第69話、母ちゃんゴブリン
ガッツに案内されて行き着いたのは、当然ながら一つの小さな遺跡。
遺跡前や周辺に火を使った後はないが、まだ血生臭い動物のものらしき骨や皮が散見できる。
つまり何らかの魔物か捕食者がここに拠点を構え、今も近くにいるということだ。厄介なのはやはり、ゴブリンやオークといった人形の魔物。奴等は狡猾で毒なども使用する。
常に気を張って、どこから現れようとも冷静に対処しなければならない。
「コール、こちらゴブリンのお母さんだ」
「ゴブゥ……」
目の前から現れた。
「何してんの!? た、たたたた倒せよっ、何してんのぉ!?」
村人の天敵であるゴブリンを連れてきたアホに叫び、慌ててモナの背後へ避難した。
「まぁ、待て。ゴブリンと言えど、泣いているお母さんを殺せはしないだろう……」
「そのお母さんって言うの止めて? マジで退治できなくなるから、お母さんだけ止めて?」
赤ちゃんゴブリンをあやすメスゴブリンの隣に立ち、何故かゴブリン側の家庭に配慮するガッツという名の馬鹿。
「どうやら昨日からお父さんゴブリンが帰って来ないらしい。立ち退きには応じると言うのだが、お父さんが帰って来なければ……なぁ」
「よくそこまで細かく現状を聞き取れたな」
「狩りに出て一日戻らないこともあるらしいが、待つべきか立ち退いてもらうか判断に困るだろう?」
討伐するという選択肢が欠けているが、去ってもらえるのであれば依頼は達成できるだろう。
「残る遺跡はあるのだから、先にそちらを終わらせてから考えてみてはどうだろう。その間に雄ゴブリンが戻れば立ち去ればいい」
「いい考え、採用」
モナのアドバイスに従い、メスゴブリンを置いて他の遺跡を調査することにしよう。
「母ちゃんゴブリンさぁ、俺等は他を見てくるから旅立つ準備くらいはしときな? それからここらの遺跡は都市に近いから、家にされたら人間と衝突し易いっしょ? だから離れたとこに住もっか」
「ゴブゥゥ」
「つ、通じた……」
身振り手振りも加えて伝えると、いつの間にか種族の壁を越えていた。
すると彼女は一児の母だけあり、遺跡の中へ入ってテキパキと家財を整理し始めた。見たままを評するならば、良妻賢母という言葉が妙に合致する。
「母は強しやで……」
「よし、では俺達は調査再開としよう」
「うぃ〜っす」
俺達はメスゴブリンに片付けを任せて、三つ目の遺跡を後にした。
紅葉鮮やかな西エリアを行き、シンシアさんから支給された地図を頼りに四つ目の遺跡に向かう。
「……意外と距離が空いてんのね。でもそっからは集まってるし、戦闘がなければ案外早くに終わりそうだな」
「……あんたさぁ」
「ポーション君って呼んで? じゃないと返事しない」
「気に入ってたの……?」
冷めた雰囲気のユウに呼び方を指図し、言い直させる。
「……ポーション君さぁ、ホントに彼女いるの?」
「いるよ」
「ガッツさん、ホントなの?」
全く俺の返答に満足しておらず、ガッツに真偽を確かめる始末。
「いや、いないな。何故なら俺もマーナンもギルドメンバーの誰一人としてその彼女を見たことがない。家にも行ったことがあるが、そこにもいない。コールが言うにはファーランドに住んでいると言うが、コールといるところなど一度たりとも目撃されていない」
「やっぱりいないんじゃん。何、その見栄……。どう思う、モルガナ」
今、初めてガッツやギルドメンバーから彼女がいないと思われていた事実を知った。公表できるものでもないので、別に何も思わないが。
「男の子に限らず、女の子だって見栄を張りたい時もあるだろう。ガッツ君達のように、本人の好きにさせてあげたら?」
「えぇ? そう?」
「君だって交際経験なんか無いのに、それっぽいことを言いたがるだろう?」
「バレてたの!? 言ってよ!!」
意外にも少しはヤンチャしてそうなユウは、交際経験皆無であった。
大人びた微笑を浮かべるモルガナに暴露され、顔が真っ赤に染まる。
「どんまい」
「うっさ!! ポーション君に言われたくないし!!」
俺の恥を露呈させた後に、自身にも返って来てしまうとは憐れ。二人して耐え忍ぼうではないか。
「今の話の流れとは関係ないけどさぁ、一応ユウの魔法について教えてくんね?」
「うわ、タメ口になってるぅ……」
「俺等はあんまり外部と行動してなかったから、仲間の能力を訊きそびれてたわ、ユウ」
「必要もないポイントで名前呼ぶな」
嫌悪に顔を顰めながらもユウは指折り数えて使用魔法を告げた。
「中級は雷魔法と付与魔法だけでぇ、後は初級の風魔法と飛行魔法って感じ」
「モルガナさんは?」
「いやいやモルガナは何でも使えるって。きっと学園長より強いもん。何で学園通ってるのかが一番の謎だから」
知っていたが、訊ねないのも不審かと訊いておいた。
教えてもらったはいいが、一つ特に関心があるものがあった。ユウが言った魔法で飛行魔法というものだ。
特に難しい魔法と聞く。常に魔法を発動し続けていなければならない上に、高度や速度の調整も高難度であるらしい。
四つの魔法に、しかも飛行魔法が入っているユウはどうやら優秀な魔法使いのようだ。
と、言っている間に、四つ目の遺跡へ辿り着く。
「じゃ、コール。もう俺達で行って来るか」
「あばよ、ポーション君」
捨て台詞を吐くユウとモルガナを置いて、愛想笑いのガッツと偵察に向かう。。
遺跡は先程よりも隠れた場所にあった。
小川沿いの蔦などで覆われた入り口を見つけるのに少し難儀するも、少し掻き分けて中を覗いてみる。
「……うわっ、キッたねぇ」
遺跡内には何かの魔物が食い散らかしたのか、薄気味悪い青い血か何かで汚れていた。ゴブリンと同じく骨も散らばっている。誰もここに住もうとは思うまい。
「廃屋などでも稀に見かけるな。獲物を隠れた場所で食い散らかす魔物は少なくない。屋根にまで持って上がるものもいる。酷い悪臭もするし、誰かが入ることなどないからこれでいいのかもしれないな」
「四つ目もクリアと。五つ目はそこの斜面の上でしょ? こんな隠れ遺跡じゃなくって、祭壇みたいなのがある本格派らしいんすわ」
そしてこの五つ目で、事件は起こった。
五つ目の遺跡には、奴がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます