71 本音かまして、ぶちかましトーク

 ユウヴィーとエリーレイドが前世で似たようなパンデミックを知っていた為、解決できた。ユウヴィーは、魔法の力によって解決し、エリーレイドは金と根回しによる解決だった。

 

 二人の迅速な対処により、聖教公国は一層サンウォーカー国に対して頭が上がらなくなったのだった。

 

 そんな事を知らずにへとへとになって学園に戻ってきたユウヴィーはエリーレイドから今回の件についてサロンの個室に呼ばれたのだった。

 

 瘴気汚染の漏れがないように広範囲で浄化をし、聖教公国の騎士たちや聖水などをふんだんに使ったのだった。そのことでとやかく言われるのかもしれないと考えていた。

 

(聖水風呂や聖水垂れ流し風呂とか聖水シャワーとか聖水噴水広場とか聖水無料化とか……)


 光の聖女という肩書が強くなっているのをいい事に浄化した先々で聖水を日常に取り入れましょうと気軽に言っていたのだった。学園に戻る際に、聖水がどのような工程で作られ、販売されているのか考え、越権行為だったかもしれないと思い始めるのだった。

 

(ど、どやされる……ううっ)


 深呼吸をし、表情を貴族的な微笑に切り替え、サロンの個室をノックするとエリーレイドから入りなさいと言われる。

 

 中に入ると優雅にお茶を飲みながら待っていた。

 

「失礼します」


 座るように、と促されるとエリーレイドはギンッと目で殺そうとしてきていた。

 

「え、エリーレイドさまぁ?」


 ユウヴィーはその強い視線から、小さい頃に猟をしていて狩ろうと思っていた魔物から向けられた殺気に似たものを感じ取った。

 それでもすぐさま席を立たずにいたのは、貴族教育の賜物だった。

 

「お兄様について、色目を使うのは……絶対にやめろ、いいな?」


 鬼の形相で青筋を浮かべながら放つ言葉はドスが効いていた。

 

 ユウヴィーは一瞬だけ目を瞑った。


(聖水の件じゃなかった。よかったーー)


 一呼吸し、目を開き、ユウヴィーは答えた。


「年上は好みじゃないから、その気はないです」


「あぁん!?」


 更にキレるエリーレイドだった。

 

「エリーレイド様、レイバレット様が攻略対象者なら、私はくっついたりしませんわ。殉愛したくないので」

 

「え、何それ? ちょっと待って、え、待って、私 の お 兄 様 が 攻 略 対 象 外 ってことかしら? え? は? 意味わからないんですけれど」


「あの年上は好みじゃないので、そのそういうわけじゃないので安心してください」


 そこからエリーレイドによるお兄様はどう素晴らしいのか、なぜユウヴィーに近付けないようにしてきたのか、早口かつ、ほとんど聞き取れない、覚えられない熱量で語ったのだった。


(これどう答えても、怒るんじゃ)


 ユウヴィーは関わりたくて関わったわけでもないのにと思いつつ、適度な相槌をし、落ち着くまで待ったのだった。相手が爵位が上、自分は下、耐えるしかなかった。

 もとより攻略対象者の一人とくっつかないようにしてくれることはユウヴィーにとっては生存率が高まるので嬉しい事だった。

 

(瘴気の問題を解決しつつ卒業すれば、生き延びられる……はず)


「ちょっと聞いてますの?」


「はい、もちろんです。エリーレイド様」


「ふん、ならいいわ。あ、聖教公国の瘴気の件、ご苦労だったわね。原作とはちょっと違う展開だったけれど、多分もう大丈夫のはずよ」


 ユウヴィーは気になっていた瘴気について、エリーレイドに聞くことにした。

 

「エリーレイド様、瘴気の正体ってウイルスなのでしょうか?」


「ん~、前世の話をするなら、普通に話しましょうか……」


(さっきのお兄様の話は前世の話みたいなものじゃないんかぁぁぁぁい!)


 とツッコミを入れられるわけもなく、心の中で叫ぶのだった。


「最初は私もそう思ったのだけど、瘴気そのものが大なり小なり見える事、また太陽の下だと活動が鈍い、瘴気が動物を汚染するとやけに凶暴化する。瘴気によって魔物として凶暴化する、しないがあるけれど、ウイルスだとしたら解決策はあるの?」


「え、え~っと」


「手洗い、うがい、日々の清潔感? 前世でもインフルエンザにかかったりしたのに、瘴気がウイルスだとしたらやっぱり光の魔法による殉愛パワーで世界からウイルス除去くらいじゃないかしら」


「いやいやいやいやいや」


「え、だってウイルスによっては進化や免疫力向上させたりするって授業で習ったわよ。でもそのウイルスの良い悪いを自動的にどうにかしちゃうのが……」


 ビシッとユウヴィーは指を指されたのだった。

 

「光の魔法」


「えぇ、うそん……」


 エリーレイドから言われユウヴィーは自身が使う光の魔法の有能さにそうかもしれないと思うのだった。

 

「まあ、何にせよ。そういうことだから、さっさと殉愛して、世界を平和にする。それが一番いいわ」


 頭を両手で抱え、なんとか別の方法はないのか、いやあるはずだと思うのだった。

 

「それでは、私はこのあたりで失礼しますわ、ごきげんよう」


「あ――」


 エリーレイドは言いたいことを言ったのか軽やかに去っていった。


 前世の記憶を鮮明に思い出せないユウヴィーは殉愛コース以外のハッピーエンドがあるのか、ないのか、どうなるのか、先行き不安だった。

 

「よし、とりあえず図書館に行って、歴代の光の魔法使いを調べてから考えよ! 私、負けない! めげない! しょげない!」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る