第27話、忍び寄る次なる波乱
《闇の魔女》リアが魔王討伐を成した英雄達を祝福する為、ファーランドを訪問する。
この話題は学園のみならずファーランドを半日で駆け抜けた。
魔王に滅ぼされんとしていた都市に《力の魔女》ハートが現れ、あの《嘘の魔女》モナまでもが気まぐれに救い、更に《闇の魔女》リアまでもが都市を訪れるという。
まるで魔女の恩恵を受けているかの如き幸福感にファーランドは熱狂していた。
「――ホント男ってさ、やることやったら冷たくなるんだよね」
「そうなの? ……そうなのかな。私は人によるところがあると予想するけどね」
「モルガナは恋愛とか男の知識がホントに皆無ね……。いざ恋人ができたら大変なことになりそう。てか、変な男に騙されそう」
「それは大変だ。そうなった時には相談に乗ってもらおうか」
張り切る学園生達を尻目に達観して男を語る友人を、モルガナはとあるカタログに目を通しながら相手する。
オープンカフェで雷魔法科の次なる授業までの待ち時間を手持ち無沙汰に待つ。
そして未だモルガナに男の気配がないと知るや、彼女目当てに周りで様子を伺っていた者達の中から一人の男が立ち上がる。
「モルガナさんさぁ、俺達と――」
「行かないよ? 先に言っておくけど、しつこく食い下がるようなら少し痛い目を見ることになる。何故なら私はこれ以上に不快な思いをしたくないからだ。了解したなら立ち去りたまえ、ペガサスの速度で立ち去りたまえ」
「……う、うす」
一瞥もくれず姿勢もそのままに拒絶され、男ががくりと肩を落として去っていく。何度となく見た光景だ。いや、本当に諦めずに声をかけ、電撃を食らうものも多い。
学園で絶大な人気を誇るモルガナだが人を寄せ付けず、それがむしろミステリアスな魅力となって人々を魅了する。
「……ねぇ、モルガナは今回は出るの? 例のミスファーランドとかいう美人の一番決めるやつ。男を呼び寄せようって魂胆が丸見えなアレ。今年は《闇の魔女》様のご訪問に合わせてやるんだってぇ」
「う〜ん? 出ないよ?」
「そりゃそうよね。あんたが出たら審査の必要無くなるもん」
「う〜ん、かもね。君はどうするつもりなのかな」
友人は椅子で脚を組み、美しく優雅なモルガナを盗み見る。異常に整った顔と白髪が神々しく、制服を押し上げる胸元などは女性でも羨ましくなる。
仕草にも余裕があり、触れてはならない存在のように世間離れした雰囲気をも感じる。
「…………出ない。いま決めたわ」
「そう。良い結果が残せるかもしれないのにとても残念だ」
「……さっきから何をそんなに見てるのよ」
「うん? 新しく買うコスチュームを選んでいるんだよ?」
「えっ、またぁ!? この間にエロ〜いやつを買ったばっかじゃんっ」
微かな騒めきが生まれ、続く会話に集中して必要以上に周辺は静まる。
「買ったばかりだけど、他に目ぼしい物が出ていたとしたらそちらも欲しいじゃないか。でなければ何の為に冒険者なんていうものをやっているのか分からなくなる」
「えっ、生活費とか学費の為じゃないの……?」
「それにあれもあれでまた使う。反応も悪くなかったからね」
「反応ってなに……? あんたが部屋で一人で着て楽しむだけでしょう……?」
「そうだったね。言葉選びを間違えてしまっていた。謝罪しよう」
淡々と言葉を紡ぐモルガナはふと冒険者という言葉で、チームメンバーの三名を思い出す。
領主に呼び出され、今頃は二つ離れた都市に赴いていることだろう。当然にモルガナも呼び出されたが、当然にその要請を無視していた。
「えっ、アレ魔王を倒したマーナンじゃんっ……!! あたし、あんな感じのおじさんが好きなんだよね」
「ふ〜ん、そうなんだ」
友人の声に周囲の学生は視線を反対の道側を歩むマーナンへ集まる。
あの魔族域の王、人類の天敵であり世界的な強者である魔王を倒した闇魔法の英雄。ガッツと共に抜きん出ていた才覚を見せてはいたが、誰しもの予想を超える歴史的偉業を成し遂げてしまった。
「ねぇ、モルガナも見てみなよ。あたしの今の聴こえたみたい。立ち止まって聞き耳立ててる、なんか可愛くない……?」
「私は苔の生えた岩の方が好みかな。それより、そろそろ時間だよ」
「え、本当だ。声かけたかったのに、ツイてないわぁ……」
英雄だろうと他人に無関心なモルガナが立ち上がり、釣られて友人やモルガナ目当ての者達も行動を開始した。
その団体を見送り、コールはマーナンへ声をかける。
「…………」
「……そう落ち込むなって」
「何の話だ。急に中身のない言葉がけは止めるのだ」
「えっ? お前、自分が膝から崩れ落ちてんのが分かってないの?」
四つん這いで過ぎ去りし恋の予感を嘆くマーナン。見つめるタイルの地面も、心なしか冷たい色合いであった。
「カレーでも食って気分を入れ替えようや。英雄なら引くて数多だってんだよ」
「……カツカレー」
「おぅ、カツカレーでも何でも食おうぜ。…………お前が払うんだけどな」
肩を落とすマーナンの腰に座り、溌剌に慰めるコールであった。
♢♢♢
都市ファーランドから二つ離れた都市ポーンハウス。
ここにはデューリンランド領の領主である“リオウ・シユー”が豪邸を建てて暮らしている。
ファーランドよりも人口は少なく、自然豊かでどちらかと言えば観光地であるポーンハウスだが、領主リオウは好んでここに住んでいた。
「――私が領主であるっ!」
「知っています……」
扉を開け放ち、居丈高に登場する領主リオウにエドワード達が慣れた様で立ち上がった。
上等な茶のスーツを着こなし、自慢のカイゼル髭を撫で付けながら歩み寄る。
何故か鼻息荒いリオウは正装姿の三人各々と握手を交わし、着席を促した。
「…………」
「……それで、お話というのは」
自らもソファに腰を埋めるも目を閉じて黙り込むリオウに焦れたエドワードが意を決して問いかけた。
「……魔王討伐を成された。しかも魔将まで。私がバックアップぅする君達以外の寄せ集めパーティーがだ」
「勿論、我等も知っています」
「君達はその間に何をしていたぁ!!」
「あ、あなたの命令で、レッドドラゴンの調査を……」
「その通り。察しているだろうが、私は君達を避難させた」
喜怒哀楽の激しいリオウは、両膝に頬杖を突いて続けた。
「……全部、裏目裏目なんだよなぁ」
「…………」
「私自身も妻と子だけを連れて逃げ、去り際に馬車の窓から困惑する使用人達にこう声をかけた。……俺等だけで逃げっから! ちなみに近くにヤベぇのいるけど、お前はどうなんだろね! ぶははははぁ!! ……なんて言ってしまったものだから、値打ちのある物を全て掻っ攫われて持ち逃げされる始末……」
リオウは性格が悪かった。
「ちょっと《闇の魔女》様が来る前に功績を残したい」
「……と、言いますと?」
本題の気配を敏感に感じ取ったエドワードは、前のめりになって訊ねた。
「君達、《希望剣》をA級に押し上げたい」
「っ…………」
鳥肌が全身を覆う。
予想を超えるリオウの発言に、無関心であったクラウザーとオーミも驚きに包まれた。
A級冒険者、それは冒険者ならば誰もが憧れる超一流の証。
上位1パーセント未満の伝説級で腕の立つ冒険者のみが到達できる世界的な称号である。
「……ま、誠ですか」
「うむ、だがまだ実績が足りない。《闇の魔女》様に打診できる程のものがな」
「ではこうしている場合ではありませんっ。すぐにモルガナを召集して討伐任務に――」
……千載一遇のチャンスを前に逸る気持ちを抑え切れないエドワードへと、リオウは手を翳して制した。
「――実力を示すのに打ってつけの標的がいるではないか。魔物以外にもな……」
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