91 瘴気の変容

 瘴気汚染されたカラスの一件から数日後、各地の瘴気の浄化をユウヴィーは巡礼し、へとへとになっているところに瘴気に汚染された鳥が飛んでいたという報告が入る。


 まだ瘴気汚染されている鳥類が存在することを知り、ユウヴィーは騎士たちと共に向かうのだった。


 目撃情報からカラスの生き残りかと思ったが、報告の内容は夜に飛んでるのを見たのだとというものだった。


「ユウヴィー、ここ連日になるが対応を頼む」


 外交責任者であるレイバレットは今回の瘴気対策を各国と連日対応をしているのか目の下に色濃く疲れがにじみ出ていた。


「はい、私も出来得る限りがんばります」

 

 二人は割と限界に近い状態だった。


 報告があった場所に向かうと二人は、周りに疲れを見せないように振る舞っていた。瘴気に対して不安や恐怖がつきまとっている人たちが増えているのが理由だった。


 夜になると空を飛んでおり、それが鳥だと思っていたのが蝙蝠だということが判明したのだった。鳥と蝙蝠の違いは普通の人にはわからず、同じ空を飛んでいるものという認識だった。


 ユウヴィーは何か違和感を感じ、報告してきた住民に討伐し浄化した蝙蝠を見せると初めて見る鳥だと答えたのだった。


「レイバレット様、もしかしたらこの瘴気汚染された蝙蝠はどこかから流れてきた可能性があります」


「ああ、私もそう考えていたところだ」


 もしかしたらと感じ、調べていくと蝙蝠の特徴が以前エリーレイドと共に潜ったダンジョンで見かけた蝙蝠と一致していたのだった。


 急ぎ、学園の研究区画の研究員やサンウォーカー国の調査隊に情報を連携し、今回の瘴気について調べてもらう事にした。手元にある蝙蝠は浄化してしまった為、瘴気の情報を調べることができなかった。


 だが、今回の瘴気汚染の騒動は蝙蝠がカラスに接触して出来た新たな瘴気の変異ではないかという仮説が出たのだった。


 確証を得られなかったが、ユウヴィーはレイバレットにダンジョンで何があったのかを話した。


 数日後、蝙蝠がそのあとどうなったか調査し民家などでの被害はなく実害として報告も上がってきてない事から、解決した。という状態だと知ることになった。


「つまり、ユウヴィーはその蝙蝠の調査をした方が良いという事か?」


「時間は経っていますが、瘴気そのものが進化し、変容している可能性があると見ています」


 改めて調査が必要だと思うと進言し、以前行ったダンジョンとカラスの巣があった場所から離れてはいるものの、山などがなく、飛行可能な距離だとユウヴィーは考えていた。


 ユウヴィーから言われ、レイバレットは即座に調査隊と騎士団を編成し、調査へ向かうようにしたのだった。

 

 ユウヴィーは今度こそ元凶を発見できるのではないか、と思うのだった。


――数週間経ち、調査隊から調査報告ではなく、救難連絡が届くのだった。


 以前、浄化したダンジョンは高濃度の瘴気によって汚染されており、中には二足歩行する蝙蝠のバケモノと交戦中とのことだった。


「ユウヴィー、すまないが一緒に行ってくれるか?」


「もちろんです、おそらくそれが原因でしょう」


 ユウヴィーは救難連絡にあった蝙蝠のバケモノというのが気にかかったが全力浄化すれば倒せると考えていた。


+


 ダンジョン近くに到着すると瘴気汚染が進んでいて、ひどい有様だった。大地は黒く変色し、異臭が漂っていた。調査隊や騎士などがいる駐屯地もその瘴気汚染から移動し、避けるように遠ざかった位置にいた。


「ユウヴィー、頼む」


「わかりました」


 ユウヴィーは両手をかざし、変色した黒い大地ごと浄化し、元の茶色の土へと戻していった。浄化を行いながら、ダンジョンの入り口まで進むと、真っ暗な闇のように瘴気が色濃く渦巻いていた。


「これじゃダンジョンの中が闇で何も見えないですね」


 浄化をしようとユウヴィーはダンジョンの入り口に浄化範囲を広げた瞬間、中から瘴気と共に醜悪な顔をした二足歩行の蝙蝠のバケモノが出てきたのだった。


「危ないユウヴィー!!」


 レイバレットは帯刀していた太刀を抜き、蝙蝠のバケモノの突進を受け止めたのだった。だが、蝙蝠のバケモノが纏う瘴気がレイバレットの外装に付着したのだった。


「くっ」


 レイバレットが苦悶の声を上げるも、蝙蝠のバケモノを押し返したのだった。

 蝙蝠のバケモノはユウヴィーの浄化範囲から逃げるようにダンジョン内へと逃げていった。


「はぁ……はぁ、大丈夫か? ユウヴィー」


「レイバレット様、今すぐ浄化します!」


 外装に付着した瘴気から異臭を吸ったレイバレットは目が充血し、呼吸もままならない状態に陥っていたのだった。

 だが、ユウヴィーの浄化によってすぐさま瘴気は取り除かれたのだった。


「す、すごいな……あんな状態になったら命は諦めるのが普通なのだが……ありがとう」


 瘴気汚染したカラスの巣がかわいく見えるような瘴気の濃度だったことをユウヴィーはレイバレットの状態でわかるのだった。

 

「ユウヴィー、このダンジョンは……」


「ええ、封鎖した後に浄化を入り口から押し込めるようにします。あの蝙蝠のバケモノがさっきのように出てこないようにします」


 ユウヴィーは自身が何に怒っているのかわからなかった。

 いきなり襲われた事に対処できなかった事でレイバレットに危険が及んだ事に対してなのだろうと思ったが何か違うような気がしていた。


 彼女は洞窟の出入り口に光の魔法で蓋をし、ダンジョンを密封したのだった。すると即座に壁を叩くような音がしたのだった。


 ユウヴィーは気にせず、浄化すると真っ黒で見えないダンジョン内部が光に満ち、高光度の光によって真っ白い空間が広がっていったのだった。


 浄化が進んでいくと、中には血を吸われたのか、干からびた死体が無造作に置かれていた。

 順調にダンジョンを浄化していくと蝙蝠のバケモノが浄化され倒れているのを発見するのだった。


 一匹や二匹だけではなく、何十匹と存在していたのだった。


 中には村人が着ている服を身に着けている蝙蝠のバケモノがおり、ユウヴィーはその姿を見て元は人間だったことを想像したのだった。


「ユウヴィー、すまない」


「レイバレット様、ダンジョン内を浄化を終えましたら……」


 弔ってやってください。とユウヴィーは言おうと思ったが言葉がつまり言えなかった。


 数時間かけ、ダンジョンは浄化に成功した。


 近隣の村から何も報告がなかったのも、村の住人全てが食われた後だったのか、それとも変異した後だったことを知る。


 まだ、この汚染蝙蝠の問題は先が長く続きそうだとユウヴィーは感じていた。


 今までと違って、瘴気そのものに邪悪さを感じられたからだった。

 

 感染力が高い、だけではなく、瘴気そのものに意思があるような感じがあったのだった。

 

(瘴気に立ち向かえるようにならないと世界は変わらないの?)


 動かぬ蝙蝠のバケモノの死体を見て、ぶるりと身体を震わせたのだった。


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