第五話 "過去からの呼び声" / 前編

 ~ あらすじ ~


 ついに"黄金のキャラバン"本隊と合流することができたフィオラ。

 早速、姉妹が所属するカビの長、メゼー・クセナウイに話を伺うも、彼女は〈時の卵〉も〈古びた手槌〉も特に知らない様子だった。

 他のメンバーに聞いてみても、核心に迫るような情報は得られず。どうしたものかと悩んでいたが、ある日、他のカビからの依頼で"無法都市"ヒューマへと同行することになった。

 そこで有名な遺跡荒らし、ヘキマ・オーマから〈時の卵〉に関する情報を手に入れることができた。ついでに土産話を持ち帰らせるためにと、彼の従者の駄メイド・シヴァニカも旅に同行することに。


 その帰り道、他のカビがヤミアデミアの手下と思わしき賊に襲われているところを発見、すかさず応援に駆けつける。

 そして無事に追い払うと、こちらのカビの手伝いで来ていたサウリルに、一人の男を紹介された。ヘキマ・オーマの一人息子にして後継者、カデア・オーマである。

 いろいろと話を聞いた後、面白そうだからと彼も旅に同行することになった。突然の大所帯となった一行が次に向かうのは、果たして。


 しかし、未だに一切の情報が出てこないニオはどこで何をしているんだろう。

 まさかあいつ、本当に吸血鬼になりたかっただけなのか?けど儀式の完遂には、フィオラの死が必要なはず。であるなら、こちらを探し回っていてもいいと思うのだが。


 謎が解けているようで解けていないこの物語、真相やいかに。


 ~ あらすじおわり ~


 ◇ 導入 ◇


 シナリオ内では、前回から一ヶ月ほどの月日が流れていた。位置はヒューマから東の辺りだろうか、それほど長い距離は移動していない。

 キャラバンと共に旅をしながら、行く先々で更なる情報を求めて駆け回るも、結果は空振りばかり。そんな日々が続き、フィオラは段々と焦りを感じてきていた。


フィオラ:「今日も成果なしだぁ……ヌイとか言うやつ、どこに材料があんのかも、ちゃんと後世に伝えとけよなぁもう……(ワインを注いだグラスを一気に空にする)」

カデア:「その……フィオラ。気持ちはわかるんだが……ワインの瓶を二本空にする勢いで飲むのはどうなんだ……?」

シヴァニカ:「坊っちゃん、お酒は一気に飲むのが気持ちいいのよ。ちびちびと飲んでいては、酔えるものも酔えないわ」

フィオラ:「そーだぜぇ、それにこういう時は、酒で気ぃ紛らわさないとやってられねんだぞ。シヴァニカはよく分かってるなぁ……どう、お前も一本いっとく?」

シヴァニカ:「あら、気が効くわね。それじゃ、お言葉に甘えて」

カデア:「はは。……あー……俺も飲んだ方がいいのか?これ」


 新入り二人とも仲良く(?)なったが、友情で呪いが解けることはないし、(プロローグをすっ飛ばしたせいで影が薄い)義妹の命も助からない。

 こうして宴をしている間にも、刻限は無慈悲に迫ってきているのである。


 気がつけば、世界はすっかり雪解けの季節だ。大平原から白色は消え去り、その下に埋もれていた草花と砂が大地に広がっている。

 つまり旅を始めてから、もう三ヶ月近く経っているということ。しかし進展はと言うと、正直あまりよろしくない。マカブへ戻る時間も考えると、こうしてオーレルム各地を巡ることができるのは、せいぜいあと半年ほどだ。

 いっそキャラバンに別れを告げて、前回話に上がった"太陽王国"マーティアスに、シヴァニカとカデアだけを連れて向かってしまうべきだろうか。そんな考えすら頭に浮かび始める。


クセナウイ:「あぁ、いた。お楽しみのところ悪いが、ちょいと大事な話がある」


 そんなところへ、クセナウイがやって来た。その表情は物憂げで、いつものような覇気や余裕はあまり感じられない。

 あまり楽しい話では無さそうだが、とりあえず耳を貸すことにしよう。


フィオラ:「どした、突然。もしかして何か情報を掴んできてくれたのか?」

クセナウイ:「いや、あんたの捜し物に関する話じゃあない。……ウルリサとサウリルのことで、頼みたいことができてね」

フィオラ:「あいつらの?……あれ。そう言えば、今日の野営が始まってから、あいつらのこと見てねえ気がする」

クセナウイ:「だろうね。というのも、あの子ら、グリフォンを勝手に借り出して北東に向かったみたいでね」

フィオラ:「グリフォンを?なんだってそんなこと……まさか、夜逃げか?」

クセナウイ:「違う。……けど、逃げ出した、という点は正解と言えるかね」


 話を聞いてみると、どうやら姉妹はここから北東にある、"双子港"ことアイリアの街へと向かったらしい。

 理由は、かなり意外なものだった。どうやらキャラバンの先行役(本隊の目的地に単独先行して、トラブルが起きないように現地住民と話をつける役らしい)であるカビの者たちが、アイリアから少し離れたところにある小さな街・ネジュドナジュに、姉妹の母親・サヤリがいるという情報を掴んだそうなのだが……

 それを知った彼女たちは、なんと母親を殺すつもりで、そこを目指しているというのだ。


クセナウイ:「あの子らの母親……サヤリは、十年前まではうちの所属だったんだがね。ある日、夫のジューアを殺して出奔したのさ」

フィオラ:「おっかねぇなあ……それで、あいつらは親父の敵討ちのために?」

クセナウイ:「多分ね。……けど、サヤリがどうしてあんなことをしたのか、未だにあたしも分かってない。永遠の命を得るために邪神への生贄にした、なんて噂も立ってるけど……もしかしたら、そもそも殺したのはサヤリじゃないとか、誰かに脅されたり、唆されたりしたんじゃないかって、ずっと気になってるんだ」

カデア:「けど、真相は分からぬまま、か……それで、俺達は何をすれば?」

クセナウイ:「簡単さ。あの子らの後を追って、サヤリを探すのに協力してやって欲しい。ただ……本当に復讐を果たすべきかどうか、あんたらも考えるのを手伝ってやってくれ」

シヴァニカ:「構わないけど。十年経ってもまだ殺したいと思ってるのに、説得なんてできるのかしら」

フィオラ:「うーん……正直、そーいう難しい話にゃ縁の無い人生を歩んできたもんでな……けど、あの二人にゃここまで世話になったからな。どういう形であれ、助けにはなってやりたいとは思うとこだ」


 いきなりかなり重ための話をぶち込まれたが、あの二人は大切な仲間だ。色々と助けてもらった恩もある。

 殺すにしろ、許すにしろ、後悔の無いようにさせてあげよう。そう思い、フィオラは頷く。


クセナウイ:「ありがとよ。……ほら、餞別だ。依頼料代わりに持っていきな」


 クセナウイは一瞬だけ、表情をほんの少し柔らかくした後、銀貨袋をこちらへ手渡してきた。中には2700ガメルほど入っている。


クセナウイ:「ゴールデングリフォンは元来、あまり群れから離れたがらない。あの子らも、適当なところでグリフォンをこっちに帰したら、後は歩きでアイリアを目指すだろうよ」

フィオラ:「あー……つまり?」

カデア:「……つまり、そう長い距離をグリフォンで移動しないはず。だから、今からならまだ追いつけるだろう、ってことだ」

クセナウイ:「そういうこった。ディクシャのとこが、次はアイリアに向かう予定だって言うんでね。またあいつらに同行してくれ、話はもうつけてある」

フィオラ:「はは。もうってことは、あたしが頷くのは分かってました、ってか?」

クセナウイ:「まあね。これでも人を見る目にゃ自信があるんだ。……だから、あの子らのこと、よろしく頼んだよ」

フィオラ:「任せな。……しかし、あいつらがいないと分かると、急に寂しくなるな」


 そう、二人がいないということは、プラトーンメンバーからも外れているということである。正直滅茶苦茶困る。

 幸い、二人が乗っていったグリフォンはプラトーンメンバーの子ではなく、キャラバンの中から適当な個体を選んだそうだが。ひとまず、今回のプラトーンのスタメンを決めていくか。


 前回、探索判定を手助けしてくれる人を雇いたいという話をしたが、なんとカデアくんが丁度その能力を持っていた。スカウト技能を用いる判定を、基準値7で行なってくれるそうだ。

 装備効果によるデバフ付与もあるので、恐らく彼は最終メンバー候補として戦っていくことになるだろう。そんな彼を採用……するのだが、初回雇用時には1200ガメル持って行かれるようだ。流石に全員が全員、タダで付いてきてくれる訳ではないらしい。

 汎用メンバーも同じく、初回雇用時には1000ガメルが要る。姉妹が永久離脱する訳ではないだろうと考えると、彼らで枠を埋めるのは少々もったいないか。

 なので、結局メンバーはグリフォン、カデア、シヴァニカのオール前衛編成のままに。


 買い物もできるが、今回は特に無し。〈シンプレート+1〉+〈ミモレの布鎧〉と、〈イージーグリップ+1〉のどっちにしたもんかな、というので悩んでいるのだ。

 蹴りがあまりにも当たらないので、ここらで投げビルドにシフトし、プラトーンやマップギミックでチクチク削っていく戦法の方がいい気がするなあと。


 ◇ 魔物の川流れ ◇


 二日後、一行はアイリアの街へ到着した。

 同行させてくれたディクシャへの感謝を手短に済ませて、対岸のアリイアへの渡し船が出ている船着き場へと向かう。

 しかし船乗りに話を聞いてみると、「それらしい二人組なら、儀式前の最終便で渡っていってしまったぞ」という回答が。


フィオラ:「一足遅かったか……っつーか、やけに人が多いな」

カデア:「儀式……そうか。そう言えば今は、雪解けの直後だったか……」

フィオラ:「なんだ。船乗りも儀式がどうとか言ってたけど、春を迎える祭りでもやってるのか?」

カデア:「祭りではないな。上流にある丘陵地からの雪解け水が一気に流れて来る時に、水棲の魔物も一緒に流れてくるんだ。で、とても河を渡れたもんじゃなくなっちまうから、船を止めて魔物の間引きをするんだよ」

シヴァニカ:「またの名を、水迎えの儀式、ね。報酬目当てで参加する人が、毎年一斉にヒューマを出ていっていたような記憶もあるわ」

フィオラ:「だー、マジか……そんなんなってんじゃ、泳いで渡るってのも無理だろうな……」


 加えて、どうやらここで数日の足止めをされてしまうようだ。

 しかしこのまま帰ったところで、クセナウイに合わせる顔がない。姉妹が母親探しに手間取ることを祈って、後を追い続けるしかないか。


フィオラ:「……とりあえず、もう少し色々聞いてみるか。抜け道的なもんを知ってる奴がいるかもしれねえしな」


 何もせずに運行再開を待つのみ、というのも勿体無いため、一行はこの場で可能な限りの情報を集めることに。チャレンジの時間である。


 今回のチャレンジの報酬欄には、経験点の他に【情報】と書かれているのが見える。どうやらチャレンジの結果がそのまま得られる情報に反映されるようで、比較的簡単なチャレンジでは得られる情報量が少なくなるらしい。

 であれば、なるべく多くを回収できるようにしたいところだが……すべての判定が、知力ボーナスを基準値に用いるもの。しかも魔法使い技能を必要とする項目もある。ここぞとばかりにソレイユを虐めやがって。

 一応、前回の聞き込みの時のように、ガメルを支払えば達成値にボーナスを得られはするようだが……ひとまず、3点疲労するだけで情報1点と経験点120を獲得できるので、これをやっておこう。

 もうひとつは……〔戦士技能+知力B/目標値14〕をやるか。(コロコロ)400G支払うことになったが無事に成功、これで情報1点と経験点240。

 プラトーン、というかカデアには〔探索判定/目標値15〕に挑戦してもらう。(コロコロ)150Gを支払って成功、合計で情報4点と経験点480を得た。

 基準値が7もあるの、本当に助かる。フィオラがその値を出そうとすると、スカウトを6まで上げないといけないからな……


カデア:「人の少ないところにいるやつの方が詳しいもの、ってな。裏路地でたむろしてた連中から、いい話が聞けたぜ」

フィオラ:「助かるぜ。1200ガメル分の仕事、ちゃんとやってくれるみてえだな」

カデア:「まあな。で、話によるとだな─────」


 得られた情報は、まずは間引きの簡単な概要について。

 この街の冒険者ギルド〈金の舵亭〉で募集を行なっており、冒険者でなくても参加の申請を受け付けているらしい。フィオラは放浪者の身であるし、カデアとシヴァニカも(プラトーンなのでシステム的には関係ないけども)冒険者登録はしていないだろうが、その点に問題はないようだ。

 流れてくる魔物は毎年まちまちだが、今年予想されているものの中で一番の大物は、〔アイスジャイアントクラブ〕という魔物だそうだ。魔物知識判定は当然失敗したので、データは実際に遭遇するまで確認しないことにしよう。

 間引きへ参加した場合の報酬は2400G。そして、河運ギルドによる安全確認が完了次第、翌日の朝から船の運行が再開される。


 ここまでが必ず得られる情報で、ここからはチャレンジの成果による追加の情報。

 まず、間引きの詳細。これは明日の朝から開始される予定で、参加の申請をすれば、冒険者ギルドが手配してくれる宿屋で、無料で食事と宿泊が行えるそうだ。地味に有り難い。

 そして、今回の作戦。妖精魔法の使い手達が、参加者達に【ボトムウォーキング】を使用して、河の中へ突っ込んでいくというプランらしい。あまりにも脳筋すぎるやり方だが、しかし合理的ではある。フィオラさんはこういうの大好きだろう。

 それから、迂回路の情報も得られた。ここから南に少し進んだ所にあるプレジビオという河港なら、儀式の間でも船が出ているそうだ。この街が魔物を食い止めてくれるから問題ない、ということだろうか。

 とはいえ、既に多くの人がそちらへと向かっているため、あちらはあちらで酷く混雑しているだろう、とのことだ。安全ではあるが時間は掛かるルート、か。


 最後に、おまけのような情報。ここの川底には、もともと〔ジャイアントクラブ〕という魔物が生息しており、間引きの際にはそれの相手もしなければならないだろうとのこと。魔物知識判定はやはり失敗したので、アイスのとそうでないのとで何がどう違うのかはよく分からない。

 また、河の中は川藻が大繁殖している、という話を聞けた。そのせいで視界はとても悪く、絡みつくせいで行動にも支障がでるかもしれないと。

 逆にそれを利用する手段として、〈川藻のマント〉なる装備品があるそうだ。データを見てみる。

 ……うーん、効果はそれほど強そうには見えない(長文なので割愛)が……たったの100Gで買えるみたいなので、後で買いに行くか。ここ以外で役に立つ場面があるとは思えないが、さして痛い出費でもない。


カデア:「─────とまぁ、こんな感じだ。それで、この後どう動く?」

フィオラ:「もちろん、間引きに参加してくぜ。ちゃんと報酬も出るみてーだし、何よりタダで飲み食いできるのが最の高」

シヴァニカ:「同感だわ。この世で最も美味しいのは、人の金で食べるお肉よ」

カデア:「……怒られない範囲で頼むぜ。うん」


 かくして一行は、冒険者ギルドへと。手続きを済ませ、宿屋を手配してもらう。

 その後、再び裏通りに赴いて〈川藻のマント〉を購入。RP的には、カデアとシヴァニカの分も買ってあげたいところだが……


フィオラ:「お前らもこれ要る?」

カデア:「そうだな。あぁ、金は気にしなくていい。こないだ払ってもらった雇用費から出すさ」

シヴァニカ:「私も、ヘキマ様から路銀を渡されてるから。気にしなくていいわ」

フィオラ:「そか。…………なぁシヴァニカ、その路銀をちょーっとだけでいいから貸してもらうっつーのは……」

シヴァニカ:「……それをやると、流石に私の首が飛ぶわね」


 それくらいの金は持ってるだろうということで、各々買ってもらうことに。

 シヴァニカに至っては、100Gどころか10000Gくらい払えてもおかしくないですよね。分けてくれないかなマジで。


 ◇ カニトケンカ ◇


 翌日、船着き場には大量の冒険者や力自慢の連中が集っていた。その中には、当然フィオラ達の姿もある。

 そして規程の時間がやって来ると、妖精使い達が一斉に【ボトムウォーキング】の行使を始める。これが作戦の要であり、作戦開始の合図だ。


フィオラ:「よっしゃ、行きますか。……へへ。蟹を肴に飲むのもいいし、殻に酒を注いで飲むのも美味いって、どっかで聞いたことあんだよなぁ……」

カデア:「ブレねえな、あんた……そもそも食えるのか?ジャイアントクラブって」

シヴァニカ:「アイスの方は知らないけど、通常種は美味しいわよ。前に、ヘキマ様が買ってきたものを、つまみ食いしたことがあるわ」

カデア:「お前もお前でブレねえな本当に……」


 ウルリサ不在の今、カデアくんを常識人枠にせざるを得ない今日このごろ。

 皆さんのプラトーンメンバーはどのように扱われているでしょうか。少人数ないしGM有で遊んでいるのであれば、あれこれ喋らせた方が楽しいと思いますよ。


 さておき、戦闘の時間だ。事前通達通り、今回は水中での戦闘になるので、行動判定にペナルティが……あると思いきや、〈川藻のマント〉を着ている場合、これを打ち消すことができるらしい。買ってよかった。

 そうなると、戦闘の難易度はどんなものだろうか(カニ二種のデータを確認する)回避ピンゾロチェックゲーを確認できてしまったので、無闇に敵を増やすのはやめておこう。経験点と剥ぎ取りが美味しくなる一方だ。

 ということで、配置されるのは〔アイスジャイアントクラブ〕一体のみ。戦闘内容は……書き起こすまでもないな。ひたすら避けてボコって終わった。


フィオラ:「っしゃ、晩酌のお供確保!!」

カデア:「……もしかして、最初からそういう理由で参加してた?」

フィオラ:「流石にんなこたねーって。文字通り、美味い話が転がり込んできたから、しっかり釣られてみただけだ」


 マントを買わず、カニも三匹くらい配置していれば、そこそこ手強い相手だったとは思うが。まぁ道中戦闘はサクサク行った方がいいか。

 こうして無事に間引きを終えて、報酬を獲得。再び宿に一泊し、翌日の朝にアリイアへと渡ることができた。


フィオラ:「意外とすんなりだったな。さて、こっからは……また歩きか?」

カデア:「街から街なら、馬車とかが出てるんじゃないか?距離もそこまで遠くないって話だったしな」

フィオラ:「なるほど。じゃ、乗り場でも探してみますか」


 ネジュドナジュへと続く街道の方へ向かうと、果たして馬車乗り場が存在していた。片道20Gという良心的価格だ。

 早速、それに乗り込もうとすると……待機していた馬車の中に、見慣れた顔が二つ並んでいることに気がついた。ウルリサとサウリルだ。


ウルリサ:「!……どうして、貴女がここに……」

フィオラ:「あれっ。お前ら、おとといこっちに渡ったって聞いてたんだけど……」

サウリル:「……何しに来たの?なんて、聞くまでもないか。おおかた、メゼーに言われて来たんでしょ。あたし達を連れ戻すようにって」


 再会を喜ばれることはなく、二人は申し訳なさそうに、あるいは突き放すように、そんな言葉を口にする。


フィオラ:「いや、逆だ逆。お前らを手伝うように言われてきたんだよ」

カデア:「あぁ。……ま、復讐を認めるかどうかってのは、今のところ審議中って感じだけどな」

サウリル:「そこまで聞かされてるのね。はぁ……ま、いいわ。ひとまずは付いてきてくれるんでしょ?」

ウルリサ:「そうね。……巻き込んでしまってごめんなさい。でも、できるなら邪魔はしないで欲しいわ」

フィオラ:「あー……けどクセナウイは、お前らのお袋のこと、今でも信じてるって様子だったぜ」

ウルリサ:「……そう。けど、私は今でも、あの人のことは信用していないわ」

シヴァニカ:「頑なね。私としては、あまりとやかく言うつもりは無いけれど」

カデア:「やれやれ……とりあえず、本人を見つけないことには、話は進まなさそうだな、こりゃ」


 ちなみに、導入でクセナウイから聞いた話の中には、『テケルロコの神官戦士であった父親の意志を継ぐ形で、ウルリサも同じ道を選んだ』というものもあった。

 サウリルの方はどうだか分からないが、ウルリサの方の覚悟や憎悪というものは、なかなかに強力そうである。どうなることやら……


 一触即発、とまでは行かないが、やや気まずい空気の中、やがて出発の時が来る。

 

 目指すはネジュドナジュ。

 雪はすっかり解け、気候も穏やかになりつつあるはずだが、馬車へと流れ込んだ春風は、とても陽気なものには感じられなかった。


 (まだまだテキストがあるのが見えているのでここで分割。後半へ続きます)

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