11 ラヌエヤの瘴気

 ユウヴィーはエリーレイドと会うたびに貴族とは、階級とは、国と国の関係性についてをクドクドと言われた。それもフリーザンネック王国のフォーラズ殿下がユウヴィーとの噂が原因だった。

 

 図書館通いをしているユウヴィーの元に、フォーラズが何度も会いに行っていたからだった。

 

 図書館での出会いはユウヴィーが攻略対象者のフォーラズの国、フリーザンネック王国の瘴気について調べていた所だった。ユウヴィーは、見つかると面倒だったので避けようとしたところ、持っていた本を落としてしまい、フォーラズがその音を聞き、ユウヴィーは見つかってしまうのだった。

 

 その本はフリーザンネック王国で悩まされている瘴気によるラヌエヤと呼ばれる症状について書かれている本だったのだ。

 

 ユウヴィーは、しまったと思ったのだった。無論、エリーレイドが影の魔法でわざと本を落とされたことなど、彼女は知る由もなく、さらにはその現場をがっつりと監視されている事も当人は気づいていなかった。

 

 それからというもの、図書館で二人はこのラヌエヤについて熱い議論を連日していたのだった。

 

「これでわかっただろう、オレ様が食べ物に対して細心の注意をしていることを」

 フォーラズがユウヴィーに食堂での出会いの時のことを言うのだった。

 

 フォーラズが食事に対して、すぐに手を付けられないのには理由があったのだ。主に食べ物に付着している瘴気が原因で、フリーザンネック王国内で流行っているものだった。瘴気感染初期症状は、下痢や腹痛で その後、激しい腹痛、血便、おう吐などの症状が発生する。 症状が出るまでの潜伏期間は2~14日のものだった。

 

 ラヌエヤ症状と呼ばれる瘴気に毒された初期の動物や作物から発症されるものだった。

 

 原因の解明は難しい事から、フォーラズは頭を悩ませていた。原因究明をするにも瘴気に汚染された動植物の初期症状がわかれば、うまく対応できると考えていたのだった。

 

「お前は、我が国で起きている事についてこれがどういうものか知っているのか?」

「……」

 ユウヴィーには答えられなかった。本にはフリーザンネック王国の私生活がどんなものか書かれていなかったからだ。

 

「現場を知らない無能か」

 

 ユウヴィーはフォーラズが冷ややかに放った言葉に苛立ちを抑えながら反論した。

「知らないからこそ、知り、前に進もうと今ここにいます。何に感情的になっているのか存じませんが、本に記載されていない事や差異があればお教えください」

 彼女は悔しかった。

(そうなのだ、現場を知らないから、打つ手が見えない)

 

 彼女が自分が今まで育ってきた領地は、自分の光の魔法によって浄化して食していた。瘴気汚染された動植物の初期症状は知らない。

 

「オレ様の魔眼なら、初期症状の動物なら瘴気汚染されてるかわかる。魅了されないからな、だが、すでに調理されてる状態じゃわからない。魔眼に頼らなくても、いい方法があるか探してるんだ」

 

 ユウヴィーがしおらしくならず、反論した事によりフォーラズはニヤリとして、話はじめた。彼女は魔眼や魅了がどういうものなのか、前世の記憶からなんとなくわかっていたので頷き、聞いていた。

 

「フリーザンネック王国の領土の大半は寒冷地だ。薪や石炭といった燃料も万年不足している。冬の間の飲み水の確保も民家によっては厳しいという報告と現場を目にしている。井戸も凍ってしまう土地もあるからな……」

 

 どうやら彼は現場に訪れて、ちゃんと視察をし、改善しようとしているというのを感じられた。悔し気に語り始めるフォーラズの話を聞きながら、ユウヴィーは前世の記憶を元に現場を想像するのだった。

(加熱させるための燃料問題が各家庭において問題で、さらに冬の間は水が凍ってしまう事から、井戸水の利用ができない。トイレ事情から手洗いしっかりとできていない事から……瘴気がウイルス的なものだと仮定すると、ラヌエヤが発症するのではないか?)

 

 彼女の頭の中で確信は持てないが、そうかもしれないと推測するのだった。彼女の領地は、木々がたくさんあるため、生で食べるという行為をしていない。しかし、フリーザンネック王国では燃料不足のため、生で食べる習慣があるのかもしれないと思ったのだった。

 

「瘴気そのものが体内に入ってしまうため、外から見てもわかりにくい。だから発見が遅れてしまうってこと?」

「あぁん? どうやって、だ。どうやってそれを見分けろっていうんだ? くそ、オレ様の魔眼じゃ、民を救えないっていうのか」

「もしかしたら、完全ではないけれど、予防に繋げられるかもしれない」

 

 ユウヴィーは提案する、それが実現できるのかわからないが、解決へ繋がる一歩かもしれないと思ったのだった。

 

「あぁん? 予防だと? なんだそれは?」

 

 瘴気の発生原因がまだ特定できていない中で、ユウヴィーが導き出した答えはこの世界において異質であり、未知の発想だった。

 

 だが、彼女のひたむきさに、自国でもないのに他国の事を真剣に考えている姿勢はフォーラズの胸に響いていた。彼女なら何か変えてくれるのかもしれないと期待をせざるを得なかった。それがフォーラズの最初はちょっと気になる特待生が、目を離せない存在として彼の心の中で大きく膨れ上がっていった。

 

(きっとこの症状は食中毒だわ)

 

 フォーラズの胸の内を知らないユウヴィーだった。

 


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