第53話、猛進勇者VS不死戦艦
不死戦艦へとひたすら走る。
山が向かって来る。
けれど背後からは、かつてガッツという名であった悪魔が来ている。
どちらも怖い。ならばぶつけてしまえ。
「脚がっ、キツい……!!」
だが負けられない。モナの誘惑に負けて体力が減ったことが影響して、ここで倒れたならばそれはモナに負けるも同じ。おのれ大事な日に誘惑しやがってと、殺戮に舞い降りた不死戦艦に駆ける。
そろそろ頃合いと背後を振り返る。
「――――」
丁度降り立ったばかりのガッツと目が合う。
「べぇ〜」
「ッ――――」
舌を出して笑い、挑発すること間もなく、イラッとしたガッツが紅の猛牛となって撃ち出された。
一瞬で自分の元まで到達するパワーの塊。
「やってやんなっ、ガッツ!!」
跳んで回避する刹那の間に、声援を浴びせて英雄を送り出した。
猛進勇者の後には何もなく、先にあるものは全て蹂躙される。
不死戦艦の現れた後に残る生命はなく、朽ちることのない伝説である。
猛進勇者と不死戦艦が、ぶつかる。
「うおっ!? くっ、そ……!!」
途轍もない衝撃が起こり、空気の波動により軽々と吹き飛ばされる。
枯れ木の林が舞い上がり、視界を埋め尽くす。
「天変地異なんだけどぉぉ……!!」
転がりながらも愚痴を溢し、ガッツと不死戦艦を目視しようと試みる。
「っ……ウソだろ……」
……不死戦艦は止まらず、紅い暴牛が押し負けていた。
「流石に無茶だったか……?」
足場が悪いのも影響しているだろう。だが何よりも不死戦艦の重量がそれ程に重い。
壊すくらいはできると考えていたが、その様子もない。
「オオッ――――!!」
更に表情に怒りを激らせるガッツに呼応して紅いオーラが増大し、暴牛が巨大化した。
より筋骨逞しく、より凶暴に。力強く、地を踏み締める。
「おっ……?」
戦艦の速度が、…………がくんと落ちる。
「おおっ、流石は猛進勇者。不死戦艦にも通用するパワー、流石じゃん」
このまま行けば戦艦は停止、上手く誘導して船員を倒せられれば一帯の生命は護られるだろう。
「何をしているっ、アリマぁぁ!!」
「…………あっ、俺か。久しぶりに名字で呼ばれたから分からんかった」
背後からやって来たエドワードは焦燥感を露わに、酷く青い顔をして詰め寄った。
「き、君はアレが何か知っていてちょっかいを出しているのか!?」
「不死戦艦っしょ? だから倒さないと」
「倒せるようなものではないっ!! ……っ、あれを見てみるがいい!!」
いつになく気が動転しているエドワードが何かに気付き、指差して知らせる。
指先の行方を辿ると、不死戦艦からいくつもの影が飛び降りているのを目にする。内部が空虚な鎧や、フォスの喚び出したものよりも上級そうな骨の魔物達が異変を察してガッツに殺到していた。
紛れもなく不死戦艦の亡霊達。世界に死を振り撒き、殺戮に勤しむ伝説のアンデッド達だ。
「強そう……。でもアレ、下っ端でしょ? 甲板とか上司の背骨とか磨く係でしょ?」
荒れ狂う紅のオーラに怖気付くことなく、船員達は手にした武器で斬りかかる。
「えっ……!?」
暴牛のオーラに、斬撃の切り傷が刻まれた。
下っ端が猛進勇者のオーラに傷を付けたのだ。
「や、ヤベぇ、船が止まる前にガッツがヤベぇ……」
「だから言っているだろうっ!! 私達などとは強さの次元が全く違う……!! 残念だがっ……、……取り囲まれたノーキンは諦めて逃げるしかないっ!!」
「………………あっ、ガッツのことか。ややこしいな……」
危機感をこれでもかと伝えるエドワードだが、ガッツを見捨てるわけにはいかない。あんなのでも気の合う友達だから。
やれやれと疲労に震える脚に鞭を打って立ち上がり、三人に言う。
「うぃ〜、あんた等は先に避難しな。どちらにしても、ここは危険だから」
「お、おい、君は…………まさか、行くのか……?」
「行くしかないでしょ。ガッツを何とかしないと」
「アレが怖くないのか……? その実力で何故っ……」
歩みながら肩を竦め、自分でも分からないとエドワードに伝える。
弱くても何かできそうならやってやろうかなくらいにしか考えていないのだから。
ここが踏ん張りどころと、また走り出した。
とは言え、今の猛進勇者状態のガッツにあるのは直進して戦艦を潰すということのみ。基本的にこの勇者は戦闘をするというタイプではない。
このままではオーラを斬り裂き、中のガッツが害されてしまう。
俺が船員達の注意を引くことも考えたが、斬撃や船から飛び降りた能力を鑑みると即座に殺されて終わる。
つまり、もう一度…………賭けるしかない。
声の届きそうな範囲までやって来たので、ガッツへ叫ぶ。
「ガッツぅぅ!! 〈勇者の魂〉で派手にいこうぜ!! 」
すると、俺の声が届いたのか、本人の判断なのか、はたまた危機感からか――
「――――」
戦艦を相手に奮闘するガッツから、溢れんばかりのオーラが噴出する。猛進勇者さえも遙か上回る膨大な奔流が解き放たれた。
そしてこの日、三度目にして最凶の勇者を引き当ててしまう。
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