55 聖剣使いと邪龍について

 いつものように勉学に励んでいた時に、エリーレイドが神妙な顔つきでやってきた。いや、いつも外向きの顔は神妙だった事をユウヴィーは思い出す。

 今まで事あるごとにちょっかいやら、やじってきたりとしてきたが、今回は雰囲気が違っていた。

 周りから見ればそれは公爵家令嬢として、教育している姿だったのだが、ユウヴィーには自覚がなかった。

 

「ご存じない、と思い内密に話したいことがあるので来ました」


 たとえ、瘴気について勉強をしていようが爵位が上からの言葉は絶対である。すぐさまユウヴィーは広げていた本などを片付け、エリーレイドに連れられ、サロンの個室へ向かった。

 

 片付けの間も待っていたエリーレイドに少しばかりただ事じゃないと感じるのだった。


「邪龍の瘴気によって、とある国の一帯が封印結界され立ち入り禁止になる。というイベントを覚えていないであっているわよね?」

「邪龍の瘴気……」


 キッとした目つきでエリーレイドがユウヴィーを睨むと、思い出せていない事が伝わった事に申し訳なさを感じてしまった。

 

「ヒッ、ヒント! ヒントくださいっ!」


 思わず、ヒントをねだってしまったユウヴィーだった。

 盛大にため息をつきながらも、エリーレイドは説明してくれたのだった。その様子が今までこんな事あったっけというくらい懇切丁寧で、ユウヴィーは感動するのだった。

 

 話の内容は、聖龍が邪龍になり、とんでもない災いが広がるという話だった。

 予兆が現れ、もとよりエリーレイドは対応していたが、世界の強制力でどうにもならない。その事で今後の動きについて、要請があった際についての話だった。

 

 国とエリーレイドの実家として動いている。だがエリーレイドの知っている予想を上回る強さの瘴気によって先手を打ったつもりが後手になってると悔しそうに言うのだった。

 

「今代の聖剣使いはもう特定しています。彼と協力して邪龍の討伐をお願いします。後ほど、王命が通達されると思いますが、先んじて伝える事にしました」

「聖剣使い?」

「攻略対象者ですわ。次に出てくる人なので、真実の愛で殉愛すれば解決するので、いざとなったら愛の力でお願いします」


 サラッとエリーレイドが伝えてきた事にユウヴィーは困惑した。

 

「えぇ!?」

 

 伝えたくなかった、とエリーレイドの表情は語っていた。

 

「そ、それほどの事って、事で、とてもな事、って事ですか!?」

 動揺のあまりユウヴィーは混乱していた。

「私が知ってる原作とは違う状態です。ゲームでいうと難易度が数段階上がってるような状態です」


「え、なんで……」


「わかりません、わかっていたら頭を悩ませてしませんわ」

「まさか、世界の強制力的な?」

 

(前世の記憶があるとはいえ、この世界で私は生きている。よくわからない強制力に屈したくない)

 ユウヴィーは自分の力で解決できることはやってきた。もちろん生きるために、である。

 今後はどうやら命をかけなければ、多くの人が死ぬという事なのだろうと感じていた。いや、今までの攻略対象者のルートはどれも多くの人が死ぬようなフラグがあったのかもしれないと改めて思うのだった。

 ユウヴィーは思い出せないでいる記憶にため息をつきそうになっていた。


(もっと知っていたら……)


 エリーレイドは何か言いたげだが、その言葉はユウヴィーの思いつめた表情から察して何も言わなかった。


「連絡が来ると思いますので、覚悟だけはしておいてください」

 彼女はそう言い残し、去っていった。


 サロンに取り残されたユウヴィーは、無意識に使い魔のスナギモを撫で心を落ち着けようとしていた。

 あたりが暗くなるまでその場にいるのだった。思い出せない自分自身を無意識に責めていた。

(邪龍……光の魔法で倒すの? 聖剣使いと一緒に? 乙女ゲームよね?)


+


「勅命、聖剣士マックスと共に邪龍を浄化せよ――」


 次の日、学園長室に呼ばれアライン王太子、エリーレイドがいる中で伝令兵からの勅命をユウヴィーは頭を下げて聞いていた。

 勅命の伝達が全て終わり、ユウヴィーは了承したことを伝えると伝達兵は部屋から退出していった。

 

「ユウヴィー嬢、大変だと思うがよろしく頼む」

 アライン王太子が申し訳ない表情をしていた。

「後方からの支援は惜しみなく致します。ユウヴィー嬢、健闘を」

 エリーレイドの眼は、絶対になんとかしてこいという力が籠っていた。


 ユウヴィーは頭を再度下げ、かしこまりましたとつぶやくのだった。


(絶対に生き延びて、生き延びてやる。大丈夫、今まで狩りとかで経験値上げてきたもの、ヤれる! 光の魔法で焼き尽くせば、勝てる! 私は絶対勝てる!!)


 肉体言語と魔法の力で乙女ゲームの強制力が働いたイベントをクリアする思考になっていた。

 それはすでに乙女ゲームではなく、アクションRPGの主人公の思考であった。

 

(やってやるわ! 私ならいける! いける!)


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