第五話 "過去からの呼び声" / 後編

 ◇ 馬車に揺られて ◇


フィオラ:「ところで……お前ら、なんでまだここに?とっくに街を出てるもんだとばかり思ってたんだが」

ウルリサ:「あぁ、それは……途中で魔物に襲われていた旅の人を見かけて。彼を守りながら、ここまで引き返していたの」

サウリル:「まったく。こんな時までお人好しなんだから困っちゃうわ」


 ネジュドナジュへ向かう馬車の中、姉妹とそのような会話をする。ダドワミの時のように、ウルリサがサウリルの反対を押し切って、助けることを選んだんだろう。

 相変わらずだな……と思う一方、そんなに心優しい彼女が、復讐のためとはいえ、親殺しに手を染めようとしていると言うのだから恐ろしい。

 それほどまでに父親を尊敬していたし、母親を憎んでいるのだろう。


カデア:「ま、そのおかげでこうして追いつけたからな。俺らとしては助かったぜ」

シヴァニカ:「そうね。ちなみに、その魔物っていうのは、退治したの?」

ウルリサ:「退治までは……追い払うことはできたけど」

フィオラ:「そうか。てことは、まだこの辺をうろついてるかも─────」


 なんてフラグを立てたら。

 

サウリル:「……っ、あいつ!戻ってきたうえに、仲間まで連れて来てるじゃない!!」


 しっかり回収することになった。


フィオラ:「はは。やられっぱなしじゃ黙ってられなかったみたいだな。……さて、迎え撃ちますか。シヴァニカ、援護頼むぜ!」

シヴァニカ:「任されたわ。……私、後衛でいいのかしら」

カデア:「俺とグリフォンと……ウルリサも前に出るだろ?なら、それ以上は前衛過多だと思うぜ」

ウルリサ:「そうね。その陣形でいきましょう」


 姉妹が復帰したので、チャレンジ前にプラトーンの再編成。

 サウリルとシヴァニカを後衛に下げ、空いた枠へウルリサが入る。攻撃力は下がってしまうが、この形が一番綺麗だと思う。

 改めて、チャレンジに挑戦していこう。


 提示された内容が我々にとってはやや厳しかったため、プラトーンとフィオラの両方で3点疲労(重複可)を選択。フィオラの二つ目には〔生命抵抗力判定/目標12〕を選び、これも成功。

 さらにボーナスチャレンジで、フィオラが〔物理ダメージを16点以上〕に挑戦してみる(コロコロ)キックでぴったり16点を出し、合計で経験点600を獲得。

 この時点で経験点が1870も余っている。今回でグラップラーを5に上げても余裕がありそうでなによりだ。


 魔物の群れを無事に退けると、やがてネジュドナジュの街が見えてきた。

 ……が、どうにも様子がおかしい。遠くからでも分かるくらいはっきりと、黒い煙が立ち上り、微かに人々の悲鳴も聞こえてくる。


フィオラ:「おいおい、穏やかじゃねーな!御者、もっと急げねえか!?」

サウリル:「どうしてあんな……まさか、母さんが?」

カデア:「詮索は後だ!とにかく、まずは被害状況を確認するぞ!」


 馬を大急ぎで走らせ、街の入口までやって来ると……更に恐ろしい事実が判明してしまった。

 街の中で暴れていたのは、盗賊でも、蛮族でもなく。


サウリル:「っ……あれ、ゾンビだわ」

シヴァニカ:「……ああなってしまっては、助からないわね。あっちにいる大きなワンちゃんも、この街の飼い犬、という訳では無さそうだわ」


 おそらく何者かによって放たれたのであろう、アンデッド化した大型の猛犬。

 そして、元住人だったのであろう者たちのゾンビ……それから、ブラッドリングの群れだった。

 ……ブラッドリング、ないしブラッドサッカーは、存在だ。つまりこの騒ぎの裏で動いているのは、ノスフェラトゥ─────すなわち吸血鬼である可能性が非常に高い。


フィオラ:「ひっでぇ……とりあえず、あのわんこをどうにかしねーと、おちおち調べ物も聞き込みもできねえな。やるぞ、お前ら」

ウルリサ:「えぇ。……これであの人の仕業だったら、絶対に許さないわ」


 殺気立っているウルリサを横目に、フィオラが先陣を切る。

 今回、驚きの急展開が連続しすぎてやがる。これは戦闘が終わった後も一悶着ありそうだな……


◇ 血を啜る者、啜られた者 ◇


 さて、敵の配置。今回は〔ヴァンパイアハウンド〕と……〔ブラッドリング〕3体くらいでいいか。本来なら〔ゾンビ〕が置かれるそうだが、流石にレベル差がありすぎて話にならない。

 そして〈剣のかけら〉も、本来1個のところを5個ぶちこむ。HPが25増加したワンちゃんを爆誕させ、存分にやりあうとしよう。


 先制判定は目標値12、カデアは失敗したがフィオラが成功。バトルギミックは、初出の〔建物〕。三話でも出てきた〔テーブル〕の姿もある。

 〔扉〕と〔窓〕というのもあるが、お互い後方エリアには誰もいない関係で無意味な存在と化しているため、概要は省略する。


 〔建物〕について。この戦場は、左右と中央のグリッドによって分けられており、

戦闘中に制限移動によって移動可能となっている。この際、移動妨害などは特に受けないようだ。初期配置では全員、中央に配置されている。

 そして、隣接するグリッドに存在する味方が敵の数よりも多ければ、自身の行う命中力判定に+2のボーナス。両隣がそうなっている場合、与えるダメージも+2になる。ただし、同エリアであってもグリッドが違うなら、近接攻撃や〔射程:接触〕の対象にとることはできない。……と思う。記載がないけど多分そう。

 それから、同グリッドに自分以外の味方キャラクターがいるなら、回避力に+1のボーナスが入る。敵も同様であるため、有利な仕様とはいい難い。

 前述の通り、敵の数は三体。なので、ブラッドリングを落としていかないと、ヴァンパイアハウンドが好き放題暴れてしまう。そんなところである。


フィオラ:「とりあえず……お前は大人しくしてろ!後で相手してやっから!」


 1ラウンド目、〔輝く肉体〕をハウンドに使って時間を稼ぐ。《シャドウステップⅠ》は当然回避の振り直しを宣言。そしてブラッドリング1号に【キャッツアイ】【ガゼルフット】を入れてからの二連キック(コロコロ)ぐ、一発しか当たらない……12点を与えて終了。プラトーン達にも、デバフ目的でハウンドを攻撃してもらう。これで6点を与え、命中と回避が合計で-3。


 敵の手番、ブラッドリングの1号と2号は、それぞれ左右のグリッドへ展開。3号だけは中央に留まりフィオラに襲いかかるが、なんとか同値で回避。

 そしてハウンドの攻撃は、〈ブレードスカート〉による反撃が成立し、9点を返す。今回は割と君の活躍に掛かってるんだ、その調子で頼むぞ。


フィオラ:「くそ、囲まれた……どうする、とりあえず目の前の奴からか!?」

カデア:「いや、このまま戦う方が不味い!壁際に寄ろう、せめて背後を取られないようにするぞ!」


 2ラウンド目。左のグリッドへと逃げたブラッドリング1号にパンチを二発打ち込む(コロコロ)これも一発しか当たらなかった。7点を与え、プラトーンで追撃して残り6点。

 できればハウンドにデバフを入れ続けたいが、とりあえずは中央グリッドから離脱しないとである。


 敵の手番、中央に2号と3号を残し、ハウンドが左グリッドへ移動、フィオラを攻撃する(コロコロ)出目が良く、再び〈ブレードスカート〉発動。1号にも同じくで、それぞれ6点と8点。いいペースだが、中央に居座り続けてる個体がとことん邪魔だ。


 3ラウンド目、ここはプラトーンが先にハウンドを攻撃してデバフを付与。そこへフィオラがパンチを二発(コロコロ)合わせて22点。残り30、〈ブレードスカート〉次第では次で落としきれそうか。

 と思ったが、次の敵の攻撃はすべて避けるも〈ブレードスカート〉は発動せず。


 4ラウンド目、ここで練技が切れるが……〈魔晶石〉使いたくないなぁ……よし、ケチろう。そのままハウンドへカデアのデバフ、からの二連パンチ。(コロコロ)一発クリティカルしてトータル25点、残り5点。なんとかなりそうだ。


 ……と思っていたら、次の攻撃は連続して回避失敗、残りHP1のギリギリのラインで生き残った。急に出目が酷いことになった。

 止めをさすために2号がついに左グリッドへやって来るが、これは辛うじて避けた。とはいえ、実はブラッドリングの命中もまあまあ高いので、このままだと死ぬかもしれない。ようやく手に汗握る戦いというのがやって来たな。


フィオラ:「っ、おぉ……やるじゃねえかよ、お前ら……!」

ウルリサ:「ちょっと、平気!?グリフォン、守ってあげて!」

フィオラ:「へへ、わりい……ここは一旦、態勢立て直すか」


 5ラウンド目、フィオラはとっておきの〈ヒーリングポーション+1〉を飲んで7点回復。プラトーンはハウンドへ止めを刺し、グリフォンの《かばうⅠ》でフィオラを守る。《シャドウステップⅠ》と合わせれば、確実に凌げるはず。

 そして1号と2号の連撃。1号の分はグリフォンが受けてくれてノーダメージ、2号には〈ブレードスカート〉で6点の反撃。


 6ラウンド目、ウルリサに9点回復してもらいつつ、1号をパンチで確実に仕留める。これで2対2、ようやく数の有利が無くなった……


 その後は、グリフォンにひたすらかばってもらって無事に戦闘終了となった。

 マップギミックを活かすためとはいえ、少々敵が多すぎたかもしれない。が、生きてるのでオールオッケーだ。楽しかったのでそれでいい。


◇ サヤリの足跡 ◇


フィオラ:「ふぅ、危うく死ぬかと思ったぜ……サンキュー、ウルリサ、グリフォンちゃん」

サウリル:「こんな所で死なれたら、本当に冗談キツいっての……嫌だからね、アンデッド化したあんたと戦うの」

フィオラ:「ははは。あたしも、あたしのレヴナントとかとはぜってー戦いたくねえわ。戦うことしか頭になさそうだからな」

カデア:「自分で言うんだな……しっかし、この犬はどこから来たんだか」

?:「あの……助かった。あなたたちは、かなりの腕前なんだな」


 手当や剥ぎ取り(道徳的にはとてもアレかもしれない。成果は960Gだった)を行っていると、一行を見守っていた群衆の中から、戦士然とした格好のエルフの男がやって来て、声を掛ける。


フィオラ:「それほどでも。つって、結構危なかったけどな」

ヤザン:「それでも、こうして勝利を収めたじゃないか。……ああ、申し遅れた。俺の名前はヤザン、この街出身の冒険者だ。普段はアリイアにいるんだけどな」

カデア:「ここの出身か……心中察するよ」

ヤザン:「どうも。……久しぶりに帰郷していたら、突然こんなことになってしまって。近くにいた人たちは逃がすことができたんだが……その……一緒にいたはずの、妹の姿が見当たらなくってな」


 なんとも重たい話が続く回だ。SNEのゲームブック、なんか毎回こんな感じのパートが入るような気がする。

 裏で現在回しているエンシェントブルーのキャンペーンは、比較的平和だが……あちらもいつか、激重エピソードの奔流が襲いかかってくるのだろうか。


 さておき。彼の話を聞いてみると、どうやらアンデッドによる襲撃が始まった直後に、数人の黒衣の者たちが、子供たちと─────子供たちに勉強を教えていた、サヤリという名前のシーン神官の女性を連れ去ろうとしている姿を目撃したらしい。


フィオラ:「……だそうだけど」

ウルリサ:「……むしろ、あの人こそ、誘拐の主犯なんじゃないかしら。自分も連れ去られた振りをして、本拠地にでも戻ったのよ」


 なお、ウルリサに話を振ってみたところ、この反応である。どこまでも母親のことが嫌いなようだ。

 この様子だと、話し合いの余地も無いような気がするな……出会った瞬間にメイスを振りかざす彼女の姿が、簡単に想像できてしまう。


ヤザン:「なにか、複雑な事情があるみたいだな。……で、黒衣の者たちは大声で何か言っていたんだが、状況が状況だったものでな。『ヤミアデミア』と『サンシャイン駅』という単語が聞こえたことだけは覚えているんだが」

サウリル:「つまり、そいつらはヤミアデミアの配下で、サンシャイン駅に向かった……ってとこかしら。なら、次の行き先はそっちね」

ヤザン:「追いかけるつもりなのか。なら丁度いい、俺も連れて行ってくれないか?街の人間として、子供たちを……妹を取り戻すのに、協力したいんだ」

フィオラ:「冒険者ってことは、お前もそれなりに戦えるってことだもんな。なら、あたしは構わねえけど……(姉妹の方を見る)」

サウリル:「……来る者拒まず、去る者追わず、よ。着いてきたいなら、お好きにどうぞ」

ウルリサ:「そうね。戦力は、少しでも多いほうがいいし。こんなことをする連中が相手なら、全力を尽くすべきだわ」

シヴァニカ:「私……というか、ヘキマ様的には、どうなのかしら。黄金九至宝とは、あまり関係のない件の予感がするのだけど」

カデア:「そう言うな。思わぬところで話が繋がってくるかもしれないぜ。例えば……サヤリさんの家とか」

ウルリサ:「……そうね。この街にどんな目的で来ていたのか、分かるかもしれないし、調べてみましょう。家はどこに?」

ヤザン:「あぁ、それなら郊外の方に。案内しよう」


 そうして、ヤザンの後をついていく。街は未だ凄惨たる光景であるが、少なくともアンデッドは殲滅できているようで、人々はある程度落ち着きを取り戻していた。


 しばらく歩くと、小さな家と、その傍らに鍛冶小屋があるのが見えてきた。ヤザンいわく、ここがサヤリの家らしい。

 鍛冶職人だったのだろうか。そういった話は、クセナウイからも姉妹からも聞かされていないが。


ヤザン:「ファディヤ……妹は、サヤリさんとすごく仲が良くてね。いつも『黄金呪刻術っていう特別な技術について教えてもらっている。私も将来は鍛冶師になりたい』と、楽しそうに言っていたよ」

サウリル:「……鍛冶が得意という話も、黄金呪刻術についても、初耳だわ」

ウルリサ:「えぇ、私も……キャラバンを出てから、身につけたのかしら」


 そう思ったのだが、姉妹の反応を見ると、そういう訳でもないらしい。

 あるいは、身分を偽るために職を変えたとか……いや、無いか。それなら偽名を名乗っているはずだな。


 色々と気になるが、家の中を捜索してみる。すると彼女の手帳を発見でき、そこには黄金呪刻術についてと、〈紅金〉に関する記述があった。


フィオラ:「ヌイ・アッシャールは、その加工に〈焔蠍の鉄槌〉という魔法の槌を使っていた。それには蠍の紋章が刻まれていて……蠍?つまり、これのこと?(手槌を取り出す)」

カデア:「可能性は高そうだな。同じような槌が、そう何本もあるとは思い難い」

シヴァニカ:「あら。まさか、本当に手掛かりがあるなんて。他になにか記述は……!〈時の卵〉の製法、とあるわね」

フィオラ:「マジ!?……あれ。でも、そっから先はまっしろだな……」

カデア:「調べている最中だったのかもな……けど、何か知っていそうなのは分かったな。このまま追い続けてみるか」


 方針が決まった所で、調査は一旦ここまでとなった。

 その後、ヤザンが街を出る前に町長のところへ顔を出したい、というので付いていくと、アンデッド撃退の功績の礼として2100Gの報奨金を頂けた。


町長:「少なくて申し訳ない。復興や被害者の救済のために資金が必要でな、これで精一杯なのだ」

フィオラ:「気にすんな。そもそも、金目当てでやったことじゃねーからな」


 申し訳なさそうに頭を下げる町長に、これから子供たちとサヤリを助けに行くことを伝えると、改めて感謝の言葉を告げられた。

 私情全振りの旅のはずなのに、なんだか結果的に、人助けばかりしているような気がする。シナリオの都合と言ってしまえばそれまでだが、巡り合わせというのは不思議なもの、ということにしておくか。


 こうして一行はネジュドナジュを後にし、一度キャラバン本隊と合流するために、新たな仲間と共にアイリアへと踵を返す。


 ……今回の件、ニオが絡んでいるものだと思ったが……出てきたのは、ヤミアデミアの名前だけだったな。

 あるいは、ニオとヤミアデミアが手を組んでいるのだろうか。吸血鬼になったということは、奴は今蛮族の身なのだ、可能性は無くはない。


 サヤリの真意も気になるところだが、フィオラ個人としては、そちらも追っていかなければ。


 ◇ 成長処理 ◇


 なかなかの長丁場であった。このボリュームであと七話もあんのすげえや。

 ということで、今回も成長処理をやっていこう。まずは能力値成長(コロコロ)生命力が伸びた。スマルティエで固めればB4まで上げられそうだ、ちょっと考えておこう。

 名誉点は9d6で(コロコロ)36点。まあまあの数字だ。

 ……使い道を特に考えてないんだけども。どうしよう、特に使いたい流派も無いが、別に装飾品も間に合ってるっちゃ間に合ってるし、専用化もHPとMPの補強くらいしか必要なさそうだ。

 無駄にしておくのも勿体無いので、これも何か考えておくか……


 最後にお待ちかね、技能の成長だ。グラップラーを5に上げて、新たな戦闘特技には《武器習熟A/格闘》を採用。ギリギリお金が足りたので〈イージーグリップ+1〉を購入し、今後はこれをメインウェポンとして戦っていくことに決める。

 後は7レベで《踏みつけ》を取って完成、だろうか。耐久面に不安があったら《頑強》にするかもしれないが。


 成長処理は以上。結局最後まで怒涛の展開が続く回だった。

 次回も多分、姉妹とサヤリ関係で色々と波乱が巻き起こるんだろうな。新入りのヤザン君も、妹の命が掛かっているんだ、それなりに暴れそうな雰囲気がある。

 いやぁ……やはり人の死が絡むと楽しくなってきますね、TRPGってのは。


 そんなワクワクの第六話、『腐った太陽』へ続きます。タイトルがもうきな臭い。

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