フィットネスクラブで惚れた!

 俺の名前はコタロー。今日もフィットネスクラブで自分への鍛錬を怠らない。目指すはシックスパックの腹筋だ。というのも、先日、後輩とサウナに行ったとき、


「コタローさん、ナイスなスリーパックですね〜」


 と褒められたからさ。まぁな、自画自賛じゃないが自分でも見事な三段腹だぜ。


 しかしフィットネスクラブは最高だ。基本、後ろ向きな奴はここには来ない。自分にふと後ろ向きたいとき、ここには前向きな奴しか居ないのさ! ヘイ! アーユーレディ?


 いつものランニングマシンに乗って走り出す。スタジオにもイカしたBGMが流れているが俺はあくまで自分がチューンしたお気に入りのプレイリストをかけるぜ。おっと、アニソンばかりなのはご愛嬌ってもんさ。最近は最前線の人気アーティストだってコラボってるだろ? 時代がようやく俺に着いてきたのさ。


 風は感じられないが心で風を切りつつ走っていると隣のランニングマシンに誰かが飛び乗り、颯爽と駆け出す気配を感じた。


 チラりと横目で見やるとポニーテールを揺らしつつ、ツーピースのスポーツウェアに身を包んだ若い女性が走っていた。Oh! ユーアーレディ? いわゆるおへそ出しルックなちょいセクシーなウェアだ。しかしそんなボディラインを強調する格好にも関わらず一切余分な脂肪を感じさせない。思わず見惚れていると彼女がおもむろに設定ボタンを華麗に操作し、一気にスピードアップを仕掛けた!


 な、なぁに〜⁉︎ 14km/hだとぅ? 12km/hで調子に乗ってた自分がやるせない。お、おま、お前こんなん、


『惚れてまうやろーー!』


 何という恐ろしい女だ。これは男のプライドが許さん。俺は刺し違える覚悟でマイマシーンの設定を最大の15km/hにアップした。ふぅ……ベイビー、もう俺をいくら追いかけたって追いつけないぜ〜、悪いが俺の背中を拝んでくれや。アディオス!


 って思ってたら、おもむろに隣のレディも15km/hにアップ&傾斜角プラスしちゃいました〜。


『え〜〜⁉︎ マジっすか⁉︎』


 いかん! 動揺して足がもつれた途端、ベルトに身体が持ってかれてしまった! ヘッドフォンのコードが引っ張られマシンのドリンクホルダーに刺していたスマホからジャックが抜ける。


 ♪〜♫〜♩


 響くアニソン。ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっと待ってくださいよ!


 次の日、家電量販店にワイヤレスヘッドフォンを購入する俺がいた。


 ふっ、世間の雑音なんざノイズキャンセリングだぜ。


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