四年目 き恋(れん)なよ、き愛(め)ていこうぜ

73 まだまだだね。

 ユウヴィーは使い魔のスナギモとルマンティオーク学園の大正門がある並木道を歩きながら考え事をしていた。

 

 過去の光の魔法使いたちから新しい事は見つからず、共通するのはどれも犠牲になって一定の期間と範囲が平和になるという事だけだった。

 

 それは大きな発見であるものの、ユウヴィーの寿命を全うするという目的とは一致しなかった。

 

 学園生活4年目となり、ついこないだまで新入生だった頃を思い出す。

 前世の記憶をちょろっとだけ思い出した事で攻略対象者という死亡フラグ、誰が攻略対象者かわからない不安からおちおち恋愛とか結婚できないこと、物思いにふけった。

 

 次第に、貧乏だったけれど、毎日狩りをして食料調達していた学園に入る前の事を思い出し、帰りたいとさえ思うようになったのだった。

 

(ダメだ。前向きに瘴気に対処しないと国から追われて、家族もヤバイ。私ががんばらないと!)


 時間には余裕があり、いつものように登校していた。今では下級生から羨望の目で見られているものの、当人はそれを殉愛フラグ値として受け取っていた。

 

 素直に喜べないのだった。なぜならハッピーエンドは、すなわち死であるから。


「おい、あんたが光の魔法を使う聖女?」


 並木道の端で気に寄りかかりながら不敵な表情を浮かべ、声をかけてくる下級生がいた。それが下級生だとひとめでわかったのは、その身長だった。


 また、ユウヴィーはそれが攻略対象者だと感じたのだった。

 若き天才であり、シーンドライヴ帝国の王子であった。なぜ、ユウヴィーは感じることができたのか……それは原作で諸外国と不和の際に必ずこの国が軍事介入してくる軍事国家だったからだ。

 大抵、瘴気汚染の悪化を招き、直接的、間接的、なんだろうと瘴気汚染の拡大の一助を担ってるからだった。その記憶がユウヴィーの前世の記憶で印象深かったからだ。


「いえ、違います」


「ふーん、そうかすまなかった」


 即座に否定し、その場から怪しまれないように立ち去る。ユウヴィーは光の魔法を使えるが、自身を聖女だとは一度足りとも思っていなかった。

 

(どうやって今年を乗り切るか……あと攻略対象者は何人いるんだ……?)


 今まで出会ってきた攻略対象者を思い浮かべ、ゲームのパッケージ絵を思い出そうとするが思い出せず、やきもきしたのだった。もうすでに若き天才王子のことは頭から消えていた。

 

(ダメだ、思い出せない。現実的なのは変わらず瘴気に対しての様々な解決手段を見つけて、光の魔法があまり必要とされない事よね)


 憂鬱な気持ちを振り払うかのように自分に言い聞かせていた。


+


 授業が終わり、いつものように図書館で調べものをし、瘴気の種類、傾向、地域差、強さ、などをまとめ不足部分を調べなおしたりしていた。対処方法の仮説をまとめた資料もあり、この三年間で割とやれることはやってきたと自負するものだった。

 

「おい、あんた……オレをだましたな」


 後ろから声をかけられ振り返ると朝見た下級生がそこに居た。


 すたすたと距離を詰め、テーブルの上にあるユウヴィーがまとめた資料を勝手に手に取り読み始めた。

 

「ふーん、やるじゃん」


 パラパラとめくりながら、食い入るように読んでいた。

 ユウヴィーは相手にしても仕方ないと思い、声をかけずに自分の調べたい事を調べる事にしたのだった。


(関わってしまったのは仕方ないけど、関わりたくないなぁ……)


 互いにまともな自己紹介もせず、黙々と調べものをするユウヴィーとそのユウヴィーがまとめた資料を読む若き天才王子だった。


「おい、光の魔法で何が出来るんだ?」


 あたりが暗くなった頃に、若き天才王子から声を掛けられた。


「闇を照らす光から瘴気を浄化させるまでできますよ」


「ふーん、帝国の技術力では魔法具で再現している。どれも再現してるから、お前は不用なんじゃないか」


 頭ごなしに言われ、ユウヴィーは感情的にならなかった。

(いやぁ、本当にそうだったら本当に、本当に、本当にいいんだけどな~)

 ため息をつきそうになるが、貴族教育のおかげで表情を変えずに話の続きを待った。


「オレの国では瘴気浄化システムがあり、改善していけばいずれ光の魔法がなくても世界は平和になる。いやオレがして見せる」

 

「ぜひ、お願いしますわ」

 ユウヴィーは期待せずに、にっこりと笑みを浮かべ返事をした。

 

「ふーん、余裕じゃん。オレをシーンドライヴ帝国の王子……リレヴィオン・ヴァン・シーンドライヴだと知っての事だな?」

 

 ユウヴィーは立ち上がり、頭を下げる。


「はい、存じ上げております。浄化システムにつきましては、ご期待しておりますのでよろしくお願いします」


「ふーん、余裕じゃん。聖女って言ってもまだまだだね」


 リレヴィオンはユウヴィーに言い放つと図書館から去っていった。


(関わってしまったのならしょうがない、全力で応援し浄化システムを完成させれば、瘴気対策も万全に……なるはず)


 今まで以上に自分は冴えていると思うユウヴィーだった。



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