第88話、偽りが剥がれる
「ガッハッハッハッハ!!」
「マナポーションは!?」
「飲んだぁ!」
次々に交代し、冒険者達が大技を繰り出していく。
次なるは《アテナ》のサラ。シンシアやドナガンに次ぐ火力の持ち主である。
「はい元気がいいっ! お好きなタイミングでどうぞ!」
「行くよぉ!!」
大きく跳び上がり、槍を力強く投擲。込められた魔力は稲妻が迸る程である。
ここまでの者達と同じく、この一投に全てをかけていた。
「はいっ、ここ!!」
コールがステッキを使い、槍が引き起こす大爆発を増殖させる。
「次っ、あたし行くぜぇぇぇぇ!」
「どんと来いっ!」
駆け出した《アテナ》のイリーナに合わせて並走し、盾から発せられた光にステッキを使用。
平原を横一列に並ぶ巨大な光の盾が、魔王タナカ達を打ち飛ばす。
「次は俺だぁぁ!!」
「オッケーっ! マナポーション飲んで待っとけぇ!」
冒険者達の誇りが魔王へ撃ち込まれていく。
全身全霊を一撃にかけ、都市を守らんとして全力を撃ち込んでいく。
歯を食いしばり、声を張り上げ、背後に上がる花火よりも大きな火花をと、渾身の魔法をぶつけていく。
それが魔王に届く。
魔王の本能が危機感を叫び、全ての魔王が一斉に手刀から斬撃を放った。
「っ――――」
全員が疲弊状態。出せるものは出し尽くし、返礼として返って来た平原を細切れにする斬撃の嵐に為す術はない。
死が、迫る。
「儂が来たんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
魔王の斬撃に慄く冒険者達を、虹色の防壁が取り囲んだ。
「が、学園長っ! あんた、本当に魔法が使えたんすね!」
「どういう意味ぃぃぃぃぃ!?」
悍ましい紫の斬撃を無数に受け、白髪の老人は杖を掲げて全身を力ませる。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!」
「いけるっ、いけるっ、いけるよっ!」
「ぅぅぅぅぅぅ!!」
もう無理だと首を横に振り、急速に消費されていく魔力にビビる学園長。
「あっ、増やせばいいのか」
「フーエルステッキあんの!?」
思い至ったコールが学園長の防壁を増やし、魔王の斬撃を防ぎ切った。
「今よっ、もう一度アレが来たら終わりっ! コールちゃん、あたしにも力をっ!」
「オッケ、ドナガンさんで決めるぞぉぉぉ!」
よれよれと座り込んだ学園長を置いて、ドナガンの元へと走る。
「いっけぇ! ポーション係ぃ!」
「頼んだぜっ、ドナガン!!」
冒険者達の応援を受け、ドナガンが斧から青白い雷電を迸らせ始めた。
「ガッハッハッハッハッハ!!」
「ウチのもんが派手に行くぜぇ!」
ギルドの信頼を背負う【ファフタの方舟】最強の冒険者。
「ポーション君も頼んだよっ!」
「任せなっ、うちのドナガンさんは凄えんだからっ!」
一番の功労者に、最も頼りにされるその者。
「いっくわよぉ……あたしのとっておきっ」
全身が膨張したのではと見紛う程に力んだドナガンが、勇ましく斧を振り上げた。
溜めた雷撃を解き放ち、上空に巨大な雷の鎚を生み出す。
破格の電熱が余波のみで平原を熱し、空気を焼き、圧倒的な火力を予期させる。
そして、
「――〈
力一杯に振り下ろした斧に従い、雷の巨鎚が縦に回転しながらタナカ達へと向かっていく。
その様はまさに雷神の裁き。
「あばよっ、タナカぁぁぁぁ!!」
情け容赦なく、コールの持つステッキから光線が飛び出した。
七つに増えた〈雷神の鎚〉。それが――――
視界が、白に染まる。
溢れる雷が平原を焼き飛ばし、桁違いの破壊にタナカ達が包まれた。光と共に灼熱の熱気が一息に駆け抜け、雷光による炸裂と爆裂が連鎖する。
やがて発光が収まった時、タナカ達は……。
「っ………………なっ!?」
「…………」
……慄くコールの隣で、絶望感に苛まれるドナガンが膝を突く。
聴覚がやられていなければ、静かになった周囲には絶望に屈する者達が腰から落ちる音が立て続けに聞こえただろう。
『…………』
無傷のタナカがいた。
どのタナカも無傷だ。
おそらく雷撃の間中、自身に回復魔法をかけ続けていたのだろう。
悠々と変わらぬ足取りでこちらへ歩むタナカに、誰も彼もが心を折られる。
「何で死んでくんないの!? おかしいやん、タナカぁぁ!」
たった一人を除いて。
「なんか、しぶとくなってね……? よっしゃぁ、ほんなら徹底的にやってやるわっ!! ゴブリン殺しの右ストレートも出してない内から負けられねぇよ!!」
「コールちゃん……」
最も弱いコールが、まだ諦めていなかった。意気揚々としており、虚勢でもなく怯えるでもなく真っ向からタナカを見据えている。
消えた炎が、再び灯される。冒険者達に、火が付いていく。
「ガッハッハッハ!! 次どうするぅ!?」
「まだまだだなっ! そうだっ、まだまだだぁぁ!」
《アテナ》を皮切りに、冒険者達が武器を手に立ち上がる。
「何か次の手を考えましょうっ。タナカの魔力は確実に減っているわ」
「あたしっ、ポーション屋から後払いでいっぱいポーション貰ってくるわ」
「あらっ、早速ユウちゃんから妙案が生まれたじゃない。あたしったらすぐに諦めて。情けないわぁ……」
ドナガンとユウが勝利へと模索する。
「――勇者ではない」
ふと手を叩いて、シンシアが語り始めた。
全員の視線は無意識にそちらへ収束する。
「えっ? なんすか?」
「コールさん、あなたは勇者ではない。しかし英雄でもない」
「は、はぁ……知ってますけど……」
言葉とは裏腹に、コールを貶す意図がないことはシンシアの表情を見れば明らかであった。
「それは確かです。それなのに、あなたはこの場において絶対的に必要な人材なのです。初めから、諦めて当然の状況でした。今だってそうでした。しかしあなた一人がいたから、彼等は立ち上がった」
「……俺の応援、効いたんすか? だったら良かったけど……」
「えぇ、コールさんはとても不思議な人ですね」
シンシアに手放しに褒められ、照れるコールが奮起してタナカを睨み付ける。
「いきましょ、コールちゃん!」
「うぃっすっ、じゃあユウはさっきの頼む。俺達は――」
その声は、戦場に凛と響き渡った。
丁度花火が終わり、平原も都市も鎮まり、その声音はコール達にもよく響いた。
「――あなたのことがとても気に入ったわ、
シンシアから発せられた、いつもと違う呼び方。
「コール? いきなり距離を詰め、て…………」
隣へ向き直る最中、コールが目にする。
シンシアが、剥がれていく。
風に吹かれて偽っていた
純白のツインテール。幼さ残る強気そうな顔立ち。魅力溢れる肢体。
「ご機嫌よう、コール。やっと挨拶ができるわね、私が《闇の魔女》リアよ」
漆黒のドレスを身に纏い、学園にいる筈の《闇の魔女》が姿を現した。
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