最後の休日

それは最後の休日だった。セイントメシアナインス(識別コード、アプリコット)、アマリリス、チョコレイト・リリィ(開発プラン名)という装備に改装されるアナザーエイジ、エーデルワイスらアームヘッドが並ぶガレージ。パープル・アップル攻略作戦、”シュート・ザ・ムーン”の会議が始まった。

  


「司令、マイティラバーズも出せますよ」

かつて少年だったテルミも戦いを繰り返し頼りになる表情が出来るようになった。

「レインディアーズの最高幹部の一人にそういってもらうと助かるな」

「あなたはナンバー1だったじゃないですか」

「俺も年だな。ジョークの質が落ちた」

「もとからだろ親父」

 「ティガー……」

「テーリッツ博士」

「テルミ、レインディアーズの支援はありがたい。ゲイボルグとチョコレイト・リリィのマッチングには多少時間がかかりそうだ」

ゲイボルグとは俺の覚醒できるアームコアのひとつだ。もう片方シャルドネはナインスに使われている。

「アナザーエイジは直せるのか?」

  「私ならね。マキータ司令にはそれまでもってもらえると助かるんですが」

ティガーはよそよそしくわざとらしく言った。

「それで、なんのようだ?」

「ああそうでしたね。助っ人を連れてきました。あなたよりよほど強いひとですよ。先輩はね」

「先輩?」

「あなたの救えなかった娘を救おうとした人です」

  


ふさああ、金髪のリーゼントが砕けロングヘアーとなった。男だ。実際の年齢よりも若く見える。そう、彼が「先輩」だ。

「あなたが秋那さんのお父さんですね」

「そうだ、俺がマキータ・テーリッツだ」

「礼三郎です」

彼と会うのは初めてではない。だが共に戦うのは初めてだ。大丈夫なのだろうか?

 「心配ですか?俺の実力を見せてあげましょうか?」

演習でもするのだろうか?俺がそう思った時、敵襲の警報がなった。

「成る程、本当に”未来”と一緒だな」

礼三郎が笑った。

「先輩、また技を磨きましたね」

「テーリッツ博士、それはどういう意味です」

テルミの疑問ももっともだ。画面が敵を映す。パスタのような触手を持つ姿に変化しつつあるアームヘッドだ。

「だいぶ奴らもしつこいが俺が興味があるのはあいつらじゃないぜ」

「出撃しなくていいのか?」

お前もなと言われそうなセリフを思わず言ってしまう。

「もう終わっていますよ」

突如パスタ変化アームヘッドの周辺に青白い光が生じる。青白い光は拳となりパスタを貫く。パスタは光となり消える。

「先輩いつ撃ったんですか?いやこのあと撃つんですか」

「いや最近気づいたんだがどうやらあれを撃ったのは別の俺らしい」

礼三郎のタイムスリップ拳は最終進化を遂げ因果の逆転を通り越し撃っていない打撃を当てるレベルになった。(らしい)

「どうやら取り越し苦労をしてたらしいね」

「もとより私が期待してないのは父さんだけです。指揮だけをなさっては」

「それはできん」

「なぜです?もう高齢というレベルではないでしょう」

こいつなり俺を心配してくれているのだろうか?

「俺をライバルが待っている。お前にはライバルがいなかったのか?」

  ティガーは誰か思い浮かべているのだろうか。しばらく思案していた。

「わかりました。私も彼もあなたに協力しますよ。ギュルヴィもピットギアスを整備は完璧です」

彼とはティガーのライバルなのだろうか?

「そのライバルが幸太郎の野郎とはマキータさんも大変っすね」

「お前は?」

礼三郎が訊ねた。

「僕はキディ・ムーンライト。別の君がいる世界から村井幸太郎を倒しにやって来たのさ」

キディはどうも芝居癖があるらしい。

「そいつは頼もしいぜ」

「で、チーム名はなんにします?」

「チーム名?」

それは考えていなかった。そもそもいるのだろうか?

「レインディアーズじゃダメですからね」

「マーダーエンゼルで良いのでは?」

「俺にいい考えがあるぜ」

「さすが先輩!」

ティガーは礼三郎をどれだけ尊敬しているんだ?

「ふふ、……フォールンエンゼル!」

礼三郎はもったいぶって言った。

「それだ!それがあった」

「マジカッケェ!」

「伝説の!?」

ティガー、キディ、テルミの顔に喜びが浮かぶ。

  


フォールンエンゼル……。ザコオの断末魔が思い起こされる。ダークサードは魔獣と化したセイントメシアサラマンダーの胸、コクピットを貫いていた。

「お前を呪ってやる……お前たちを呪ってやる……セイントメシアに災いあれ……私と彼は……永遠に呪ってやる」

呪いのせいだろうか?

  


秋那を喪ってしまったのは。だが呪いに関係なく幸太郎は死んだ。いや救世主という呪いに既にかかってしまっていたのだろうか?勝ち続けねばならず敵を救う傲慢さを許容する圧倒的な力、だがそれはその持ち主そのものを救えるのだろうか。その力の似姿は秋那、ザコオ、ミスターヴァカらを破滅させた。そして幸太郎自身もまた救世主の呪いによって死に、さらには蘇ってさらに苦しもうとしているのではないだろうか。救世主を救うには……どうすればいい。救世主を、セイントメシアを、幸太郎を倒す。幸太郎に今度は勝たねばならない。

  

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