第51話、フォス、生け贄召喚を……決断する
「っ……一、二ぃぃ!!」
「ッ――――――」
興奮の昂り収まらない猛進勇者状態のガッツを相手にしながら、今し方のフォスが発した言を思う。
諦めたかと思えたフォスだが、不穏な発言で俺達を困惑させていた。
「でもさ、それって命を代償にしないといけないから……。その前に一応、勝てそうか試させてもらおう」
フォスが溢れんばかりの魔力を解き放つ。
それは死の魔力。タナカの魔力と同様に辺りの植物は枯れて散り、人間や魔物の寿命をも蝕み始める。
「うぅ……立てなくなったですっ!」
「何という魔力だっ! 魔将筆頭と言うだけあって、紛れもなく頭一つ飛び抜けた存在っ!! このままでは森が死ぬぞ!!」
苦しむ二人が、一帯に広がるフォスの魔力を危惧する。
「…………」
高揚を抑え切れずに突進していたガッツですら、足を止めてフォスを見上げる。
「〈
万物に等しき死を与えんと、フォスの背後から怖気の走る色合いの霧が奔流となってガッツを襲う。
その一粒に触れようものなら、何者もその脈動を止められるだろう。
渦巻く死の紫霧はまるで巨大な大蛇の如くガッツを呑み込んだ。
「イックシっ……!!」
くしゃみにより、死の霧が跳ね返される。
「あびびびびばびばばばばばばばばばばばばばば」
返って来た死の霧を受けて、電流が走ったように小刻みに痙攣するフォス。どれだけあの魔法が強力だったかをその身で教えてくれている。
「あらぁ……」
「む、無理っ……!! これは無理だ!! 止めておけばよかった!!」
骸骨であるにも関わらず瀕死に陥ったフォスは目の辺りに魔法陣を作り、急ぎ何かを探し始める。
「…………っ、無事かっ、セカド!!」
「っ……仲間を増やすつもりなんか?」
今度は手元に魔法陣を作り出し、あろうことか拘束しておいたセカドを喚び出した。
「っ……!? ふぉふどの!!」
「久しぶりよな、セカド」
フォスは自身同様に浮かばせたセカドと懐かしの再会を果たす。これでもかとロープを巻かれ、雄叫びができないようにと何かの骨を口元にはめられた状態で現れた。
「セカド、あの者等は手強い。私は命を代償にする魔法で自身を遥かに上回る存在を呼び寄せる事にした。後は……頼む」
セカドの咥え込む骨を砕きつつ、寂寥感を滲ませて伝えた。
「フォス殿……」
思いを託され、フォス亡き後の魔将筆頭を誓う。
「頼んだぞ、セカド」
「…………しかとっ、頼まれ申したっ!」
歯を食いしばり涙を堪えるも、その野獣の瞳から止め処なく零れ落ちる。
そしてフォスは一つ頷き、ついに魔法陣を展開した。
「えっ……?」
セカドへと、魔法陣を展開した。
「拙者かよぉぉおおおおおお!!」
憐れに過ぎる成り行きに、俺も猛進勇者状態のガッツも含めて叫ぶセカドを見上げる。
「おいっ、貴様フォスぅぅ! 今すぐにこの縄を解けぇぇぇーっ!」
「えぇ? けどそうしたらセカド、逃げちゃうだろう? お前、逃げ足だけは速いものな」
「いい加減にしろよっ、爺ぃ! 貴様、ホントに許さないからっ! 絶対に許さないからなっ!? 全然恨めるからなぁ!」
衝撃的な裏切りに合ったセカドだが、念入りに縛っている為に脱出などできよう筈もない。
「恩を仇で返すかっ、キサマぁぁ!!」
「恩? 私がお前にどんな恩があると言うのだ」
「貴様がうっかり肋骨を落としたと言うからっ、拙者が探して骨を届けてやっただろう!!」
「お前、アレ噛み跡あったぞ? 噛んだだろう。骨折させて戻しておいて恩なんてよくも言えたな」
魔将の言い合いが激化する中で、一人の人間が動く。
「お〜い! ちょっと宜しいかね、フォスよ」
「ん? なんだ、人間。何か私に用事か?」
「うむ。もし良いのなら、その者の尻尾とか頂けないものだろうか」
なんとマーナンはこの状況でも、セカドの尻尾を所望し始める。
「いいよ、少し待つがいい」
「はぁ!?」
あっさりと要求は通り、フォスはローブの中から鋏を取り出した。
「えっ、いやいやいやいや! 嘘だろう? 流石にそれはない。ないって。冗談だろ? 酷が過ぎるものな、うん」
「はい、チョキン」
「ギャァぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
よくもあのように次々と同僚に地獄を見せられるものだ。何の躊躇いもなくセカドの尾を切り取り、マーナンへと放り投げた。
「おおっ! 感謝するぞ、フォスよ」
「そんなクッサいものが欲しいとは、人間とは変わっていだだだだだだだだだだっ!!」
素知らぬ顔をしていたフォスの頭蓋骨に、死に物狂いなセカドが持てる力を振り絞って噛み付いた。そして身体を回転させて鰐のようにデスロールで魔法陣に引き摺り込む。
「待て待て待てぇ!! 他の部位にして!? そこは取り替えとか効かないからぁ!! 私たる所以な所だからぁぁ……!!」
「ゆるしゃんっ……!! じぇったいゆるしゃ〜ん!!」
セカド史上最高の憤怒を見せて、フォスを道連れにしようとしている。
「ふんんんんんんんっ!!」
「ぐわぁぁぁーっ!!」
やがて生け贄を二体認識した魔法陣は不気味に光り輝く。
「……あ〜あ、喧嘩してる内に始まっちゃった」
食い付いて離れないセカドと共に、自業自得のフォスまでもが薄気味悪い紫の矢となって天へと撃ち出されてしまう。
こうして、フォスの絶叫と共に魔将二人が散った。
彼等二人以上の災厄を呼び寄せて……。
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