デスクワークで惚れた!
俺の名前はコタロー。長いものに巻かれろではなく、巻き付けが心情の男だ。
「コタローくん、カラスは白いね〜」と、もし上司に言われたら
「はい、そうですね」なんて野暮は言わずに
「はい、今朝2羽見ました!」と迷わず胸を張って答える、それが俺なのさ。
そんな会社でのある日の出来事。
俺はPCのアップデートが上手くいかず焦っていた。
「う〜ん、ここの管理者権限ってどうすりゃいいんだ⁉︎」
つい思わず声に出てしまう。
う〜ん……ダンディズムに欠けるぜ。俺の美学がやるせない。
「コタローさん、大丈夫ですか?」
隣の島、別の部署でそれほど話したことのないアユミさんが心配して声を掛けてくれた。
「う〜ん、ここの別のユーザーに切り替えるってとこが分かんないんだよね」
「あっ? そこですね。ちょっと貸してください」
そう言うとアユミさんは座っている俺の右斜め後ろから覆いかぶさるように俺のマウスを握って操作をしだした。そのままマウス持ってたら上から手まで握られそうな勢いである。
なっ? ちょ、ちょ、ちょっと! 近い、近い、近〜〜い! 何? 何しちゃってくれてんの? お前そんなのアップデートじゃなくて俺がアップビートしちゃうよ! くわっ! なんか甘い香りがしてくるし、左手で枝垂れていた髪を掻き上げて耳にかけてんじゃねぇよ! 囁きたくなっちゃうでしょ⁉︎ お、おま、お前こんなん、
『惚れてまうやろーー!』
何という恐ろしい女だ。さっきまでの男の美学がすっかりクリーンインストールされちまったぜ。もはや俺の心はこの先の展開ですでにメモリーが一杯である。こ……これは、先ずお礼にお茶でも誘って、それを機に仲良くなって、う〜ん、この場合、仲人は俺の上司のほうで良いんだよな? あれ? うちの会社は寿退社とかってあるんだっけ? その前に披露宴の料理は洋風? 和風?
「はい、良いですよ」
だよね〜、やっぱりそこは和洋折衷だよね〜ウン。俺の心にチャペルの鐘が鳴り響く。あれ? どっかで聞いたような音色だと思ったらOSの再起動のチャイムだったよ!
ポロロ〜ン♪
「あ、有難うアユミさん、面倒かけて悪かったね……。あ、あのさ!」
「あ〜、いいんですぅ。私この辺のIT担当も掛け持ってるんで♡ あっ部長〜! どうせ分かんないだろうからプリンターの設定、私がやりますね〜」
そう言うとアユミさんは大木のような巨漢の部長のデスクに行くと、さっきと同じように部長のPCを操作しだした。
そう、まるで巻き付くように。
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