第38話、村人とエリート
「うぃ〜……食った、食った……」
冷え冷えの水を飲んで一息吐き、膨らんだ腹を摩る。
疲労感と満腹感で眠たくなって来てしまった。これではガッツに何も言えない。
ガッツに言えないと言えば、ラーメン内ランキングで海苔をトップ辺りに持っていくこいつの前で『ラーメンに海苔っている? ……なんか食いにくいんだけど』などと言うのは言語道断だ。レンゲ置くスペースに丁度あるんだけど、など言おうものなら何が起きるやら……。
ちなみにマーナンと俺は海苔は不要とは言わないまでも、あまり必要ないタイプ。もやしとかメンマの方が嬉しい。そしてマーナンもマーナンで味噌ラーメンのコーンを忌み嫌っている。あまりの剣幕だったので俺が代わりにコーンを食う羽目になった。
「……うし、じゃあ作戦考えっか」
「そうしよう。イチカが何やら棲息する魔物を調べて、ルートを作ったみたいだぞ」
「偉いねぇ、イチカちゃんは」
今日は依頼にも行かず、図鑑やそれなりに話せるシンシアさんやドナガンさんに訊いて情報を集めていたらしい。勤勉である。
「なら早速、そいつを聞かせてもらおっか」
「ルート……って言っても、ある魔物の群れを避けながら効率的に魔物を狩ろうというだけです」
「えっ、獣の森になんかいるの?」
「ホノオクイドリです」
「はぁ!?」
ホノオクイドリはかなりの強敵だ。しかも獣の森にいる魔物ではないことは、少し調べた俺は知っている。
「ちょっと待て、ホノオクイドリが群れを作っているのか? そのような種ではなかったと記憶しているが……」
「何故か群れになって獣の森を爆走中です……。これは流石に倒せないので回避しながら討伐して回るのはどうです?」
「というよりもそうするしかないな。数にもよるが、それは俺にも倒し切れない」
イチカちゃんの物言いから察するにかなりの規模なのだろう。あっという間に野を駆け抜けるスピードで移動するとも聞く。俺達の行動範囲が狭まり、取れる手段が格段に少なくなった。
「う〜ん、大物と同時に数を稼ぐなら群れを狙いたいだろ? でもあんまり開けた場所だと取り囲まれるから…………取り囲まれるからっていうか、俺が死ぬからぁ……」
地図を眺めてホノオクイドリの移動経路予想を考慮して、通る道筋を決定する。
「森に入って右から回って行こっか。そしたらホノオクイドリには出会わないっしょ」
「了解した。腕がなるな」
いつもではあるが、明日は特にガッツが討伐するしかない。やる気充分で頼もしい限りだ。
「群れを狙うからガッツが倒すまでの間に、戦闘の邪魔にならないような範囲で〈減速〉とかかけちゃえる? 例えば一番強いボスをやっつける間に、取り巻きを纏めてさ」
「お任せですっ……! 腕が鳴るです……」
「最近の君が物騒で逆に助かっちまったよぉ」
こちらが先に見つける前提で、通るルートの魔物を調べておこう。
「えっとぉ? 最初がまず――」
その時、ギルド【ファフタの方舟】が騒然となる。
ギルドメンバーもとい呑んだくれが騒ぎ立てる中を、顔を顰めながらもこちらへ歩む三人。
「う、うぃ〜っす、なんか用っすか?」
「ウィ〜ッスではない。ウィ〜ッスって何だ。ご機嫌よう、もしくはご機嫌如何ですかと言うといい」
「こ、こんにちはが入ってない……」
立ち上がって挨拶した俺は、エドワードに真っ向から正論を説かれてしまう。
背後のオーミとクラウザーは仕方なく同行したのだろうか。ストッパーとして付いて来たような雰囲気が感じ取れる。
「なら、ご機嫌ようっす」
「っす、は要らない」
「うっす」
「それにも入ってるぅぅ!! どこにでも“っす”が入ってるぅ!! 下劣な創作言語で私をイライラさせないでくれ!!」
思いの外に愉快な人だ。
頭を掻き乱してエリート意識から来るアレルギーを解消しようとしている。流石は貴族の息子である。
「あの、ご用件は……? 中止とかだったら俺は嬉しいんだけどなぁ……なんて」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………ち、中止など有り得ないとも。私は魔王討伐パーティーよりも優れていると《闇の魔女》様のご到着までに世に知らしめなければならないのだ……」
「では、何をしにわざわざ隣のギルドまで?」
鼻息荒く興奮気味であったエドワードだが、呼吸を整えて衣服の乱れを直し、顔を振って顔付きまで復元させてやっと本題を口にした。
「……そちらの魔法使いが欠場というのは真実なのか?」
「あっ、聞きました? そうです。《闇の魔女》様に魔法を見せなくちゃならなくなったんで、準備しなきゃでしょ?」
「それはそちらの言の通りだ。私もそれには納得している。ただ、このままでは明らかに公平性を損なっている。私の元にはただでさえモルガナが在籍しているのだから」
私の元にはと言うところが激しく気に入らないが指摘するわけにもいかないので黙って続きを聞く。
「そこで私達で話し合った結果、モルガナを除くこの三人で勝負をすることとなった」
「……悪く言うわけではないが、それだとこちらが有利になるのではないか?」
「はぁっ? どこが!?」
「い、いや……何でもない。こりゃ失敬……」
おずおずと遠慮がちに物申したガッツに、ライバル心を剥き出しにするエドワードが睨み付けて反論した。
いやしかし、これはガッツの言う通りだ。俺というハンデがあってもガッツは単独でB級。イチカちゃんのサポートもある。
対してあちらは壁役のクラウザーに、補佐のオーミ、速度重視のエドワードだ。火力や破壊力不足なのは明白である。
「私はそれだけを伝えに来た。では、明日にまた会おう」
「じゃ、よろしくお願いしますね」
お互いの健闘を祈って手を差し出した。
シェイクハぁ~ンド、これぞスポーツマンシップである。嗜みである。
「…………」
「うぃ……?」
けれど待てども待てども、冷めた眼差しのエドワードは俺の手を見下ろすばかり。
「どうしたのかしらねぇ……」
「……なんか、空気悪くなっちまってるなぁ」
周りで見守るギルドメンバーからも心配そうな声が漏れている。
するとエドワードはやがて予想外な言葉を俺に浴びせて来た。
「……悪いが、私は
明らかな見下す眼差しで嘲りを口にした。
ざわりと響めきが広がる。憤りが大半を占めており、鋭い敵意がエドワードに向けられた。
「お、おい、エドワード、それはないだろう……」
「…………」
流石にクラウザーやオーミも言葉が過ぎていると感じたようで堪らず口を挟んだ。
しかし本人は肩を竦めてまだ蔑みを続ける。
「悪く思わないでくれ。私自身の格に関わるのでね。品のない者の影響で、穢れてしまいそうに思えてならないのだよ」
「まぁそう言わずに」
「イヤぁぁぁ――――――――っ!?」
俺の方にデメリットがないので、エドワードの手を取ってエリートを吸収すべく握手させてもらった。
「明日がんばりましょうね?」
「は、離せっ、離すんだ!! エリートが穢れていくぅ!! エリートっ、私のエリートがぁぁぁああああ!! アアアアアアアーッ!?」
なんて面白い。俺はこの人、好きかもしれない。
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