第84話、タナカーズ対ファーランド最強軍団
「行くぜ行くぜ行くぜ行くぜ行くぜぇぇぇ!!」
《アテナ》の片割れ“イリーナ”が平原を駆け、輝く盾を突き出した。
「――〈
飛び出した光の盾は射程が短いながらも、一気に巨大化して五人のタナカ達を弾き飛ばした。
清浄の盾が邪悪なる魔王から都市を護る。
「ガッハッハッハッハッハ!!」
笑いも高らかに跳び上がったもう一人の《アテナ》“サラ”が、手に持つ槍を魔王の群れへと投擲した。
加速する槍はやがて穂先から新緑の光を煌々と溢れ出させ、大地に突き刺さると共に大爆発を齎した。
「す、凄ぇ……、初めて見たけどあの二人ってやっぱ強いんだな……」
「そうよぉ? あの娘達だってやればできるんだからっ」
感嘆の溜め息が漏れる。強いのは知っていたが、実際に目の当たりにした《アテナ》はいつもお酒を飲み、ダル絡みをしてくる彼女達とは別人であった。
「今、ユウちゃんに頼んで錬成キットと薬草を持って来てもらっているの。それでマナポーションを作ってもらえる?」
「いいっすけど、大技を連発する作戦っすか?」
「移動しながら相談したんだけど、その方がいいと思うの。生半可な技じゃ魔王には効かないだろうし、この数でしょう? 最大火力で押し切ろうってわけ」
「うぃっす!」
大規模な討伐作戦であった。
その一員として役割があり、サポートできるとは村人冥利に尽きるというものだ。
「あら、いい弓じゃない。もう少し手を貸してもらえるかしら、シンシアちゃん」
「えぇ、ここまで来たら最後までお付き合いします」
「じゃ、行きましょうかぁぁ!」
咆哮と共に走り出したドナガンさんが、電撃迸る片手斧を手にシンシアの前衛を務めるようだ。
モルガナとガッツに並ぶ都市最強のコンビが誕生した。
「ふぃ〜、おっかねぇ……!」
弾ける雷鳴を背に受けて痺れながら後方へ走り、空を飛ぶ影の元へ向かう。
「お〜い、ポーション君っ!」
「うぃうぃ、ご苦労さん。いいタイミングでみんな来てくれたよぉ」
「でしょ? ……まぁ、見れば分かるけど、魔王を増やすって正気ぃ……?」
「正気じゃねぇよ? この大事件を何の為に起こしてるか知ったら飛ぶぜ?」
杖に薬草の籠をぶら下げ、錬成キットと共に戻って来たユウ。
俺は言われた通りに後方でマナポーションを生産していこうと思う。
「何の為よ……」
「みんな揃ってノーパンがいいんだと。世界から下着を無くすんだと」
「はぁ!? あたし、可愛い下着好きなんだけどっ!」
「そこじゃねぇのよ、問題は……」
錬成キットを取り出しながら少しズレているユウに嘆息する。
フラスコもランプもかなりの数がある。これなら俺の負担は大きくなるが、一度に大量のマナポーションを作れるだろう。
「水もすり鉢もすりこぎ棒も忘れてないな。うぃ〜、完璧じゃん」
「でしょ? うぃ〜!」
魔王の大群を前にしてテンションがおかしくなっているユウだが、構っていられる時間はない。
「あっ、やべ。枯異草がねぇ!」
「えっ!? あっ、忘れちゃってた!?」
「悪ぃけど、戦闘中に酔ったら危険だからあれだけ取って来てくんね?」
「わ、分かったわっ」
「ごめんよぉ!」
すぐに飛び立ったユウへ何度も頼ることを詫び、俺もフラスコで水を温めながら魔間草と魔草をすり潰す。
「ちょっと薄め、ちょっと薄め……」
魔間草を八割より少しだけ少なめにし、味付けが薄くなるよう若干ばかり工夫する。
運動している時に味の濃いものを飲むって地獄だから。コーンスープ、おしるこ、この辺りは窒息するのではないだろうか。
並べた七つのフラスコに次々と詰めていき、左から順に魔法をかけていく。
「〈錬成・マナポーション〉っ、〈錬成・マナポーション〉っ、〈錬成・マナポーション〉っ、〈錬成・マナポーション〉っ、〈錬成・マナポーション〉っ、れ、〈錬成・マナポーション〉っ、……はぁ、はぁ……」
ポーション作製で初めて息切れをしてしまう。
「きっつぅぅ……、〈錬成・マナポーション〉っ!」
凡人であることを嫌にでも痛感した。
一気に魔力を消費し、身体から力が抜け落ちる感覚に眩暈が襲う。
魔力保有量も少なく、魔力消費に対する耐性も低いことを表していた。
「くぅぅ……!! 詰めろ詰めろ、泣きながら詰めろよ、コール」
細長い空のケースに詰める作業を進めていく。
爆音、衝撃音、閃光、剣戟音、タナカ、雷鳴、火柱、など巻き起こり舞い上がる戦場を前に作業に没頭する。
二十八本のマナポーションを完成させた。
木のケースに詰め込み、新たなフラスコを用意しておく。
「うっしゃあ!! 回復したいやつからかかって来いやぁぁ!!」
そして、戦場を勢い付ける為に喧嘩腰で立ち上がった。村人がこんなに強気だったら、なんとかなりそうでしょ? だって村人だよ?
「すみませんっ、私のマナポーションが無くなりました!」
「てめぇかぁぁ!! こっちに来る必要はねぇ!! そこで戦ってろぃ!!」
こちらに取りに来ようとするシンシアさんを手で押し留め、木のケースを持って走る。
「えぇ!? コールさん!?」
「あ、危ないわよっ、コールちゃん!」
二体のタナカを相手に接近戦をする猛者達の中へ飛び込む。
「お前等ぁ、チャック開いてんぞっ!! だらしねぇ!!」
タナカの動きを制限して股間部を触り始めた隙に、
「ほいっ、ほいっ、ほいっ、ほいっ、ほいっ、一本おまけっ!」
シンシアさんとドナガンさんのポーションケースから空の容器と新しい容器を詰め替える。
「無茶するわねぇ……、怖いもの知らずにも限度があるわよぉ?」
「次ィィ、どいつじゃあ!! どいつが回復したいなんて生意気言うつもりじゃあ!!」
青い顔をして虚勢を張り、また別の戦場へと駆け出した。
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