第124話、ネコミミ後の公爵

 夜遅く……。


 公爵家の一室で、ベッドで抱き合う寝巻き姿の俺達は決戦の最中にあった。


「うぃ……うぃ……」

「ごろごろ……」


 して欲しいことをしてあげると言ってしまった手前、三回戦を終えた猫耳モナが掲げた『ネコモナ夜通し可愛がり』中の俺。既に満身創痍である。虫の息である。


 ドロドロになってしまったモナが好き好きと抱き締めて胸に頭を擦り合わせて来ているが、とにかくポーションを飲んで回復しなければ。


「コールくん……」


 とろんと蕩けた表情のモナが、濁る瞳で話しかけて来た。


 あまりの長期戦。夜の暗闇も相まり、汗を滴らせて妖艶に過ぎるも、今度は何を言い出すか戦々恐々としてしまう。


「う、うぃ……」


 ぷるぷると怯えながら、ポーションを飲み干す。


「またメラメラとやる気か燃え上がって来たよ。どうしてくれようか、コールくん……」

「…………」


 愛を溢れさせて抱き着くモナだが、俺は心休まらない。


 先程よりも壮絶なお願いをされたなら、俺は生きて朝を迎えられる気がしない。


 こちらの方が余程に試練であった。


「むっ、頭」

「は、はいはい、ただいま……」


 熱く抱き締め返して頭を撫でろと、甘えん坊全開で催促された。


 どうやら午後に俺から言われたことで、自らの在り方を再考した結果、俺よりも優位を取りたいらしい。


「う〜ん…………でも何か物足りないじゃないか。いつも好き放題にされ過ぎて、何か変な癖が付いているんじゃないだろうか」

「好き放題、してるかなぁ……」

「あぁ、しているとも。でもやはり、いつも通りが一番だね」


 鮮烈なまでに柔らかいモナの感触が離れていく。


 離れたモナは両手を広げて俺を迎える体勢を見せ、とんでもない物言いをする。


「はい、盛りの付いた犬のように激しく腰を振るといい。私はそんな君の全てを受け入れる。人はこれを献身と呼ぶ」

「なんちゅう嫌なことを言うのかね、君はぁ。自分の方がエロい癖に……」

「ほほう? このお痛の最中にそれがよく言えたものだね」


 普通にモナの左乳を揉みながら話を聞く俺を、無抵抗のまま責める目付きで言う。


 本物そのものの猫耳と尻尾が、期待感からか反応を示している。


「…………」

「うぬぬっ…………こら! 早くもっとガッとやったりギュッとやったりしないといけないじゃないか!」


 ちなみに通常ガッとやったりすると女性は痛い思いをするはず。


 モナはエロエロになってしまった特殊な魔女だからなので、他の一般的な女性とは異なる。


「ほら、エロいやん」

「……そうだろうとも。そんな私も究極的に可愛いだろう?」


 拗ねながらセクシーポーズを決めるモナの胸を揉む手を退けて、正直に言う。


「めちゃくちゃ可愛い。モナがいる幸せな日々に感謝」

「…………」


 目を閉じて一気に脱力し、仰向けに倒れてしまうモナだったが、やがてポツリと呟いた。


「…………早く好きにしたまえ。撃ち抜かれた心の臓が煩くて仕方がない。それとも体勢を変えた方がいいのかな?」

「おおっ、じゃあ四つん這いでケツをこっちに向けてくれる?」

「け、けけ、ケツと言ってはいけないと、常々言っているじゃないかっ!」


 そう言いつつも体勢を変えてくれるモナと、そんなこんなで明日の試練に備えてウォームアップに励んだ。丸くて真っ新なお尻が何とも神々しく誘ってくる。


 公爵様が怖い人ではないと聞いてから、とても心が軽い。試練に臨む俺を置いて、モナ達は朝にはペンションに旅立つという。


 ほんの少しの別れを惜しみ、俺達は朝方に就寝した。


 翌朝、迎えに来たシュナイゼルさんに叩き起こされ、俺は公爵様と顔合わせを果たした。


「…………早く名乗りなさい」

「…………」


 めちゃくちゃ怖いご婦人がいた。パシリと威圧するようにデスクを叩き、自己紹介を命じられる。


 公爵様の隣に立つシュナイゼルさんを、限界突破の眼光で睨み付ける。


「ふっ……」


 小僧を揶揄って何が楽しいのか、心底から愉快げに鼻で笑っている。


「コール・アリマ、早く、名乗りなさい……」

「も、もうお知りになられてるじゃないっすか」

「…………」


 ギロリと書類に目を通していた公爵様が目線で俺を射抜いた。


「コール・アリマっ、ファーランドにてポーション職人をしております!! 郊外の一軒家在住っ、玄関にパンツが飾られているのが目印です!!」

「余計はことは言わないでよろしい」

「すみませんっ!!」


 ぴしゃりと切り捨てられる俺の自己紹介。冷血公爵の異名通りに、冷徹な眼差しと言動である。


「あなたには《闇の魔女》様の騎士として相応しい振る舞いが求められます。他の貴族、他国の貴賓、そして何よりリア様を前にそれなりの作法が求められます」


 このままの俺がいいんじゃないっすか……、普段のように言いたいところではあるが、無駄であることが一目瞭然である。


「ここで短期間で集中して身に付けてもらいます。リア様の騎士として、栄えある王国民として相応しい人物への教育です。一方的であることに変わりはないので、依頼の一環として相応の給金もあなた個人にお支払いしましょう」


 公爵は書類を置き、俺をしっかりと見据えて仰られた。


「初めに、疑うわけではありませんが確認の意味も込めて試練を。次に訓練を行ってもらいます。シュナイゼルの下すポイントが合格点を上回らなければ、ファーランドへは帰しません」

「えっ……!? そ、そんなの拒否するっす!!」

「余計なことをしないのであれば勝手にせよ、とのお言葉をリア様より頂戴しています。私の権限で都市間馬車には乗せないよう手配済み。ここでの経験は後にあなたを生かすことに繋がるでしょう。なので、やってもらいます」

「お、おおぅ……」


 ここまで強引に話を進められるとは想定外であった。


 公爵様に本気になられると、村人の俺などは指先一つで爆散である。


「し、試練っていうのは……? 俺、まだ死にたくないっす……」

「私から説明しよう。なに、簡単なものだ」


 シュナイゼルさんは俺に百万ゴールドの皮袋を手渡した。


「これで、この都市の近くにいる“ブンブン”という魔物を探して倒せ。手段は任せる。しかし不正は考えるな? 加点減点を判断する為、私も同行する」

「あ、アドバイスなんかは……」

「無い、ある訳がない。私はただの一言も発しない。ただ同行するだけだ」


 ブンブンなんて名前の弱そうな魔物だから、倒せる範囲ではあるのだろう。


「屋敷の者やあなたの仲間達には口止めをしてあります。助言などを求めないように」

「朝食も別々だ。見送りは許可する」


 二人して一方的に言いつけて来るので、畏縮の連続である。


「……い、いつから」

「今からだ」


 朝食くらいは、落ち着いて食べたかった……。



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