92 悪役令嬢のエリーレイドは起死回生の策を思いつく

 各地で勃発している瘴気問題から、先が見えない不安が渦巻いている中で、エリーレイドは対応に追われていた。


 前世の知識チートで培った功績とユウヴィーがもたらした諸外国との築いた関係の発展などから、交渉、調整、情報整理、といった仕事と戦っていた。


 そんな中で確定してるルートに不安を感じてもいた。ここで瘴気に関わる対応をしくじった場合は殉愛するのは自分であるという事もあり、必死だった。


 その必死な中で彼女の一番の悩みどころは攻略対象者たちだった。


「ユウヴィーはいったいあの攻略対象者とどうやってうまく付き合っていたの……」


 どの攻略対象者も癖が強く、各国との連携と協力させるのが想像以上に苦労していたのだった。

 エリーレイドは公爵令嬢として、前世は営業として、培ってきた対人スキルがあってもすんなりと行くことがほとんど無かったのだった。

 

「口を開けば、ユウヴィーがいかに素晴らしいか話ばかりで決めなきゃいけない事の話をするのにだいぶ時間をとられるし……」

 

 攻略対象者たちにユウヴィーのことをどう思っているのか、聞かれなくても教えてくれたのだった。惚気なのか、と思う程聞かされたこともあり、状況を巻き返せるかもしれないとエリーレイドは思うのだった。


 なぜなら、ユウヴィーと攻略対象者たちはその時に付き合ってるわけではないが恋人関係みたいに良好だった。また告白の前後も関係が変わらず、良好であった。


「何よりも攻略対象者たちの婚約者たちは終わったらお茶会をとせっついてくるし……意味が分からないわ」


 エリーレイドは独り言を愚痴りながら、目の前の書類を片付けて行っていた。


「好感度限界突破してるヒロインは最強ね」


 エリーレイドは一段落し、取り纏めた書類を使い魔のマーベラスへ渡すのだった。段取りが書かれた指示書の束は、使い魔のマーベラスが一度に持てる量ではなかった。


「マーベちゃん、これ渡してきて。私はその間少し休むわ」


「我が主、かしこまりました」


 使い魔のマーベラスは大量にある書類の束を小分けにして影にしまい、部屋から退出していった。



 卒業式に向けて、殉愛エンディングの確定を逃れるために今までのフラグを折ってきたユウヴィー。エリーレイドの誤算はアライン王太子はエリーレイドの事に惚れていたことだった。


「ハーレムエンドルートにアライン王太子が加わらないとそのルートにならないし……ああん、もう!」


 ハーレムエンドの条件がすでに破綻し、このままではおひとり様エンドになってしまうのだった。


 ユウヴィーというヒロインが誰とも恋愛せず、独り身のまま世界を旅し、悪役令嬢枠であるエリーレイドがアライン王太子とくっつき、なんやかんやあって殉愛する。


 異国の地から自国の方角から淡い光が世界を包み込み、瘴気が世界から消滅する。その光をバックにヒロインが新たな旅に出るというものだった。


 だが、今まで攻略対象が抱えていた問題を解決していくことによって、物語が変わっていった。

 

「媚薬、いや魅了魔法とか、文献を探してやってみるのも手か?」


 ふと、前世の記憶からハーレムエンド後の没頭連動型VR拡張パックのことを思い出す。

 

 エリーレイドは次第に赤面してしまった。

 

「いや、さささすがに変わりめくるような状態は――」


「我が主、ただいま戻りました」


 ビクッと身体が反応するエリーレイド。戻ってきた使い魔のマーベラスの存在から、脳裏に蘇っていた情事をすぐさま記憶の片隅にしまい込んだ。


「我が主?」


「ちょっと驚かせないでくれない?」


「我が主、申し訳ございません」


「ふんっ」


 理不尽な言いがかりに等しいがいつものエリーレイドであるため、使い魔のマーベラスは気に留めなかった。


「マーベちゃん、ヒロインの特殊エンディングを言って」


 エリーレイドは昔書いた内容が覚えてるとおりなら、まだチャンスはあると思ったのだった。

 使い魔のマーベラスは影から攻略本を取り出し、主であるエリーレイドがいつもの元気さがあることに安堵したのだった。


「我が主、この攻略本によれば、おひとり様エンドと呼ばれるものがあり誰とも結ばれず、生き遅れと蔑まれる中で幸せを探し続け、消息を絶ってしまいます。なお、悪役令嬢は王太子と結婚し、のちに殉愛します」


「次っ!!」


 エリーレイドは聞きたくないとばかりに促した。

 

「我が主、この攻略本によれば、ヒロイントゥルーエンドと呼ばれるものがあり、隣国に攻められ愛を貫いて結ばれた者と死亡します。結ばれる相手は我が国のアライン王太子です。悪役令嬢は、その出来事を境に、心を入れ替え粉骨砕身で公務を行い、生涯独身のまま終える」

 

 トゥルーエンドルートは絶対にあり得ないとエリーレイドは確信していた。

 

――「私が好きだった相手が別の人を好き、それで幸せになってほしい。私は邪魔をしたくない、そういう好きなんです」


 エリーレイドはユウヴィーが言っていたのを聞いていた。

 

 今までこんないい子に対し、自分は……という葛藤が出てくるものの、自分の死が確定している事に覚悟を改める事になる。おひとり様エンドが濃厚だろうが、今までの彼女の功績から瘴気対策やら各地で引っ張りだこになるだろうし、行方をくらますことはできないだろうと思っていた。

 

「こんな世界じゃなかったら、ちくしょう」

 

(そういえば、何か忘れているような……)


 エリーレイドの兄とのフラグが順調に立ってきているのと二人の親密具合も発展しているのを瘴気対策で抜けておちていたのだった。


 兄であるレイバレットがユウヴィーと共に行動していることは知らないのも彼が気に留めないようにエリーレイドへ定期的に連絡していたのだった。


「我が主……」


「こうなったら、アライン王太子が入っていないハーレムエンドにこじつけられるか、私の手腕次第ね。いざとなったら政略多重婚の実例を作ればいいわ。やれる! 私ならやれるわ! おーっほっほっほっほ!!」


 エリーレイドは攻略対象者たちが未だユウヴィーのことが好きであることを知り、もしかしてまだチャンスはあるのではないかと考えるのだった。


 使い魔のマーベラスはただただ、主のエリーレイドが殉愛しないことを願うばかりだった。

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