第68話、遺跡調査依頼開始


 遺跡は全てで七つ。


 魔将セカドと戦った遺跡みたいな立派なものではなく、ワンルームほどの空洞が空いた小屋のようなものが殆どだ。


「さて到着はしたわけだが……一応、索敵はするか?」

「そうねぇ……二人くらい先行して、ちょっと様子見してみちゃう?」


 いつもならばガッツと二人でこそこそと様子を見るのだが、四人で行動するよりも二人ずつに分けた方が察知されにくいだろう。


「俺とガッツで行って来るか」

「待ちたまえ。淑女を二人だけで森に残して行くつもりかい?」

「……大魔法を片手間に撃つやつを淑女なんて言うかなぁ。活火山女って呼びたいくらいなのに」


 モルガナの反論を受けて小声で不満を漏らすも、ならば言う通りに男女で分けるとする。


「ならあたしはガッツさん! こいつ、怖いもん……!」

「安心していいっすよ。俺、彼女いるんで」

「彼女いるのにモルガナのお尻狙ったのっ?」


 逆効果であった。


 更に気味悪がられる始末。


 どことなく不憫そうに俺を見るガッツが、虫を見る目で俺を見るユウを連れて偵察に行った。


 すると……途端にこの一画のみ、世界観が一変してしまう。


「う〜ん、ここまでの秘密の冒険デートはどんな感じかな。私は凄く楽しんでいるよ、コール君」

「…………」


 二人の姿が見えなくなるや否や、紫のドレス姿に変身したモナに擦り寄られて緩やかなダンスを強いられる。頭上を見上げれば、大きな道化の化け物が糸で俺の動きを操っていた。


 景色も移り変わり、夜……しかも怪しげな置物に装飾、おまけに可愛げあるコウモリまで飛び交い始める。同時にカボチャ頭の楽団や小さな踊り手達が取り囲み、突如として立派なパーティー会場と化す。


「……なぁにがよ。随分とノリノリでやってくれちゃってんじゃん?」

「そんなに怖い目をして……何故だか、おかんむりのようだね。ふむ、ならばお詫びをしなければならない」


 優雅な音楽の流れにあって妖艶な微笑で俺の手を取り、自らのお尻側に誘導する。


「はい、お邪魔虫達が戻って来るまでぎゅ~ってしていいよ」

「しなさいってことでしょ? どこまでも上位者目線でものを言うんだもんなぁ……」


 要求だけは一丁前なので仕置き代わりにガッと尻を掴み上げながら苦言を送り、懲りるはずもないモナにお礼代わりのキスをされる。


「ちゅ~っ……好き好きコール君だからね。頭も撫でていいよ?」

「魔女様の機嫌が良くて何よりっすわ」


 ドヤ顔の甘々でサービス精神が過ぎるモナを前に、幸せの反動があるのではと急に不安になってしまった。


「よし、では本題だ。まだまだご不満げな君にぴったりなビッグニュースを送ろう。というよりも提案だね。……四ヶ月前、君が封じたあのコスチュームを今夜にでも解禁しようじゃないか」

「っ…………いやっ! いやいやっ、それはマズイ!」


 隙間がない程に密着して、お尻を揉んで揉まれながらに二人して一つの思い出を思い返す。


「君をして“これは俺をダメにする”とまで言わしめた伝説のコスチューム。私はまた着たいと思っているのだけど、どうだろう」

「伝説っていうか……お高い洒落たメイド服でしょ?」

「その通り。あれを忘れた日はない。お互いに。そろそろまた“旦那様と召使いエッチ”がしたいと思わないかい?」


 エロエロな内容なのに、やたらと真剣な顔付きで訊ねられてしまう。何やら情熱のような熱意を感じる。瞳の中にメラメラと炎が燃え上がっている。


「…………男コール、挑むか」

「決まりだ。帰り次第、別次元に封じてあるアレの封印を解くよ。君の言う通りに、世界一強固な封印を施してあるからね」


 でもやり過ぎてしまって、前回は次の日が丸々潰れることになってしまった。恐るべしメイド服モナ。


 互いに半歩離れ、覚悟と決意を表明する為に一つ頷き合い、腕を押し当てたり手を打ち合い、最後は敬礼して今夜へ臨む。


 その後はガッツ達が帰って来そうな頃合いとなったので、揃って地面に木の枝で絵を描いて遊ぶ。


「……学園長の封印を解いた泥棒って、結構凄いんかな」

「油断はしない方がいい。そもそも気付かれずに侵入して、一度もミスをすることなくあの老人の封を解除し、無傷で出て行ってしまったわけだからね。人間の中ではやる方だよ」


 猛進勇者の牛を描きながら訊ねると、両手を駆使するモナは凄い速さと技巧で絵画を描いていた。何故か色付き。


 目や鼻のバランスも位置も不揃い。顔がまず大き過ぎる上に、物の向きなどもめちゃくちゃだ。


「………えっ、何それぇ。ぐちゃぐちゃじゃん。いつも上手いのに大自然のキャンバスはド下手ですか?」

「これを世に売り出せば、十億ゴールドはくだらないだろうね」

「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょ!!」


 俺には理解できないモナの絵だがその価値を聞き、人生大逆転を前にして目の色が変わる。


 モナの大傑作を庇うように四つん這いになり、徹底して保護する。


「俺はここ守ってるから画商呼んで来て!! いやまず古屋建ててこいつ保護しねぇとっ!! 大工さんが先だっ! 丁重にお迎えして!? ウェルカムドリンクとかもっ、早くっ!!」

「…………」


 見上げると……帰還したらしいユウの短いスカートの中が見えてしまう。モナに比べて随分と少女らしい下着を目にしてしまった。


「……ふんっ!!」

「ぐおっ!? ……あぁーっ!! 俺の十億がぁぁぁぁ!!」


 背中を踏み付けられ、億万長者の夢が押し潰される。


「…………へへっ、楽はできねぇってことか。小娘の布切れと十億が引き換えとは……神様も酷なことするねぇ」

「はぁんっ!? 小娘の布切れぇ!?」


 ポーション職人を目指す身として、あるまじき強欲さであった。教訓にせねば。


 項垂れながらもまた一つ成長したのであった。


「ちょっと、モルガナっ!! あんた、何かされなかったの!?」

「私は何事もなかったよ。一緒にお絵描きをして遊んでいたくらいだ」

「知らない内に卑猥な絵でも見せられたんじゃない!?」

「それはなかったかな。向こうもその発想がそもそもなかっただろうね。君への見方が少し変わったよ」


 モルガナへと質問攻めのユウを置いて、ガッツが手を貸して立ち上がらせてくれる。


「お前はユウととことん相性が悪いな……」

「いんやぁ? 俺は別に嫌いじゃねぇけどな。ただ三メートルは距離を空けたいかも。また組むのもいいだろうけど、この先一年間は遠慮しとこうかな」


 単純に与えた印象が悪過ぎる。


 魔王から仲間を置いて逃げるわ、モルガナのお尻を触ろうとするわ、スカートを覗くわで、今の俺は彼女に取ってそのような卑劣なモンスターに見えているのだ。


「それで、どうだったのよ。遺跡の偵察は上手くいったんかい?」

「あぁ、三つ調べた。かなり汚れていたりマナーの悪い旅人に散らかされたりとされていたが、二つは異常がなかった。なかったが……」

「……一つには盗賊がいたとか?」


 言葉に詰まるガッツは、言い方に困っているのか小難しい顔をしている。


「……とりあえず来てくれ。紹介する・・・・

「…………」


 また面倒ごとらしい。

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