第33話、マーナンと問答



「な〜んで勝手に引き受けちゃってんの? あんな言われたのに、負けたら俺まで加入することになってんじゃん……」


 都市長宅からの帰り道。


 《希望剣》との魔物狩り競争を受諾したマーナンを問い詰める。


 催しと考えたならやる気も起きる。お金も貰えるらしいし、この面子なら危険を冒さなければポーションで補佐するだけの仕事だ。


 ただ俺はポーション作製のほぼ毎日欠かせない仕事があり、学園にも通っているのできちんと冒険者パーティーに組み込まれるのは非常に困る。


 エドワードも『専属のポーション係か……。ヤクモ君を連れて歩くわけにも行かない。いいのかもしれないな……』と、贅沢にもポーション係などという役職に乗り気になっていた。


 俺の意思で抜けさせて貰えるならいいのだが……。今のギルドだって気に入っているし、あちらに移りたくはない。魔王を採用する破滅系ギルドだが、俺にとって居心地の良い場所なのだ。


「浅慮」

「ん〜? ちゃんと喋ってみ?」

「魔王討伐が軽んじられても良いのか?」

「っ…………」


 まともだ。マーナンがまともな意見を口にした。


「あの時の闘いを真に知る者は世間から見れば微々たるものだ。しかし我等は命を賭して、魔王タナカを滅した。これは紛れもない事実であり、微塵も穢されていいものではない。誰であろうともな」

「マーナン……」


 ……ちなみに、少しも見直してはいない。だって必ず何か裏があるからだ。


 何を隠している……?


「でも勝てるとは思えないです……。みんな強いですけど、あのモルガナさんは雷魔法を中心に、火魔法、氷魔法、風魔法、闇魔法・・・などもファーランドで一番です……」

「はい、それだね」


 勝機を見出せず肩を落とすイチカちゃんの呟きから答えが顔を出す。


 マーナンが乗り気になったタイミングはモルガナが提案をした辺り。つまり、付け加えられた勝利条件にある。


「……お前、モルガナの闇魔法が見たいんだろ」

「何を馬鹿なっ」

「自分より凄い闇魔法は認められないから言い出せずにいたけど“あれ? 依頼一緒に行けんの? これ、参考にできるチャンスじゃね?”とか考えてそう……」

「き、貴様っ、我を愚弄するかっ!!」

「うん」


 ちょっと良い事を言って誤魔化そうとする奴は問答無用で愚弄する。


「……何か問題でも? どうせ受けなければならないのに、何か問題でも?」


 あっさりと開き直り、あからさまに見下して来た下衆の極み。良かった、正真正銘のマーナンだ。


「よし、お前の扱いのランクを一つ下げるわ。同じ人類として扱いたくない」

「我より優れた闇魔法という認識は微塵もないが、……少しは我に尽力しようとは思わないのかぁ。はっきり言って貴様等は世間的に見て、かなりの非常識なのだぞ」

「どういうこと? どういうこと? めちゃくちゃ興味ある」


 嘆息混じりに俺を非常識呼ばわりするマーナンに、かつてない興味を抱く。他の二人はともかく、俺は常識人という自覚があるのだが如何に。


「どうもこうもない。貴様等の今があるのは、我が魔法により魔王を倒したからだろう。命の恩人ということを理解しているのか?」

「まぁそうなんだけどさぁ……」


 納得の物言いに嘆息しつつ、無造作にマーナンへ手を伸ばし、頬をデコピンする。


「痛ぁぁ!?」

「でも俺等だって結構色々やってたぜ? マーナンのお陰とは言えさ」

「手を出すのはいかんっ!! 手は出してはならんっ!!」


 頬を押さえて猛獣を押し留めるかのようにもう片方の手で俺を制している。


「ん? なんかあったんか?」

「う、内なる攻撃性が形となって漏れ出ていたぞ……」

「マジ? そらすまん。よっぽどムカつくことがあったんだと思う」

「狂気なりっ!!」


 先程までは“我等は命を賭して”なんて言っていたのに、もう“我の魔法で倒した”なんて思い上がってやがる。


 頬を高速で擦って痛みを和らげたマーナンは、いつもの調子に戻ると咳払いを一つ挟み口を開いた。


「落ち着くのだ、コールよ。反対しているのは貴様のみなのだぞ?」

「う、うぃ? ……え、お前等も賛成なの? 言えるもんなら言ってみな?」


 そう言えばマーナンの独断があったにも関わらず、一言の文句も言わないガッツとイチカちゃん。


 背後で平然とした態度で立っていた。


「何故そう怖い言い方をするんだ、お前は……。……俺に不満はないな。負けたところで金も入るし、魔王討伐は俺等の冒険の思い出だと思っている。それに……」

「それに……?」

「……俺はエドワードに嫌われているからな。かなり前からライバル視されていて、負けてもパーティーに入れられることはない。そんな訳で、何か目標を決めて冒険するというこの企画には乗り気だ」

「マジかよ……。なら、イチカちゃんは?」


 隣のイチカへ視線を流し、仲間を探す。


 するとイチカちゃんは何故そのような質問をされるのか分からないと言った風に首を傾げて淡々と語った。


「私は魔法を使った瞬間にパーティーから外されるですよ?」

「……そうだったね」


 つまり今回にデメリットがあるのはポーション係の俺だけ。


 何故ならマーナンは当然にあちらから返品されるからだ。この性格に耐えられる人材をあちらは有していない。


「勝てっかなぁ……。一応、気合い入れてみっかな」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る