第78話、復活のタナカ


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うっさいって!」


 二度と御免だと決意していた二回目の飛行。


 しかも今回は四つ目の遺跡確認の為、最高速度。加えて俺の背後には、


「もう少し飛ぶと川に出ます。そうしたら川上に沿って飛んでください」

「分かりましたっ!」


 後ろにシンシアさんまで乗っているものだから、乗るスペースが狭くて怖さが倍増。


 わざわざギルドを閉めてまで同行してもらっているので、凄腕であるとも発言していたこともあって助かりはするのだが。


「ホントに二人ともっ、その乗り方は止めてっ!?」

「えっ……?」


 膝を揃えて上品に座るシンシアさんだが、スルンと滑って落ちるという予想が立てられないのだろうか。


「でも、コールさんの乗り方だと……ぐるんと下に半回転して逆様になってしまいそうで……」

「なんでそんなこと言うのぉ!? 体勢チェンジできないのに、不安になって来たじゃん!!」


 下腹部がキュッとなり、薄寒くなる。


「最悪、逆様になってもいいっ。でもこれだけ約束してっ!? 絶対に俺を諦めないで!?」

「…………わぁぁぁ」

「あわわわわわっ、何してんのこの人ぉ!!」


 悪戯好きであったのか、手を箒から離してまで俺の肩を揺さぶって来た。


「後ろでイチャイチャしないでよ……」

「あっ、あそこみたいです」

「えっ、どこ!?」


 恐怖心を持たないと思われるシンシアさんが、前のめりになって下方を指差す。


「…………」


 化け物を見る目で、その様を見つめる。命知らずとはまさにこの事。落ちたら危険とか、考えが及んでいないのだろうか。


 降下する前と後とでは、最早別人の印象である。


 約一日ぶりにやって来た隠れ遺跡は、変わらずに静かである。清流の流れる音と鳥や虫の音が心地よく、水気から程よく涼しい。


「よ、よし、一緒に覗くぞ?」

「えっ、あたしもぉ!?」

「大声を出すなっ、素人がぁよぉぉぉぉぉ!!」


 不満げに睨まれるも、ユウの意識の低さを叱咤した上で付いて来てもらう。


「……早く、一人だと覗けないよ? 俺、そんなに男気とかないから」

「…………分かったわよ」


 渋々に追随するユウと蔓をかき分けて隠れ遺跡を窺う。


「くっさ……」

「どうか天井にもいませんように」


 ガッツと眺めた場所より一歩だけ踏み込み、壁などに異常が見られないことに安堵する。


 そしていよいよ天井を見上げてみる。


『…………』


 天井を覆う青い繭…………から頭だけ出していたタナカと目が合う。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「キャァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 大量の蟲が全身に這いずるような感覚と共に、ユウと絶叫を轟かせた。


 隠れ遺跡から全力で飛び出す。


「ヤバいヤバいヤバ過ぎるぅぅぅ!! ふぅ〜っ!!」

「こ、こわ、怖すぎだってっ……! それにキモチわるいっ……!」


 恐怖のあまり気分が上がってしまった俺に引き換え、怖気と気持ち悪さが同時に襲って来た様子のユウ。


「は、早くファーランドに報告しなくちゃ……!」

「《闇の魔女》さまに倒してもらおっ!! そうしよ!?」

「魔女様が人間の為に戦ってくださるわけがねぇじゃん……。百年契約だって外国からの侵略から守るって話じゃん? だから冒険者達と力を合わせてやるしかねぇよ」


 視覚的衝撃が強過ぎて気が動転するも、報告が最優先されることだけは確か。


「シンシアさんっ、急いでも、ど、ろ…………」

「どうかしましたか?」


 浮き足立つも何とか堪えて立ち上がり、振り返った俺が目にしたのは…………いかにも上級な朱色の大弓を手にしたシンシアさんであった。


 この非常時にも一切の動揺がなく、それどころかこの状況を楽しんでいるようにも見受けられる。


「ね、ねぇ、早く行こっ? その怪盗って奴も近くにいるかもしんないじゃん……!」

「…………」


 フーエルステッキが盗まれた時、俺の足元に撃ち込まれたのは火球。


 シンシアさんは、炎属性でトップクラスの冒険者。


 俺がシンシアさんの眼差しが冷たいと思い始めたのも、怪盗の失態を大爆笑した日辺りから。


 年齢も同じくらい。背丈だって同じ程度。


 それから気になるのは、そもそももう一人の女性従業員を見たという人がいないこと。


「…………」

「あら、どうしました? そんなにも震えて」


 虫を見るような蔑む眼差しで俺を見下ろすシンシアさんは、それはもう愉しそうに笑っている。


「もしかして…………気付いちゃいました?」

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