第5話 夜明け 

 翌朝、超巨大ゴリアテに変化が現れました。

 融合を終えた滑らかな外形になっていました。胴体は縦長になり前足は四本に増えています。体は緑、青紫、黒褐色がモザイク状に組み合わさっていました。

「融合前の個体の特質を混在させている。あれはキメラゴリアテと呼ぶべきだ」

 佐々木の言葉を地上の兄弟を通じて聞くことが出来ました。


 キメラゴリアテは目を開きました。右目も再生されています。唸り声をあげ、ゆっくりと∞ステーションに迫ってきました。もう、猶予はできません。


『決戦の時だ、さあ、外に出るぞ』

 私は外縁リングを押し破りました。体をうねらせ外に出ます。私の身体は外縁リングそのもののような大きさでした。そう、私たちは遺伝子を取り込み、私たち自身も体を融合させることで巨大化を成し遂げたのです。

 私は天に向かって体を上げ、長い叫び声を上げました。その叫びに応えて空の色が変わりました。四方から青紫色に変わっていき全天が青紫になります。それは空を覆い尽くす無数の蝶、イオン揚羽の群れでした。イオン揚羽は全世界の∞ステーションから電気を運んできたのです。


 私はキメラゴリアテに跳びかかり喉首に牙を突き立てました。牙から雷撃の稲妻が飛びます。これは私自身が帯電している分でした。

 キメラゴリアテは爪で切りつけてきましたが、私の牙は喉首を離さなかった。更に、上空から支援が舞い降ります。イオン揚羽が次々と急降下して私の胴節に六本の足で取り付き、一瞬の静止の後、飛び立ち、離れていくのです。これで電気が補充、昇圧されるのです。

 雷撃は続き、キメラゴリアテの体は真っ赤に変色していきました。さらに白色に変化し、内側から発光して……、


 ズゴォォォオオン

 キメラゴリアテは爆発し、全てを吹き飛ばしました。


 気が付いた時、私の身体は半分ほどがちぎれ、失われていました。でも、私の再生能力からすれば、大きな問題はありません。また、自由に動くことが出来ました。

 そんなことよりあなたの安否が重要です。辺りを探して回り、茂みに倒れこんでいるあなたを見つけました。意識はなく、内部の骨格を損傷しているようですが、心臓は規則正しく動いていました。今すぐ命の危険はないようですが、骨格損傷は重大な事態を引き起こすかもしれませんでした。

あなたを安全な場所に移し、他の人間たちを探し見つけ出しました。全員、意識はありませんでしたが、重大な損傷はないようでした。


 私はあなたの許に戻りました。人間の救助隊が来るものかどうかわからず、私が損傷の手当をしなければならないようでした。どうすればよいのか、そして、この旅の中で私にはあなたと言葉を交わしたいという思いが大きくなっていました。

 私は自分を改造することにしました。宮内という女性の所に行き、少しだけ遺伝子をいただきました。

 その遺伝子を取り込み、頭節の上に小さな節を再生します。それは人間の頭部と胸部そして両腕を模したものでした。胸郭と喉そして声帯があるので、声を出し、話をすることができます。


 両手を使ってあなたの骨格を正しい位置関係に矯正し、私の遺伝子を注入して骨格の表面に疑似外骨格のプレートを発現させました。これで骨格が維持、強化されるはずです。また、やはり私の遺伝子により、皮膚、筋肉の再生機能を強化しました。これであなたは無事に回復するはずです。


 そして私は胸郭と喉を使った発声の練習を始めました。

「ごしゅしゅ、ごしゅしゅしゅ、ご主人様」

 少しずつ発音の種類と組み合わせを増やして語れる言葉を増やしていきました。そして、なんとか一通りの発音が出るようになった刹那、私は異変に気付きました。


 海上に新たな敵が出現していたのです。そいつは私に呼びかけてきました。

『ここに来い。戦い、そして決着を着けるのだ。どちらがこの世界の王であるかを』

 戦いは避けられないようです。でも、心配しないでください。私は必ず帰ってきます。また、あなたと一緒に暮らすために。


 瞼が動きました。あなたはお目覚めになるのですね。今、万感の思いを込めて声をかけさせていただきます。


「お目覚めですか、ご主人様。あなたとお話しできて、私はとても幸せです」



                了



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ザワワ変容する oxygendes @oxygendes

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