれ、後を追うことに。途中、"双子港"ことアイリアで足止めを食らってしまったが、さしたる障害ではなかった。


 その後、対岸のアリイアにて姉妹と合流。やや気まずい雰囲気を伴いつつ、ネジュドナジュに到着すると……街は、吸血鬼に血を吸われた者たちブラッドリングとヴァンパイアハウンドによる襲撃を受けている真っ最中だった。

 大急ぎでそれらを駆逐すると、この街の冒険者だと言うエルフの戦士・ヤザンに声を掛けられる。襲撃が始まった瞬間に居合わせた彼によると、この襲撃に紛れて、黒衣を纏った謎の集団が、街の子供たちと、サヤリという名前の女性を連れ去ってしまったのだそうだ。

 一体何故彼女が、という疑問を抱きつつも、姉妹の希望で、彼女が住んでいた家の捜索を行うことに。するとそこで見つかった手記には、"黄金呪刻術"という技術、それに〈紅金〉と〈古びた手槌〉に関する情報─────そして、〈時の卵〉の製法について調べようとしていた痕跡があった。


 この手記が本当に彼女のものであるなら、卵について何か知っているのかもしれない。そう考えたフィオラ達は、話を聞くためにも彼女を追う、もとい連れ戻すことに。ヤザンもそれに協力させて欲しいと言い、同行することになった。

 ……ウルリサとサウリルは、サヤリのことを慕っているヤザンの同行について、複雑な感情を抱いているかもしれないが。仲間割れだけは起こして欲しくないものだ。


~ あらすじおわり ~


 ◇ 導入 ◇


 一行がネジュドナジュからアイリアまで戻ってくると、無事に魔物の間引きを終えたこの街は、今度こそ本当に祭りの雰囲気に包み込まれていた。

 間引き後の祭りまで含めて水迎えの儀式、ということらしい。間引きに参加していなかった一般人たちは、こちらが目当てだったのか。


フィオラ:「なんだ、ちゃんと祭りもやるんじゃねえか。……けど、遊んでいく時間はねえな」

シヴァニカ:「そうね、残念だけど。これ以上寄り道していると、キャラバンに置いて行かれてしまうわ」

ヤザン:「まぁ、状況が状況だな。ちなみに、君たちのキャラバンには、どうやって合流するんだ?」


 実際のゲームブック上では、特に帰り道についての記載はなかったため、気合で追いついたことにしてね!ということなんだろうか。[どのように?]


カデア:「ディクシャさんのところのカビが、まだこの街にいるかな?それと合流できれば、苦労せずに帰れるんじゃないか」

ウルリサ:「ディクシャ様も来ているのね……はぁ。自業自得とはいえ、やりにくいわね」

サウリル:「その辺りも覚悟の上でしょ。……でも、そうだなぁ……うちらのメゼーには、なんて言って謝ったもんだか」


 まぁ本リプレイでは、ディクシャと一緒に帰ったことにする。

 姉妹には大変肩身の狭い思いをさせてしまうが、どの道お叱りを受けることにはなるだろうし。それがちょっと早くなるだけだ、誤差だよ誤差。


 何はともあれ、一行は無事にキャラバン本隊への帰還を果たす。

 本隊は、丁度次の目的地であるサンシャイン駅の近く、ルードゥークの街を目指しているところだった。


クセナウイ:「やぁ、お帰り。……結果はどうだった?」

フィオラ:「……あたしより、お前らから言うべきじゃね?ほら(背中を押す)」

ウルリサ:「……そうね。……その……まず、勝手なことをして済みませんでした」

クセナウイ:「いいさ。お前らがキャラバンに残ってるのも、この機会が来るのを待ってたからだろ?……なら、必要以上には咎めないよ」

サウリル:「あ、ありがとうございます……」

クセナウイ:「ただし。勝手にグリフォンを飛ばせたのは頂けないね。あくまであの子たちは、うちの騎獣ではなく、ブワナの子供たちだ。それを勝手に借りてくってのは、信用に関わってくる」


 早速、クセナウイによる姉妹へのお説教が始まる。とはいえ、それは頭ごなしに怒鳴りつけるようなものではなかった。

 クセナウイにも、慈悲の心というものがあるんだろう。


クセナウイ:「……っと。説教に付き合わせるのもなんだ、この子ら以外はもう行っていいよ。ありがとな」

フィオラ:「あー、わりぃ。その前に、急ぎの用事が出来ちまったって話をだな」

クセナウイ:「用事?……そう言えば、知らない顔が一人増えてるね。それと何か関係が?」

ヤザン:「えぇ。実は─────」


 説教もそこそこに、ネジュドナジュでの出来事についてをクセナウイに伝える。

 ついでに、ヤザンが『しばらくあなたたちと共に行動したいのだが』と告げると、クセナウイはフィオラの時と同じように、『来る者拒まず』と言ってそれを受諾した。

 晴れてヤザンもキャラバンの一員である。ちなみにプラトーンとしての能力は、前衛に置けば優秀なステータス補強要員、後衛に置けば範囲攻撃が可能になるという特殊能力を発揮してくれる。

 この範囲攻撃、記述的に〈狩人の麻痺毒〉の効果もしっかり乗るようなので、上手く活かせば複数体、ないし複数部位を抑えることが可能だ。次から次へと優秀な人材が入ってきてくれて嬉しい限りである。


 改めて、クセナウイからの次の予定に関する話。

 今、キャラバンがルードゥークへと向かっているのは、そこから少し離れた丘陵地にある、ゴールデングリフォンの営巣地へと寄っていくためらしい。

 彼らはこの時期、そこで卵を産み、孵化させる。キャラバンはそれが終わるまで付近に滞在し、無事に済んだら、共にオーレルムを巡る旅へと戻っていく。

 既に何度かその話が出ているが、キャラバンとグリフォンは共存関係にある。これもその一環、という訳だ。


クセナウイ:「幸い、滞在期間はそれなりに長い。あんたらがちょいと寄り道をするだけの時間はあるだろうさ」

ウルリサ:「……止めないんですね。私達のこと」

クセナウイ:「なんだ。止めてほしいなら、それこそ営巣地にある大岩にでも括り付けさせてもらうけど」

サウリル:「え、遠慮します……」

クセナウイ:「冗談だ。……ま、後悔のないようにしな」


 話もまとまり、それから数日後。キャラバンはルードゥークの郊外に天幕を張り、そこでグリフォン達の孵化が終わるのを待つことに。

 到着するまでの間にも、ディクシャやシュルカ(前回名前を出し忘れていた。先行役のカビの名前である)のカビに協力してもらいつつ、〈時の卵〉やヤミアデミアに関する情報収集を行なっていたが、有益な情報はあまり得られず。

 しかし、まったくの骨折り損、という訳ではなかった。


ヤザン:「サンシャイン駅で、奴隷売買の噂……か。黒衣の連中は、やはりそこへ向かったようだな」

フィオラ:「ハッタリとかじゃなくてなによりだ。んじゃ、明日にでも追っかけてみるとするか」

シヴァニカ:「そうね。……けど、違法な奴隷売買となると、無関係の私達が、その現場に立ち会ったり、売人と接触できたりするものかしら」

カデア:「それについてだが……なんと、サンシャイン駅にいる情報屋との伝手があってな。あいつなら、なにか協力してくれるかもしれない」

フィオラ:「流石カデア。この手の調査は、もうお前無しじゃやってけないな」


 確信を得られ、頼る宛ても提示されたところで、一行は再びキャラバンを離れ、サンシャイン駅へと─────


クセナウイ:「待ちな。……今回の件、ネジュドナジュからの正式な依頼として引き受けることになってね。前金も貰えたから、担当者たるお前らに渡しておくよ」


 出発する前に、クセナウイからまたお金をもらった。今回は3000ガメルだ。

 なんか事あるごとにお小遣いをくれるおばあちゃんみたいな存在になってきたな。


ヤザン:「町長……これは失敗できないな。ファディヤも、サヤリさんも、子どもたちも。必ず連れ戻してみせよう」

ウルリサ:「……そうね。無事、かつ無罪であったのなら、ね」

ヤザン:「む。……先に言っておくが、俺は復讐は認めないぞ。あんなに優しくて、子どもたちからも慕われている人なんだ。仮に殺人を犯していたとしても、何か事情があったに違いない」

サウリル:「どうだか。事情があるんだったら、どうしてそれを説明しないまま、十年も過ごしてたのかしら?」

ヤザン:「それは……分からないが……とにかく。話も聞かずに殺す、なんてことは絶対にさせないからな」

フィオラ:「おーおー、バチバチやってんな……最終決定権は二人にあるけど、その前にあたしの用件も忘れないでくれよ?」


 ちなみに、ヤザンと姉妹の仲は極めて険悪である。まぁ無理もないな。

 ……本当に仲間割れしないよね君ら?流血沙汰にまで発展させるのはやめてね?


 ◇ 太陽の街のくらがり ◇


 出発前にプラトーンの編成タイミングだ。今回はヤザンが自動参加(雇用費無しでいいらしい)してくれるが、代わりにグリフォンが営巣地に行ってしまうため不在となっている。

 ……つまり《かばうⅠ》を使えないのか。なかなか痛い……ステータス補正も非常に優秀だったので、あの子がいなくなるとプラトーンの戦闘能力はだいぶ下がるな。

 まぁ、《かばうⅠ》が無いなら耐久面は気にしないでいいかと考えて、シヴァニカ、ウルリサ、カデアを前衛、ヤザンとサウリルを後衛に。さっそく麻痺毒+後衛ヤザンのコンボで暴れてもらうとしよう。


 メンバーが決まったところで、サンシャイン駅へ移動する。ここも街と言えば街だが、ヒューマやゼルガフォートほど発展してはいないようで、外周も外壁ではなく木の柵で囲っている程度のもの。

 そして、前述したふたつの街ですら治安が良いとは言えなかったし、まさに今、違法な奴隷の取引が行われる予定があるくらいなので、普段からそういった後ろ暗い話が蔓延しているようなところなのだろう。

 ……今更ながら、こんなとこに鉄道通して大丈夫なんだろうか。『他地方とのアクセスはそれほど難しくありません』なんて本の1ページ目に書いてあったが、客が降りてくれるような場所には思えないよな今のところ。


フィオラ:「なんつーか、これまでの街に比べると静かだな……」

カデア:「ま、良くも悪くも、長居するような所ではないかな。それで、早速情報屋に会いに行くか?」

フィオラ:「おう。案内頼むぜ」


 それ以外の用事も無いし、これといって目立つ施設などもないようだ。さっさと用事を済ませて帰るとしよう。

 一行はカデアの案内のもと、ティフルと言う名のタビットの情報屋を探すことに。


カデア:「あいつは用心深くてな。毎日のように居場所を変えるし、そのうえ痕跡も殆ど残さない」

ヤザン:「タビットと言うよりは、グラスランナーかレプラカーンのような人物だな……そんな人をどうやって探すんだ?」

カデア:「大丈夫、どうしても会いたいやつの為に、"規定の手順"ってのがあるんだ。もちろん、分かるやつにしか分からないもんなんだけど」


 いかにも、といった感じだ。こう、どこかの店で、合言葉代わりとなっている注文だったり話の切り出し方だったりをするんだろう。

 処理的には、ただチャレンジをやるだけなんだけども。通常のシナリオであれば、きっとRPが映えるシーンだったに違いない。


 それで、今回のチャレンジの内容は……疲労点を得るだけでいい項目が二つあるな。出目が腐って経験点を逃すのも嫌なのでそれでいこう。

 ということで、フィオラが7点、プラトーンが3点疲労し、計720点を獲得した。そのまま進行するのは流石に怖いので、フィオラに〈ヴィゴラスハーブ〉〈ヴィゴラスタブレット〉を一つずつ使用し、残り1点まで減らしておく。


サウリル:「ようやく居場所を教えてもらえたわね……そんなに広い街じゃないのに、よくもまあ、居場所を隠し通せるものね」

カデア:「まったくだ。……と、いたいた。久しぶり、ティフル」

ティフル:「おや、カデア。確かに久しぶりだね、最後に会ったのは……二ヶ月くらい前かな?」


 あちこち回って、最終的に郊外の小さな一軒家にやって来ると、そこでようやくティフルと会うことができた。

 呑気に花壇へ水やりをしている彼は、こちらに視線を移すこともなく、そのまま話を続ける。


ティフル:「君たちが知りたいことは分かってるよ。奴隷売買のことだろう?」

ウルリサ:「どうしてそれを……まだ何も言っていないわよ?」

ティフル:「君たちがこの家に来るために話をしてきた人たちは、みんな僕の仲間だからね。こういう奴がお前を探してるぞ、って話は、あっという間に僕のところまで届く訳さ」

ヤザン:「まさに一流の情報屋だ、恐れ入る。……では、早速目当ての情報を教えて頂いても?」

ティフル:「いいよ。僕としても、早いとこなんとかして欲しい件だからね」


 曰く、この街の周辺には、金鉱山がいくつかあるらしい。その殆どは既に閉鎖されてしまっているようだが。

 そんな鉱山のなかのひとつにある廃坑道が、今回の取引場所となっているそうだ。しかし、大問題がひとつある。


ティフル:「……で、その坑道の入り口っていうのが、ティダン神殿の管理下にある訳なんだよね」

サウリル:「……待って。それって、つまり……」

ティフル:「そう。ティダン神殿の人間が、この取引に関与してる」

シヴァニカ:「あいにく、信仰というもののことは、よく分かっていないけど……それが、いわゆる不敬な行ない、というものにあたるのは分かるわね」

ウルリサ:「不敬なんてものじゃないわ。それが事実なら、神殿という組織の崩壊を意味すると言っても過言ではないわよ」

ティフル:「その通りだね。けどもちろん、神殿の全員が全員、腐れ外道って訳じゃあない。清く正しくあろうとしてる人もちゃんといるよ、数人だけどね」

フィオラ:「数人かよ……事件が解決したら、他所の神殿から新しい人材連れてきた方がいいんじゃねーか」


 神殿、それもティダンが関わっているとは。それで"腐った太陽"という訳か。

 ちなみに、基本ルールブックにも記載されている注記として、『あまりにも似つかわしくない行ないをするようであれば、GMはPCからプリースト技能を取り上げることを選択してもよい』というものがある。

 今回の件、ワンチャンそうなっていてもおかしくない。ティダンは"正義の神"と呼ばれることもあるくらいなのだ、これを知ったら、きっと激憤することだろう。

 あるいは、既にティダンへの信仰は捨てていて、二剣イグニスの神に鞍替えしている可能性もあるが。


ティフル:「ま、とりあえずは再建にご協力願うよ。(地図をひとつ取り出す)今夜、この辺りにある廃屋に向かうように、司祭様に伝えておくから。君たちもそこに行って、話を聞いてきておくれ」

カデア:「了解。助かった、無事に終わったら礼をしに来るよ」

ティフル:「そりゃあ楽しみだ。じゃ、よろしくね」


 かくあって、一行は日没後、指定された廃屋へと向かうことに。

 そこでしばらく待っていると、頭までを外套で覆った二人組がやって来た。一人は背丈140センチほど、もう一人は180あるかないかと言ったところ。


?:「あなた達が、ティフルの言っていた協力者で間違いないですか?」

ヤザン:「えぇ。そちらは、司祭様と……」

リーム:(外套を脱ぎ、顔を見せる)「申し遅れました。私は、ティダン様の司祭、リーム・ルアウダ。こちらは、神殿騎士のハリス・レイハーンです」

ハリス:「ご紹介に預かったハリスです。よろしく願います」


 その正体は、小さい方はドワーフの女司祭。気の強そうな顔立ちに、毅然とした態度。黄昏色の長い髪を総髪に結えている。

 大きい方はメリアの男騎士だった。花の種類に関する記述は無いが、長命種であることと、髪に蔦が絡まっていることは言及されている。


リーム:「既に知っているかと思いますが、急を要する事態です。ティダン様に仕える者が、よりによって奴隷の売買など……」

ウルリサ:「えぇ。信仰は違うけれど、同じ神官として、是非お力になれればと」

リーム:「感謝します、テケルロコの神徒よ。……さて、手短に要件を。あなた達には、取引の現場を押さえ、裏切り者たちの身柄を拘束して頂きたいのです」

フィオラ:「任せな。最近投げ技に磨きをかけたんでな、死なない程度に痛めつけるのは大得意になった」

カデア:「司祭様の前でもブレないな……しかし、我々に神殿の者の顔は分かりませんが、全員取り押さえてしまえばいいので?」

リーム:「神殿の者でなかったとしても、然るべき罰を与えるべきではあるところですが……依頼としては、最低限、神殿の者さえ捕らえて頂ければ。ハリスを伴わせますので、彼に人を見分けて貰ってください」


 リームの言葉に、ハリスは無言で頷くのみ。寡黙で誠実な男だ。

 ……ザ・神官といった雰囲気の男、正直(RPするのが)苦手なんですよね。わたしが無神論者なもので、信仰がどうだの、教えがどうだのといった発想や発言が、あまりすんなりと出てこない。


サウリル:(いかにも堅物、って感じ……復讐に、何も言ってこないといいけど)

フィオラ:「お堅いなぁ。ま、神官様で、しかも騎士様となりゃ、ヘラヘラしてる訳にゃいかねえか」

ウルリサ:「当たり前でしょう。……それで、出発は今からでも?」

リーム:「えぇ。可能な限り早い方が良いでしょう、こちらの準備は既に済ませています」

ヤザン:「同感です。それじゃ、行こう。皆」

フィオラ:「おう。……妹が掛かってるとはいえ、焦んなよ?」

ヤザン:「む。……いや、そうだな。こういう時こそ冷静に構えておくのが、冒険者の鉄則だ」


 それぞれの思いを胸に、一行は廃坑道を目指す。新たに仲間に加わったハリスも、ここからプラトーンメンバーとして参加させていいらしい。

 ……ステータス化物すぎない君?防護+3のHP+15、加えて生命・精神抵抗も+1って、グリフォンよりも耐久面強いんだけど……やはりナイトは格が違った。


 ◇ 機械的な歓迎 ◇


 ハリスに連れられて、廃坑道の裏口へとやってた。正規の入り口は裏切り共たちが抑えているため、こちらからひっそりと侵入しよう、という作戦である。

 入り口は錆びた鉄格子の扉によって塞がれていたが、それはハリスが持ってきていた鍵によって開かれた。


ハリス:「さて……この先に光源は何もありません、灯りの用意は?」

フィオラ:「おう。ランタンとたいまつ、どっちにする?」

カデア:「投げて使えるし、替えも効くからな。たいまつの方がいいんじゃないか」


 〈頑丈なランタン〉があればそれが良かったが、名誉点の獲得機会が少ないゲームブックにおいては、あまり買いたいものではない。

 ……まぁ使い道なくて持て余してるんだけども。《投げ強化Ⅰ》と〈イージーグリップ〉も揃えたことだし、ガオン無双獣投術にでも入門しようかなぁ。


フィオラ:「じゃ、火をつけましてっと……ん、あれなんだ。乗り物っぽいけど」

シヴァニカ:「あれは……昇降機ね。魔動機文明の技術で、縦方向へ移動するための乗り物よ」

フィオラ:「ほーん。坑道にあるってことは、地下へ潜るためのもんか」


 さておき、周囲を確認してみると、まずは昇降機が目に入る。

 近づいてみると……(聞き耳、目標値11。成功できた)下の方から、水の流れる音がする。地下水脈とでも繋がっているのか?


フィオラ:「随分深くまで掘ってあんだな……で、これ動くのか?」

カデア:「どれどれ……駄目だな、反応がない。動力が切れてるんじゃないか?」

シヴァニカ:「そうね。恐らく、どこかに供給装置があるはずだけど」


 ひとまず昇降機があったことだけ記録しておいて、道なりに進んでいくことに。


 すると、今度は赤い光が点滅しているのが見えてきた。ただの照明器具ではないように思えるが……


フィオラ:「随分主張の激しい照明だな。逆に目に悪いだろ」

サウリル:「そういうんじゃ無いと思うけど─────(のこのこ歩いて行くと同時に、ビープ音が鳴り響く)わっ、何!?」

ヤザン:「罠かなにかか?一度、下がって様子を─────うおぉ!?」


 無警戒に近づいたところ、壁から腕のような見た目の細長い魔動機がわんさか生えてきて、こちらにレーザー光線を放ってきた。どうやら防衛システムのようなものを作動させてしまったらしい。

 幸いにして、フィオラは巻き込まれずに済んだが、プラトーンに13点の魔法ダメージと2点の疲労蓄積が入った。中々えげつない罠だ。


フィオラ:「どっかに止めるためのスイッチとかねえのか、こういうの!?」

カデア:「あるはずだが、近くにあるとは─────限った、こいつだろ!(壁に取り付けられたレバーを下ろす)」

ウルリサ:「……と、止まったわね。良かった……」


 目標値13の異常感知判定にカデアが成功、なんとか停止させることができた。

 プラトーンがそれなりのダメージを負ったが、治す手段が〈救難草〉くらいしか無いな……一旦様子見するか。正直、プラトーンはHPが有り余っている(54/67)ため、別に回復しなくてもクライマックスの戦闘まで元気にやっていける気がする。


サウリル:「なんなのよ、もう……また動いたりはしないわよね?」

カデア:「大丈夫だと思うけど……念のため、ここを通る時は警戒しようか」

フィオラ:「だな。おし。次行くぞ次」


 無事にトラップを乗り越えて、更に奥へ。すると今度は、天井の高い大部屋に辿り着いた。

 部屋の中央には、炉のような見た目をした大きな魔動機が設置されている。これもまた、稼働はしていないようだ。


フィオラ:「炉っぽいし、なんか焚べればいいのか?……けど、焚き木とか石炭の代わりになるのって、この場合なんだ?」

シヴァニカ:「魔晶石……とかかしら。丁度、魔動列車のにも、これと似たような形の魔動機が積まれていた気がするわ」

カデア:「一理あるな。けど、こんな大型の魔動機を動かせるだけの魔晶石は、今は手元にないな」


 持っているのは、最近買った3点の魔晶石が4つ。試しで入れてみるには勿体なさ過ぎるので、ここは一度スルーしておくことに決める。


 そのまま部屋の奥にあった階段を降りてみると、出入り口が一つだけの、倉庫のような部屋があった。ここが突き当たりのようだ。

 辺りを見回してみると、壁際には用途不明の大きな魔動機、床には魔晶石の破片などが散らばっているのが分かる。


フィオラ:「ラッキー。……ん。なんか聞こえねえ?」

ヤザン:「なんか?…………ふむ、確かに。魔動機の稼働音のようなものが聞こえるが、一体どこに─────」

カデア:「っ、危ない!壁際にある魔動機、まだ動くみたいだぞ!」

フィオラ:「は─────(目の前にハンマーが振り下ろされる)うおぉっ、随分荒っぽい挨拶だな!せめて一声かけてからやってくれ!」


 呑気に物色しようとしていると、まだ生きていた魔動兵器たちからお叱りを受けた。どうやら侵入者判定を受けてしまったようだ。

 ということで、突然ながら戦闘が始まった……が、文字数が長くなってきたので一旦ここで区切る。次回、前哨戦から。

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