第67話、同行者二人目は友人B


 モルガナ……っていうか、モナを連れて目的地を目指して歩く。まさか早速モナが同行することになるとは思いもしなかった。


 開幕早々に泣かされてしまったが、気を取り直して依頼に臨もう。


「ねぇねぇ、《希望剣》の依頼じゃないならあたしも付いて行っていい?」


 ギルドから出てすぐに、モルガナの友人でよく一緒にいる女性が追いかけて来た。


 肩口程度に伸ばした黒髪とイヤリングを揺らしながら、小走りでやって来る。服飾も今時の女性冒険者のトレンドを取り入れており、いかにも都会女子といった容貌だ。


「私は構わないけど、結局はこの二人がどう言うかだね。私はあくまでもお手伝いなのだから」

「……コール、どうする」


 分かりきっているだろうに小芝居をしていやがるモナはガッツに判断を仰ぐ視線を向け、俺やマーナン以外の同行者を好まないガッツが俺へ決定を任せる流れ。


「……いいんじゃね? 盗賊なんかいた時には逃がさないようにしないと。人数は多い方が有利だろ? お前はいつも一匹一匹、追いかけ回してやっつけてっけど、付いて来てくれるならあんな変則プレイをする必要はないっしょ」

「納得だ。よろしく頼む」


 理由に頷いたガッツがモルガナの友人へ軽く頭を下げて快諾した。


 君はその頭数に入っているの? というモルガナの視線は無視する。


「やったっ! 前からガッツさんに付いて行ってみたかったんだよねぇ。よろしくね、あたしは“ユウ・ジンビー”。ユウでいいから」


 軽い口調でかなり早めに心の距離を詰めて来る女子であった。


「ユウさん、コール・アリマです。よろしくお願いしま〜す」

「はいはい、ポーション君もよろしくね」

「ポーション君? 何それ、マスコットっ?」


 俺がポーションの妖精にでも見えているのだろうか。


 ぞんざいに扱われ、他所のギルドやパーティーでは不遇であることに今更ながら察しがつく。


 心持ち複雑となるも何やら不思議な四人組で、西を目指して歩みを再開した。


 何気ない会話。魔将はどうだったかや不死戦艦の話をしている内に、都市を抜けて平原を行く。


「ガッツ君はおそらくA級に引き上げられるだろうね。王国はS級への昇格も視野に入れている筈だ」

「ヤバっ! 玉の輿じゃん! マーナンは!?」

「マーナン君も同様だろう。後衛魔法使いとしてだけど、今回だけでも確実にB級昇格となる。というよりもどちらも玉の輿だよ。なろうと思えばすぐに貴族の位を手に入れられる」

「そうなのっ!? ……明日から積極的に二人を狙ってこ」


 前方を行くガッツを挟み、女性二人が姦しく話を弾ませる。


「……言っておくが俺は止めた方がいい。生活を変えるつもりはないし、貴族などにもなるつもりはない。冒険者ランクにも無頓着だ」


 冒険と眼鏡っ娘しか愛せない怪物だが、真っ直ぐな男である。


「え〜っ、勿体ない……。ん〜、ならやっぱマーナンにしとこ」

「それがいい」


 厄介ごとをマーナンに押し付ける腹積りだ。安堵したとばかりに足取りが軽くなっている。


「ていうか、前衛がガッツさんで後衛がモルガナだったらそれが都市最強の組み合わせじゃん。二人で組んでみたら?」


 確かにそれはそうだ。マーナンは優秀だが、モルガナとは比べるまでもない。


 モナなのだから当然ではあるのだが……。


「私は全く構わないよ。《希望剣》にいるのは、一番に声をかけて来たからだからね。ガッツ君はどうなのかな」

「…………」


 ……思わせ振りな物言いで見上げるモルガナに、ガッツは困った表情で俺に助けを求めている。


 けれど俺が『ガッツにそのつもりはない』と横槍を入れるのもおかしな話なわけで、静観して見守る他ない。


「……いや、俺は今のメンバー以外と組むつもりはないな。気の知れた連中との冒険がやはり俺には合っている」

「あらら、振られちゃった」

「モルガナの噂は聞いているし、その実力は俺以上だろう。そちらに問題がないことは伝えておく」

「わぉ、優しいじゃないか。女性に人気なのも納得だよ」


 他愛もない会話が続くも、俺は中々話題に溶け込めない。


「めちゃくちゃいい男なんだけど……。……でもポーション君は魔王を前にして仲間を見捨ててなかったぁ?」

「…………」


 申し訳なさそうにしつつも訊かずにはいられないとばかりにユウが俺をちらりと見て言う。


 見捨てるよ? だから何? 改心も謝罪もしないよ?


「あれには俺もマーナンもびっくりしたぞ……。まさかあの速さで平然と言い訳を口にして自分だけ助かろうとするとはな」

「そうなの? ……なんでこの人と一緒に依頼をしたいのか、私にはとても理解できないのだけど」


 まぁ……完全なる事実なだけに少しは肩身が狭い思いをしてしまう。


 ちなみに同じことが起きたとしても同じ行動を取るだろう。だって俺はコールなのだから。


「あっはっはっは! それでも腐れ縁だからな。それにこいつとの冒険が一番楽しい」

「へぇ〜、ポーション君にもいいところがあるんだ。凄い楽しそうに言うじゃん」


 たまには運動しないといけないから冒険に同行するのは構わないのだが、ここのところの強敵ラッシュなどはもう勘弁してもらいたい。どれも運が良かったに過ぎない。


「どうして君は冒険者にならないのかな」

「お、俺っすか?」


 未だにガッツとユウが話している状況で、歩みを遅くしたモナが俺の隣に並んで来た。


 並んで、前を行く二人に隠れて手を…………繋ぐかと思いきや、悪~い顔をして俺の尻を触って来た。


「うん、君だよ。正式に冒険者になればガッツ君とパーティーを組めるだろう?」

「…………俺はポーション職人としてやっていくつもりなんで」


 モルガナの皮を被って影で勝手にお触りして来るので、俺も揉んでやろうと手を伸ばす。


「…………えっ、ポーション君っ!?」

「バッドタイミングっ!!」


 ふと振り返ったユウに触れる寸前の手を目撃されてしまう。モナが手を引いたのはこの為で、どうやら罠に嵌められたらしい。


「うん? どうかしたのかな?」


 ……しれ~っとして、よく言える。


「あ、あんたのお尻を触ろうとしてたんだって! 気が付かなかったの!?」

「……本当なの? 勝手に他人のお尻を触るなんて絶対にあってはいけないことだよ。反省したまえ」


 どんな感情でこれを言っているのだろう、おい。説教面になって俺を責めるモナと、モルガナに味方する友人のユウ。


 だから言ってやる。


「俺は悪くないっ!!」

「はぁっ!? い、いや、あんたが悪いじゃん! 触ろうとしたんでしょ!? 悪いことをしたら謝んなさいって!」

「分かりました。じゃあ、あなたに謝ります」

「いや意味分かんないからっ! なんであたしに謝罪すんの!? モルガナでしょっ?」

「それだけは絶対に嫌だっ! もうあなたに誠心誠意謝るんで、そのごめんなさいをそっちでどうにかしてください」


 上辺だけの謝罪も厭わない俺だが、姑息なモナに謝るのだけは我慢ならない。


「はい、ごめんなさい。……もうこのごめんなさいは、どう活用してくれてもいいっすよ。ユウさんに謝ったやつなんで」

「無茶苦茶だよ、こいつ……。……じ、じゃあ、モルガナ。ごめんなさい…………あたしが謝っちゃってんじゃん!」


 いや、それは俺のごめんなさいだから、ユウさんは謝っていない。


「やれやれ、どうやら君はとても捻くれているみたいだね。今回は大目に見るけれど、他の人にしてはいけないよ? 嫌な思いをするかもしれないだろう?」

「あのですね、ちょっと口が悪い言い方になってしまうかもですけど、うるせぇ」

「ふふっ、私にそんな口を利いたのは君が初めてだよ」


 俺の物言いにガッツとユウがギョッとするも、当のモナは肩を竦めて笑うばかりだ。


「モルガナ相手にお前の度胸はどうなっているんだ、コール……」

「こ、こいつ、やっぱヤバい奴だ……」


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