第46話、一味違うガッツ
「くっ、イチカちゃん! 背後のホロヨイザルの集団に〈
「は、はいっ、〈
魔将に加えてこの数は致命的だ。急ぎイチカちゃんに一足遅れてやって来たホロヨイザルを引き止めてもらう。
「ふぅ、やれやれ。あとは早くボスの方を何とかしないとヤバそうだわ」
著しく動きを悪くしたホロヨイザルを目にして安堵の溜め息を漏らし、視線を再びガッツの方へ戻す。
「ウキ? ウキ?」
「いらんっ! えぇい、酒を勧めてくるな!!」
大きな木の実を割って作った盃に濁り酒を組み、ガッツの周囲を捉え所のない動きで翻弄するドブロクモンキー。
執拗に『飲みな? 飲みな? いいじゃん、飲めって。一杯だけでいいからさぁ』と、粘着して酒を勧めている。
「ウザ〜〜〜〜いっ!!」
あの温厚なガッツが苛立ちを叫んでいるくらいだ。相当なしつこさなのだろう。
ちなみにあの盃、跳ね除けたり酒を捨てたりするとモンキーの強さが倍になる。酒への配慮はできるのだ。
だというのに大剣が轟々と振り回されるが、ガッツの身体に擦り寄るドブロクモンキーには中々当てられない。
「――貴様等ぁぁ……」
前方の地面が、跳び降りたセカドにより破砕する。
「その腕前でファストを一撃でなどやれるものかっ!! 嘘を吐いたなぁぁぁ!?」
この状況でセカドまでもがオーラを激らせて槍を構える。
「嘘じゃないです。スピード勝負で一撃です。最後も勘違いした魔王タナカに殺されたです」
「あ、あぁ、そうなのか……。これは疑って申し訳ない。よく話も聞かずに、いきなり大声を出すものではないな」
「いえいえ、なんのなんのです」
互いにお辞儀をして気持ちのいい仲直りをするセカドとイチカちゃん。
「だがしか〜しっ、魔王様を殺したのは事実だろう!?」
「ひぃぃ……!? ……そ、それは確かにぶっ殺しました」
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!! ぶっ殺したとか言うなぁぁ!!」
相手の激情を逆撫でしていくイチカちゃんにより、セカドは魔力のオーラを爆発させている。
「ふんっ!! ……コール、俺に作戦がある」
「あるかもしんないけど、お前の作戦だろ? 間違いなく三人共……場合によっちゃ四人で仲良く危険になるじゃん?」
盃ごとドブロクモンキーを殴り倒したガッツが発案した。
けれど自信満々のガッツだが、作戦と聞いてもいい思い出は一つもない。
「安心しろ、今日の俺は一味違う」
「あ〜、じゃあ駄目だ。一味程度じゃ、お前の頑固な風味は変えらんないもん」
「いいからお前とイチカは遺跡に走れっ! 右奥の入り口が見えるだろう。あそこを目指せ!」
「今朝のがあるから行くけどさ。俺はアレは破滅への入り口だと思うぞ?」
セカドへと大剣を振り上げて向かうガッツを尻目に、イチカちゃんに手招きしてから遺跡へと駆け足。
「おおっ!!」
「んっ!? やるではないかっ、中々の剛力である!!」
臆することなく踏み込んだガッツの大剣は、巨槍により受け止められる。鈍い響音に振り返れば、飛燕の如く軽やかに振られる大剣は物の見事に、巧みに扱われる槍により打ち返されていた。
腕力ではガッツに軍配が上がるようだが、あの槍自体が強力な武具であり、尚且つ間合いが違い過ぎる。このままではセカドに触れることなく相手が主導権を持ち続けることになるだろう。
「えっほ、えっほ」
「もうすぐですっ」
無事に俺とイチカちゃんは遺跡の入り口に辿り着いた。
「ぐぅぅ……!! 余程の業物らしいな!!」
「魔将の装備が安価である筈がなかろうてっ!」
下がりながら戦闘するガッツも崩壊した遺跡により足場が悪い環境下でも、持ち前の馬鹿げた身体能力を活かして華麗に乗り切っている。
「入れっ!! 奥の突き当たりまで行くんだ!!」
「逃げ場失っちゃうよぉ? 朝のがあるから行くけどさ」
振り返って駆け出したガッツの強い口調での指示に、言われた通りに先導する形で走る。
遺跡内の壁に備え付けられた松明が、先んじて不気味に点灯していく。
やがてガッツの言葉通りに行き止まりに辿り着く。
「……で、どうすんの?」
「どうするです?」
二人して行き止まりの壁を眺め、ガッツへ向き直って当然の疑問をぶつけてみた。
「ふっ、見てみろ。あの滑稽な輩を」
「……貴様、拙者を侮辱するか。笑止千万っ」
策に嵌ったセカドを憐れむように笑い、大剣で指し示した。
「その槍、長過ぎてここでは取り回せないだろう」
「…………」
確かに。厄介であったのは轟々と渦を巻くように回転させる技であった。
ガッツのパワーと互角になるまでの威力を発揮し、近付くことが叶わなかったのだ。
「しかも見てみ? 刃の方をあっちにして入っちゃったもんだから、突くにしてもあの丸い方になるよ?」
「本当です。入れ替えようとしてガンガン壁に当たってるです」
でもガッツは……自分の大剣も振り難くなっていることまで考えているのだろうか。
「……う、うぇい、うぇ〜い」
「見苦しいぞ、セカド」
苦し紛れに槍の丸い方でツンツンと突き始めたセカドだが、軽く手で払うガッツは早々に決着させるつもりらしい。
大剣を握り締め、大きく振り被り、
「っ……!?」
息を呑むセカドを縦に両断…………できるわけないのにやるつもりらしい。天井あるよ?
「――ふんっ! ぐっ……おやぁ?」
案の定、ガガガッと天井を削りながらも大剣の刃は埋まってしまった。
「…………ほ〜い、ほらほらぁ」
「痛っ、痛い!! こらっ、顔は止めろ!!」
万歳状態で無防備かつ防御力皆無となったガッツへ、ここぞとばかりに突きを当てていくセカド。
「どっちもどっちです……」
嘆息混じりのイチカちゃんが、がくりと肩を落とした。
「まぁ、でも今回は確かに一味は違ったな。ナイスチャレンジ」
「ほ、本当かっ? 少し前にこの通路を調査する一団の護衛をして覚えていたのだ!」
「あん!?」
形だけ見直した直後に、聞き捨てならない言葉が発せられた。
遺跡のこの通路を調査する一団の護衛……。
「ここを調査してたのか!?」
「そうだ、いてっ!? ま、間違いなくこの通路のこの辺りだったぞ」
自信満々に言うガッツへ反射的に叫ぶ。
「お前っ、ここ未解明の場所じゃねぇかっ!! 俺等、揃って死んじゃうよ!?」
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