13 悪役令嬢エリーレイドは確信した。勝った、と

 エリーレイドは、ユウヴィーがこの乙女ゲーをどこまで知っているのか、わからないが恐らくあまりわかっていないだろうと直感していた。

 

「オレ様王太子を手玉に取っているところを見ると私のルートは確定したものね。ただ、ユウヴィーが原作にあったセリフを言わないまま、オレ様王太子と親密な関係に発展しそうになってるのは気になるわね」

 

 幼少の頃にここが「ロマンティックフロントライン~愛を貫く真実の物語~」の乙女ゲーの世界だとわかり、思い出せる限り、書き綴り本にした。言わば、彼女だけの攻略本だ。幸いにも影魔法使いであるエリーレイドは、この黒豹とは思えない見る影もないまるまる太ったデブ猫と化しているマーベラスの影収納魔法で常に持たせていた。

 

 その攻略本を開き、使い魔のマーベラスが発言した。

 

「我が主、この攻略本によれば、隣国のフリーザンネック王国のフォーラズ王太子がヒロインの行動が今までこびへつらう異性と違い、魅了の魔眼にも抵抗し、真に話せる相手である事で心を射止める。互いに認め合い、惹かれ合い、嫁いでいく、と書かれています。そのきっかけは、面白れぇ女と言わしめる事」

 

 フッ、とエリーレイドは笑った。

 

「勝った。絶対に勝ったわ」

 

「今回のカギとなるのは、隣国の万年問題となっている、病魔ラヌエヤという瘴気。長年苦しんでいる中で、他国では問題になっていない事から、サンウォーカー国から瘴気が流れていると思いのちのち戦争になってしまう。ヒロインが彼とくっつく事で、病魔ラヌエヤに対して、愛の光の魔法によって根絶するという流れになる。ヒロインが嫁ぎ、現場を見聞きして、彼のため、彼の国のためと思い、使う。隣国の宝庫にあった、光の聖女本から光の犠牲魔法について知ってどうにかしてしまう、という流れですね」

 

 フッ、とエリーレイドは再度笑った。

 

「これは確定ね、盛大にお送りしてあげるわ」

 

「ですが、我が主……このルートですと――」

 マーベラスは言い淀んでいた。それもそのはず、ヒロインがハッピー殉愛エンドになった場合、悪役令嬢エリーレイドはザマァされるのだ。

 

「抜かりはないわ、このルートでは、私が犠牲になったヒロインの代わりに隣国に嫁いで公務に追われる日々を過ごし、ヒロインの生き様に生涯嫉妬し、その嫉妬に狂いながら仕事に生きるだけよ。幸い、ヒロインには嫉妬する要素もないし、公務なんてものは幼少の頃に兄さまと一緒にしてるし、今もしてるから何も問題ないわ」

 

 前世の記憶を取り戻した頃から、どの殉愛エンドになってもいいように根回しと仕込みをし、ザマァの状態回避をしてきたのだ。そんなエリーレイドに死角はなかった。

 

「なに? マーベちゃんは寒い所が苦手なの? 大丈夫よ、常に近くにいて上げるから温めてあげるわ」

 使い魔のマーベラスは、どうせ吸うためだろうと思っていた。

「我が主、ご配慮ありがとうございます」

 

「この乙女ゲームは、攻略対象者が順番に現れていくのよね。アライン殿下だけ最初のオープニングの並木道で出会うのだけど、彼のルートはもっと先なのよね。ユウヴィーの推しが彼だったら、大変だったわ」

 

「我が主、この攻略本によれば、攻略対象者と両想いになった場合はそのまま、そこに嫁ぎ学園からいなくなると書かれていますが、在学中に可能なのでしょうか?」

 

「今のサンウォーカー国や諸外国は瘴気の問題で割と緊張状態なのよね。兄さまの情報だから間違いないわ、その緊張状態を緩和するために、光の魔法を使える彼女を嫁がせて関係を強化すると選択すると思うわ。光の魔法を扱える者はこの国でしか生まれないもの、本人の意思で両想いになって嫁いでいくのだから、引き留めると逆に国としても危うくなるわ」

 

 エリーレイドはあくどい顔をしながら勝利を確信していた。

 

「他の攻略対象者がいる国とかにも瘴気問題はあるけれど、光の魔法の余波によって他の国の浄化され、瘴気問題は解決するのよ。まあ、伝説通りなら百年とちょっとくらいだけどね。その間は、瘴気が発生しにくく、比較的平和なのよ。そんな中で戦争を起こそうとする国は、いっきに袋叩きに合うでしょうしね」

 

 エリーレイドは生活環境も違うフリーザンネック王国の事を考え、事前に準備していた事が滞りなく運ぶように段取りを考えていた。それが捕らぬ狸の皮算用だと本人は気づいておらず、使い魔のマーベラスも腑に落ちないでいた。

 

「我が主、その瘴気問題なのですがあのお二人が何か対策されいますが大丈夫でしょうか?」

 

 影の魔法でユウヴィーを監視していたエリーレイドとマーベラスだった。マーベラスは攻略本に書かれている内容は、瘴気を解決するのは嫁いでから、であり、今対策しているのは何か違うのではないかと思っていたのだ。

 

「そのあたりは大丈夫よ、瘴気を根絶するわけでもないし、そもそも二人の距離感が近い。とても近い。これはもう嫁ぐまでカウントダウンは始まってる。監視してて、もう二人は付き合っちゃえよ、っていう感じだもの」

 

 エリーレイドは瘴気の正体は幼少の頃からわからずのままだった。しかしユウヴィーは光の魔法を使える事から瘴気を消滅させたりすることができ、仮説を立てる地盤が出来ていた。この違いから、エリーレイドは彼女の事を少しばかり見謝るのだった。

 


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