漆黒の狂騒

セイントメシアテンスが黒く変貌していく。

「調和か」

あるいはゾンビスキンの亜種か。だが姿の変貌よりも幸太郎の様子の変化の方が恐ろしく思えた。幸太郎は死ぬなよと言った。それがどういう意味かはすぐにわかった。第三形態を称する形態は幸太郎の理性を犠牲にするのだ。

 「死ね……マキータ……」

先程とは真逆の言葉を放ち先程同様襲い掛かるセイントメシアテンスの両手は鋭い爪に変化していた。その一撃を後退してかわすがコクピットに衝撃が走る。かわせなかった?否、そうではない。答えはもっと絶望的だ。テンスの恐ろしい破壊の爪は衝撃のみで装甲を剥いだのだ。成る程これならば救世主を称する傲慢な男が俺に忠告するわけだ。聖なる救世主は完全なる鮮血の羽を持つ漆黒の天使へと変貌し黒き爪で天国に誘うのだ。

「冗談……」

ナインスは更に距離を取る。セイントメシアテンスに触れることは死を意味する。いや近づくだけでまずい。正に形を成した死そのものだ。速い!無駄な思考を一瞬後悔すると生存本能が行動を選択した。二丁のフィジカルライフルを放ち、それが無意味で有ることを死の爪が証明するとナインスは自殺志願者めいてテンスへと向かった!テンスは怯まない!完全なる破壊衝動たる漆黒の天使はもう一方の天使を完全破壊すべく両腕を振るった……!テンスは宙を舞った。上からの攻撃でコクピットを直接狙うのだ。

「無駄だ……」

装甲に変化した黒い羽根がテンスの銃剣のようなフィジカルライフルを弾いた。

「これで終わりだ……」

幸太郎の声は死神の最後通告のようであった。テンスは頭と腕を上に向けた。

「勿論お前がな!」

第三の声がした。

「シビルヘッド……なぜ動くのだ?」

既にパイロットは逃げており動くはずがないのだ。

「僕だ」

声のした方を見て幸太郎は舌打ちした。

「アマリリス……!キディか……!」

  

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