72 花より情報を
三年生の終わり頃は授業、図書館、研究区画と知らない人が見ると味気ない日々を過ごすユウヴィーだった。わかる者からは各国の救世主であり、自身が出来る事をストイックにおこなう者として、一目置かれていた。
たとえ、身だしなみがたまにおかしく、公爵令嬢のエリーレイドに叱られていても、その姿は一目置かれていた。
そんな日々の合間に図書館で休憩している時だった。
エリーレイドの兄と出会う。
「奇遇だね」
「影魔法で探した、の間違いじゃないでしょうか?」
ユウヴィーは何か影魔法の気配を感じ取っていたのだった。
エリーレイドならもっとうまくやり、探知できないから、わかりやすかったのだが口には出さない。
「バレていたか」
そっとレイバレットから花をプレゼントされ、ユウヴィーはそれをうやうやしく受け取り、頭を下げる。
「エリーレイドから話を色々聞いてくれてな、感謝する。これからも頼む」
この前の聖教公国の件の事を思い出す。
だが、妹を頼む、的なことを言われるも――
(嫌がらせを受けたりしてるんだけど、それを言う?)
眉をひそめてしまい、その様子にフッと笑うレイバレットはわかった顔をしていた。
「知ってるさ、でも君はそれを楽しんでるだろう?」
開いた窓から風が舞い、渡された花の香りがユウヴィーの鼻孔をくすぐった。
「本気でやめてほしかったら言ってくれ」
「その時はお願いを聞いてくれるの?」
「もちろんだ」
「そ、じゃあ、その時はお願いするわ」
ユウヴィーは礼をいい、頭を下げる。
すると、前と同じように頭を撫でられる。
「すまない、つい癖でな」
ユウヴィーはため息をつき、しょうがないなと思うのだった。
「そういうのはエリーレイド様だけにしてあげてください」
「今後気をつける」
「ところで歴代の光の魔法を使う人たちについて、何かご存知でしょうか?」
ユウヴィーは歴代の光の魔法使いについて、レイバレットに聞くことにした。この図書館にあった伝説、出生、偉業、ほとんどが聖教公国が発行しているもので、諸外国の光の魔法を使う人についてのものはなかったからだった。
「この図書館に置いてなかったのか?」
「諸外国での光の魔法を使える人について記載されている書物がなくて、もしご存知ならと……」
「他の諸外国でも光の魔法使いが生まれ出てくるが、ここの蔵書にはなかったのか」
レイバレットは何か思案し、頷いた。
「わかった、手配しよう。なに、借りがある諸外国に打診しよう。それに光の魔法についての情報なら私自身が持っているのもある。整合性を確かめるのにちょうどいい」
やさしげな笑みを浮かべているものの、考えている事はやさしいやり取りじゃないことはわかったのだった。
「ありがとうございます、ところでエリーレイド様は……?」
「公務中だ」
にやりと笑って、レイバレットは去っていくのだった。
どこか一緒に居て落ち着く、と思いながら近所にいるお兄さんみたいな、不思議な感じだった。
以前感じていた、モヤモヤ感はなくなっていた。
(なんでだろう?)
考えても出てくるのはエリーレイドのいかにお兄様がすばらしいのか、という話だけだった。
(きっと、エリーレイドのおかげね)
+
数日後、レイバレットから資料が届けられユウヴィーは自室でその内容を呼んでいた。
外装は丁寧だが、影魔法により包まれ、ユウヴィーの光の魔法でしか解除できない仕様になっていた。
(そこまで厳重にすることなのかな?)
光りの魔法で影魔法を無効化し、資料を見ていくと諸外国の機密情報の丸写しのようなものだった。
読み進める内に、光の魔法を扱う者の数々の人生が書かれていた。実験、隔離、優遇、国家転覆、駆け落ち、など国の方針やその時代によって大分異なっていた。
ただ、どれも共通するのは、最後は国に伝わる伝説の犠牲の魔法を使い、大なり小なりの浄化をおこなっているという記載だった。
(さすがに愛に殉じて、という言葉がないのは報告書だからよね……)
唸りながらテーブルの上にあるレイバレットから渡された花を見る。
「ユウヴィーってば、最近部屋にいるときにその花をよく見てる」
同室のハープから声をかけられビクッとする。
「え、そ、そう?」
「見てる見てる。ユウヴィー、恋もいいけれど、もう四年生になるけど……結婚相手を一時の恋で間違わないようにね。その花を送ってくれた人は気にかけてくれるとは思うけれど、好きとかじゃないと思うわ」
「え、どうして?」
ユウヴィーは、そういえばハープは攻略対象者との関係がどのくらい進展しているのか教えてくれる立ち位置だったような事を思い出す。
「その花の花言葉は、希望だもの」
「希望……」
花にそっと触れ、レイバレットはどういう意図でこの花を送ってきたのか、考えても答えが出なかったのだった。
頭を振り、送られてきた資料を読み直すことにし、ハープに礼を言うと広げた資料に意識を戻すのだった。
まだ何か見落としがあるかもしれないと信じて――
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