第4話、ポーションは緑茶風味


 無論、作製者によって出来不出来は異なる。効き目が薄いものもあれば、俺のようにお茶の味がするものもある。ただ基本的にポーションは、緑茶風味が多い。


 では今回のポーションの効果値を測ってみよう。


 専用の細長い紙の糸があり、これを先端の線のところまで浸して染み上がって来たところが効果値となる。数値が高ければ高いほど効き目は抜群。


 ポーションの場合、平均は66。基礎的な回復用アイテムである為、この道を目指すならば誰もが欠かさず作る。なのでかなり高めだ。


「…………72。かなりいいけど、まだまだだな」


 前任者は八十台後半を記録したこともあるのだとか。渋過ぎて飲み辛かったらしいが。


「本当にコールのポーションは出来がいいな。隣のギルドのポーションなんて飲めたものではないらしいぞ」

「……えっ、それって……」


 有名な話である。この街には二つのギルドがあって、もう一つはすぐ隣だ。


 そこのポーションは非常に癖が強く、飲み難いのだとか。効果はきちんと高いらしい。俺も知っている人だが、かなり優秀な作製者だ。熟練度も高く、既に様々なポーションを作れると聞いている。


 だがどうやら背後でガッツと揃ってお茶もといポーションを飲むイチカちゃんは、何かを疑問視したようだ。


「……そのギルドの誰かが盗んだんじゃ」

「自分のとこのが飲みづらいからぁ? いや……薬草まで盗んでるから、それは無いんじゃないかなぁ?」

「ポーションと薬草、別々の犯人というのはっ?」


 目を輝かせて推理する、ちびっ子魔法使い探偵イチカちゃん。


「探偵ものの小説でも読んだんか……? まさかそんな同時に盗まれることなんてあるわけないってぇ」

「そうでしょうか。ポーションは受け付けの棚、そして薬草は裏口付近にありました。場所が違い過ぎます」


 仕事に戻りながらも熟考してみる。


 ポーションが盗まれた時間は朝方にギルドを開けたばかりの時だろう。


 深夜にギルドを閉める際にはマスターが各種チェックしているのを緊急依頼などの際に何度か見ている。ただ薬草までは確認していなかったように思う。盗もうと思えば確かに可能だろう。


「朝、裏口と受け付けの同時攻略は難しい。薬草だけならば事前に盗める。……どうですっ?」

「……そうかもぉ。けど犯人を捕まえるのは難しいかもね。ポーションも薬草も割と簡単に手に入っちゃうものだし、そんなに調査されないかも」

「……悔しくないんですか? 自分のポーションが盗まれたのに」


 意外な質問をされて自分でもはてと理由を考えてみる。


「あ〜……、その盗んだ人が売り捌くとかしてるなら、そういう奴に相応しく頭をオークのケツにぶっ刺してやりたいな。いやもうそれ以上が考え付くなら、それ以上以上でやり返したい」

「おえっ……」

「でもその人が他の誰かを治したいとか、自分で飲んで命を守りたいとかなら腹は立たないかなぁ。俺の作り出したポーションで命が繋がるならな。盗みがダメなのは変わらんけど」


 俺は弱い。けれど冒険者や傷付いた人を助ける能力がある。


 イチカちゃんに問われて改めて自分が何をしているのかを再認識できた。


「……それで、イチカはパーティーを見つけられたのか?」

「っ…………」

「まだのようだな。時間が空いている時は俺が手伝ってやるぞ」

「……皆さん、そう言ってくれます。けど……」


 イチカは勇ましく言い放つ。


「……私は、ソロです」

「あんた、付与魔法使いやん」


 確かに自身に付与魔法を使用するような戦い方をする者もいる。しかし付与魔法専門の魔法使いともなれば話は別だ。付与する仲間がいなければ、何しに行くの? と言われても馬鹿野郎の一言も返せない。


 イチカはコミュニケーション能力が乏しかった。俺達以外とはまともに会話できないし、しているところをほとんど見かけない。


 更に魔力保有量や適性に特に恵まれるイチカは、その魔法の効果が強過ぎる・・・・


 つまり魔法が効き過ぎるらしいのだ。


 だからパーティーを固定するのに、消極的であるのかもしれない。


「イチカちゃん、俺等とタイミングが一緒の時くらい助けてくんね?」

「はっはっは! いつも二人だからな。イチカもたまには一緒にどうだ?」


 阿吽の呼吸で、イチカちゃんをパーティーに誘う。


 こういう時にガッツが無二の親友であると実感するだけにタチが悪い。


「…………た、たまになら、いいです」

「おっしゃ、決まったな!!」


 次々にポーションを作りながら、寂しがりやなのに孤独なイチカちゃんを巻き込む。


「そうだな。俺達は容赦なく声をかけるから、覚悟しておくんだな」

「じ、上等ですっ!!」


 どの程度の魔法なのかは不明ではあるが、大抵はガッツのポテンシャルでカバーできる。


「…………」

「…………」


 ガッツにお礼のグッドポーズを送り、更にグッドポーズを送り返された。


 こうしてガッツとマーナンに並ぶ結構ヤバい人物を引き込んでしまったのであった。いや、マーナンには並ばない。


「今日はイチカちゃんはどうすんの?」

「今日ですか? 今日はいつも通りに、昼からウルフを一体狩ろうかと」

「ウルフ!? いつものウルフっ……!? ……普通にレベル高くて笑える。なっはっはっは!!」


 ソロでウルフという狼の魔物を狩るというのは、それだけでD級の冒険者ということになる。つまり大人の立派な冒険者並み。


 俺なんかよりも余程に強い冒険者となるわけだ。


「す、凄いな、イチカ。……ちょっと付いて行こうかな。どうやって狩るのか興味がある」

「俺も学園に行かなくちゃならないから丁度いいじゃん? 後で教えてくれよ」

「了解した」


 そこで丁度ギルド内から、何やら騒ぎが起こる物音を耳にする。このような場合、大抵はマーナンの野郎が原因であることが常なのだが……。



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