天をすべる

レイラインは崩壊した。故に未来は不確定で不確実なものとなった。押さえつけられた可能性はその反動で多くの未来を産み出した。村井幸太郎は親友のマキータをエクジコウとの戦いで喪うもアキト駆るタイラントと共にセイントメシアフォースでエクジコウのデウスエクスマキナを滅ぼすことに成功した。こうして地球圏統一帝国の野望は断たれエクジコウの数万年の呪いは浄化された。しかしそれは新たな戦いの始まりに過ぎなかった。傷ついた世界で台頭したのはアプルーエ連合王国を影で支配するヒルドルーヴ社、その私設武装組織であるスリーピィドラゴンである。ヒルドルーヴ社はアームヘッド関連産業同盟を結成し既存の国家体制に対しクーデタを仕掛けた。そしてそれは成功した。だがそれに対抗するものがあった。村井研究所を筆頭とする8つのアームヘッド企業は八天同盟を組みヒルドルーヴ社とスリーピィドラゴンと敵対しヘブンの全球支配は許したものの旧体制勢力をエクジコウの母艦を用いてトンドルへ脱出、正統天州を称する。正統天州とスリーピィドラゴンの争いは2060年まで半世紀近く続いている。八天同盟はトンドルに侵攻を試みるスリーピィドラゴンの武装惑星要塞アームヘッド、パープル・アップルに対し戦艦ボートハウスで攻撃を仕掛ける。そこには30年の冷凍睡眠から目覚めた村井幸太郎の姿もあった。「アイツに勝ちたい」

無理な願いだ。そう気づいていた。アイツはもう勝ち逃げしてしまった。だからこそアイツのマキータの守った世界を守る。そう思っていた。

「願いを叶えてあげる」

その言葉を聞くまでは。その言葉は魔性の誘いに聞こえた。

「私もあの男に勝ちたいのですわ」

そう声は言った。

 「何をぼけっとしてるんすかあ?リーダー、このドーナツデリシャスですぜ?キャハハ」

キディの声にハッとする。

「あはは、もう年なんじゃない?」

ペギーとデボラが笑う。リズの大統領の末裔の双子だ。

「悪い、俺はドーナツが嫌いなんでな」

アイツを思い出してしまうから。

「そっかあ」

  キディたちは新型セイントメシアを操るパイロットだ。

「”ソイツが嫌いかどうかって車運転しているときに、急に目の前に現れたらブレーキ踏むかアクセル踏むか”でわかるって言うぜ」

「へーすごーい」

「キディくんはどうするの?」

「えー?僕は優しいからブレーキを緩めに踏むぜ?」

「やさしーい」

  


「パープル・アップルか」

テレビに映る近づきつつある人工惑星を見た。あの声はパープル・アップルで待つと言ったのだ。つまり声の正体は敵である可能性が高い。

「スキムヘブンの様子をみてくる」

考えるべくもない俺はマキータにもう一度会うのだ。

「いってらー」

キディの声を背に俺は去った。宇宙、アームヘッドが宇宙に進出して久しい。スキムヘブンは両手のライトブレードレールガンを構える。敵だ。スリーピィドラゴンの主力アームヘッド、ライカンスロープだ。

「悪いがマキータのように命を救ってやることはできないぞ。俺はもう救世主じゃない。ただの偶像だ!」

ライトブレード発射!

「デリシャス!」

キディのアームヘッド、アマリリスが人狼アームヘッドの群れに突進する。

「かわいこちゃんたち!トライアングルを仕掛けるぞ!」

「おっけー」

セイントメシアストーカー二機が三角形の底辺を形成、突出したアマリリスと共に敵を囲む!

「サヨナラ、噛ませ犬ちゃん!」

  セイントメシアストーカーの一機の後ろからアームヘッドが迫る!ライトブレードを構え、そのアームヘッドを狙う。

「あぶないよペギー」

デボラが忠告する。セイントメシアストーカーが反転し後ろのアームヘッドにフィジカルライフルを向けた。

「見えているのか?」

「あたしたちの調和のうりょくならね」

  「あれがパープル・アップル」

スキムヘブンは僚機と共に防衛網を突破しパープル・アップルの上空に近づいた。不気味に防衛網が薄い。

「罠か?」

「望むとこでしょセンパイ!救世主の実力もっと見せてよ!」

「……わかった」

スキムヘブンはパープル・アップルへと降下。

「ちょ?おま……」

  そうだ、行くしかないのだ。終わらせよう。

「おいおい、本当に行動が軽率すぎっしょ?」

「君に言われたくはない」

アマリリスもストーカーも着いてきたのだ。

「あははおもしろーい」

「……着いて来ずとも良かったのに」

「……おいまてセンパイ、あのこはなんだ?」

アマリリスが指差す。

 「ようこそヘブンへ、歓迎しますわ。わたくしはミザリー・テーリッツ、スリーピィドラゴンの女王でしてよ」

真空に立つ少女はそう言った。

  

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