12 簡単な事だけど、それは難しい事。

 ユウヴィーは研究区画に向かっていた。学園長から事前に了承を得て、特待生として実験をおこなうためだった。

(もしこれが成功したら、予防できるかもしれない)

 

――数日後

 

「あぁん!? バカ野郎、オレ様に断りもなく、瘴気汚染された初期症状の動物で実験しただと!」

 フォーラズの怒鳴り声と共に、ユウヴィーの心配する声が図書館に響いていた。悲痛な表情と共に、ユウヴィーの側に駆け寄って、両腕を強い力で掴まれた。

「い、いたっ」

「あぁん? まさか、ラヌエヤの症状か?」

「ち、ちがっ」

「チッ」

 フォーラズはユウヴィーの両腕を掴んでいた事が原因だと気づき、舌打ちしながら離して、目をそらした。

(殴るぞ?)

 ユウヴィーはいきなり腕を強めに掴まされ、痛さがまだ取れないのでさすりながら思ったのだった。謝罪がなかった事に苛立ちがあったのだった。連日実験と検証で寝不足なのもあり、少し気が立っていたのだ。

 

「ちょっと、落ち着いて聞いてくれる。この前に話した予防についてよ」

「あぁん? それはどうしたんだ? うまく行ったのか?」

 

 ユウヴィーは彼に、予防について話をした。

「加熱、手洗い。この二つは火魔法と水魔法を使えば、ラヌエヤに対して予防できるのではないかと実験してみたのよ。幸い、私は光の魔法を使えるので、もしラヌエヤにかかったとしても、自分自身浄化できるから問題ないわ」

 ユウヴィーは学園長に許可をもらい、フリーザンネック王国の食料となる動物を取り寄せてもらっていた。見た目から瘴気に汚染されていないが、瘴気感染されてそうな動物を選んでもらっていたのだ。

 

 研究区画なら、汚染されている瘴気に対しての研究がおこなえるため、講師や研究職員の監視下の元で実験していたのだった。それでも実験する際に、瘴気汚染し死亡しても責任は学園はとらないことを了承することとサインしなければならない。

 

「お前……」

 何度も名前ではなく、お前呼ばわりする事になれてきているユウヴィーであった。フォーラズが名前で呼べないのも照れによるものだが、自身がそのことに気づいていなかった。

 

「いいですか、検証の結果を報告します。このラヌエヤという症状の瘴気感染の原因は瘴気としての靄が極端に見えないため、瘴気そのものを摂取して体内で繁殖してしまうのが原因だと考えました。それで外の国や私の領地で同じような症状が出ないのはどんな環境の違いがあるのか、考えました」

 

 ユウヴィーはフォーラズにまとめた資料を見せながら、一つ一つ説明していった。

 

 加熱の有無、水を何に使用し、どんな時に使っているか、生活環境の当たり前が実際に違うのをフォーラズから聞いた内容から違いをわかりやすく表にまとめたものを見せたのだった。

 

 彼はそれを見て、顔をしかめ、唸った。

 

「ぐっ、薪や石炭がない我が国は受け入れるしかないのか」

 

(このオレ様王太子、さっき私が火の魔法と水の魔法があればどうにか予防できるって言ったでしょおおお)

 

「いいですか、薪と石炭についてはいったん置いておきましょう。ここで重要なのは、火の魔法と水の魔法です。この二つで代用すれば、防げるという事です」

 

 この世界はファンタジーであり、魔法がある世界なのだ。魔法が使えるものが生活を支えてもいいのだ。実際に魔法を使える大半は、瘴気汚染された魔物の討伐にかりだされていた。ユウヴィーの領地でもそうであり、瘴気から私生活を守る存在として、重宝されていた。

 

 それゆえに私生活を支えるような魔法というものはなかったのだった。

 

 ユウヴィーは火と水の魔法でどう予防できるのかフォーラズに説明した。二人の距離がお互いの肩が触れ合う距離になっており、フォーラズは頬をほんわりと赤く染めていた。ユウヴィーから香る石鹸と女性ならではの甘い香りが彼をドキドキさせていた。

 

「聞いてます?」

「あ、ああ、聞いてる」

 

 フォーラズはここまで自分の国の瘴気に対して親身になり、かつ自分が王太子という立場を気にせずに接してくれるのに心をうたれていた。ユウヴィーはそんなことを知る由もなく、説明を続け、致命的な行動をしている事に気づかずにいた。

 

 仲良くなる簡単な方法は一緒に過ごす時間を増やし、互いに尊重し合うという事だった。

 

 図書館で二人が過ごしている姿は、当たり前の噂となっていた。またなぜ二人が連日そこで熱い議論をしているのかも噂として流れていた。

 噂の内容は、ユウヴィーという特待生は、フリーザンネック王国の王太子に無礼を働いた事で反省し、隣国の事情を調べていく内に自身が出来る事がないかと切磋琢磨している。自ら実験を行い、瘴気を光の魔法以外で対策できるように考えている。など、流れていた。

 

 当の本人は、図書館に引きこもりがちな為、その噂を耳にすることはなかった。


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