第87話、ファーランドにもついにシリアスが……


「…………」

「まっ、いいでしょう。三人、共に人類史にその名を刻むに相応しい偉業を達成したのだから」


 ガッツは心中で頭を抱えるが、リアは機嫌が良いのか小さく笑って失態を見過ごした。


「魔将三体、そして魔王。更に不死戦艦を倒したあなた達は王国の英雄よ。この《闇の魔女》リアが認めるわ」


 無言で垂れる頭を少し下げて感謝を表した二人に満足げに頷き、魔女は続けて賛辞を送る。


「誰もが耳を疑ったことでしょう。けれど私が認めたからには、それは紛れもないな真実よ。これからは胸を張って言ってやりなさい。私の名を使っても構わないわ」


 別格の待遇で褒め称えるリアを、秘書官達は目を疑って凝視する。


「そこでなのだけれど、困ったことに成した偉業が大き過ぎて、あなた達の冒険者ランクを引き上げるだけではとても功績に見合わないの」


 可憐なリアに目を釘付けにされる大観衆。


 リアはそちらに構わず、三名……二名へ問いかけた。


「貴族の位でも大金でも、屋敷でも望むものなら何でも与えましょう。……あなた達は何を望むのかしら」


 困るであろうと予想される問いだ。


 だがガッツは発言を許されるなり、迷いなく要望を魔女に告げた。


「ここに今いない我が友の功績を認めていただきたく……」

「…………」


 学園の空気が一変する。


 機嫌を明らかに損ねたリアの虫を見る眼差しが、学園を恐怖に染め上げる。


「…………」


 リアは踵を返し、先へ戻る。


 座るなり頬杖を突いて、冷ややかな目付きのまま告げた。


「……コール・アリマ、だったかしら」

「…………」

「あなたから聞き取った調書にも書かれていたけれど、何の能力も持たない者を評価できるわけがないでしょう?」

「彼がいなければ、どれも解決には至らなかったでしょう」

「傷を一つでも負わせたの? イチカのようにあなたを強化したの? 何もしていないじゃない。彼はその場にいただけ。魔王と刃を交えた冒険者以上に功績があるとは思えないわ」


 淡々と切り捨て、どんどんと機嫌を悪くする《闇の魔女》。


 こうして理由を話していることから見ても魔女達の中で理知的。しかし発する気配を受ければ分かる。


 やはり彼女も魔女なのだ。


「ですが――」

「ですが? この私の言葉を否定するの?」

「っ…………」


 ファーランドが震撼する。


 機嫌を取ろうと思う周囲の取り巻き達でさえ、ピクリとも動けずに恐怖に縛り付けられいた。


「…………確か、今日は花火も上がるのよね」

「は、はっ!! 夜空をそれは美しく彩ることでしょうっ!!」

「今、上げなさい。半分でいいわ」

「は……? 今、ですか?」

「…………」

「ただ今っ!! ……すぐに花火を打ち上がるんだっ!!」


 秘書官が命じ、部下達が慌てて駆け出す。


 すると数分もせずして、高々と青空に花火が打ち上がり始める。


「これが終わるまでの間に、もう一度よく考えなさい」

「…………」

「もう一度だけ、私への要望を訊ねるわ」


 重く響いて続く爆裂音、空に咲く火の華、その他は無音の宴。


 時折ファーランドの花火に混じり、地を揺るがす他都市の花火が上がるも、誰一人として無言。


「っ…………」


 震えるイチカの隣で、ガッツは揺らぎもせずに静かに待つ。


「…………花火が終わったわね。それじゃ、もう一度だけ・・訊ねるわ」

「変わりません」

「…………」


 《闇の魔女》を前に、ガッツは変わらぬ願いを望む。


「俺が認められてあいつが認められないのなら、俺の功績も白紙にしてください」

「一度のみならず、私があなたを認めると言った言葉さえも否定したわね」


 純白のドレス纏いし魔女に宿ったのは、冷酷な殺意。そして酷薄な微笑であった。



 ♢♢♢



「はい、まずマナポーションっ!!」

「は、はいっ、頂きました!」


 都市の花火に対抗して叫ぶコールの指示に、第一弾を放つシンシアが合わせて大きな声を上げる。


 シンシアに宿る不思議な感覚。何故か浮かぶ楽しげな笑み。


「では参りましょうっ、シンシアさんの挑戦です!」

「任せてくださいっ……、――――〈炸裂朱雀〉っ!」


 溜めに溜めた大弓により、巨大な灼炎の鳳凰が平原を躍動的に飛翔する。


「うぃ!!」


 コールがフーエルステッキから光線を放ち、鳳凰へ照射する。


 一気に十三羽となった火の巨鳥が、次から次にタナカの群れへ突っ込む。


 花火に紛れて何倍にも膨れ上がった爆炎が平原を焼く。


「す、スゴっ……」

「これは…………いけるわねっ!」


 目を見張るユウの目にした中で最も高い火力であった。


 あのドナガンでさえ炎渦巻く景色を目にし、勝利に自信を覗かせてマナポーションを口にした。




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