10 悪役令嬢とライバル令嬢
相手が隣国の王太子だという事に、エリーレイドから悪役令嬢特有のネチネチしたことを言われるユウヴィーだった。だが、フリーザンネック王国の王太子から、そのあたりでいいと言われ解散となる。
ユウヴィーとハープは食堂で夕食をその場で食べるのは気まずい為、持ち帰る事にした。手軽に食べれるサンドイッチ類を頼み、そそくさと食堂を去ることにした。
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自室にて、ユウヴィーは思い出せる限りのことを紙に書き綴っていこうとするが、攻略対象者が全員で多分五人くらいで、どれもグッドエンド目指すと一緒に仲良く心中すること、そしてそれをきっかけに世界が平和になるという事くらいしか思い出せなかった。
(た、多分五人だったような、大体こういう乙女ゲームって五人くらい、そう五人よね、五人!)
頭を抱え、行き当たりばったりでいけば、ゲームの強制力的な何かで死んでしまうのではないかと思ったのだった。
「それにしてもすごかったね!」
ハーブはユウヴィーに親指を立てながら顔をにんまりとしていた。
「いや、絶対これヤバいって」
「でも顔と名前を覚えられたし、もしかしたらチャンスがあるかもしれないよ」
ユウヴィーのヤバイ、という意味は恋愛フラグが立ってしまったという意味であり、ハープは不敬罪として処されるヤバイと思っていたのだったが、そんな事で不敬罪にならないと思っていた。思い違いである。
(絶対いやぁぁぁ!!!!)
「やったね!」
ハープから言われ、ユウヴィーはもそもそと夕食を一緒に食べ、この後に何が起きるのか必死に思い出そうにも思い出せず悶々としていたのだった。
数日後、可能な限り出くわさないように目立たないように過ごし、授業に集中した。特待生とはいえ、学業をおろそかにしていては、成績次第では国から何か言われる可能性がある。しかも、ただでさえ光の魔法の事で目立っているからだった。理由としては充分だとユウヴィーは自分に言い聞かせ、このままフェードアウトしようという魂胆だった。
しかし、そんな中――
学園の庭園に居た。ユウヴィーはフリーザンネック王国の公爵令嬢から呼び出されていた。そこにはフリーザンネック王国の上級貴族の令嬢たちがお茶会を開いていて、その中にポツンと一人いた。
(こんな所になぜ自分が?)
という疑問が湧き、先日の食堂の一件のことを思い出し、後悔をしていたのだった。隣国の王太子、つまりフリーザンネック王国の王太子に関わったからだ。
ひときわ、釣り目の気が強そうでこのお茶会を仕切っている人がユウヴィーに話しかけた。
「あなた、私が彼の婚約者と知っていての事かしら?」
(し、しし、しし、しまったぁぁぁーーッ!! ライバル役のツンが強い溺愛婚約者ァァァ!)
このロマンティックフロントライン~愛を貫く真実の物語~は、基本的に各攻略対象者にヒロインのライバル役が存在し、さらに自国の悪役令嬢がいるというものだった。場合によっては、悪役令嬢が二人になるというニ対一なのだ。
そのことを思い出し、ユウヴィーはどうやって謝罪すればと考えるものの、ツン相手にどうやって対応すればいいのか思いつかなかったのだった。
「なんとかおっしゃったら、いかがかしら? 光の聖女のユウヴィー・ディフォルトエマノンさん」
「その節につきましては、大変無礼な対応をしてしまい申し訳ございませんでした」
ユウヴィーは、頭を下げ謝罪した。
(ここはさっさと謝って、気がない事を伝えて、去らないといけない。じゃないと確か、アイツが来る……)
「あら、謝ってほしいわけじゃないのよ。ただ、物事には順序というのがございますの。彼の気を引こうとわざと避け、あまつさえ婚約者である私に断りもせずに、というのはどういう了見なのかしら?」
(会いたくないから全力で避けてました、と素直に言えたらどんなにいいものかぁぁぁ)
「あぁん? 婚約者だろうとオレ様を縛ろうなど、オレ様のことを何もわかっていないな?」
ユウヴィーの後ろから足音がし、現れたのはフォーラズ・ブラウソ・フリーザンネックだった。
「他国の爵位が低い奴をいびるとか、オレ様の国の品位を疑われちまうな。フッ……ユウヴィー、本当は、オレ様に構ってほしかったんだろ」
頭を下げ続けているユウヴィーの耳元で、フォーラズはそっと囁くのだった。
(違いますぅぅぅ、関わろうとしないように避けていたんですぅぅぅ)
「フォーラズ殿下、お戯れを! 私は学園と言えど、王族に対しての接し方について特待生といえども不埒な対応をしては貴国の品位を疑われますわと進言していたまでに過ぎませんわ」
「フンッ、そうか」
フォーラズは興味を失せたのか鼻を鳴らしてどこかへ行ってしまったのだった。
「失礼いたしました」
ユウヴィーは許されたのか、退出を許されその場を後にした。庭園を出るとオレ様であるフォーラズが待ち伏せしているのを発見し、コソコソと見つからないように避けようとするが、物音で気づかれてしまうのだった。
なお物音を立てたのは、エリーレイドである。
「オレ様を無視して行くにしては、どんくさいな」
(くっ、ここで普通に出会っても絡んでくるから見つからないように避けようとしたのにィィィ)
「どんくさい身なので、お目汚しにならないように失礼させていただきます」
「あぁん? 待てよ」
フォーラズがユウヴィーが去ろうとしたのを手を握り止め、ユウヴィーは引っ張られる形になり、フォーラズが支えるような状態になった。
「おっと、軽いな。ちゃんとお前こそ食べてるのか?」
「お前ではありません、ユウヴィー・ディフォルトエマノンと申しますッ、離していただけますか」
抱きかかえられるような状態になり、フォーラズの顔がユウヴィーの鼻と先に迫っていた。
イケメンが目の前に迫る、という経験はユウヴィーにはなく、頬を赤く染めてしまうのだった。前世では拡張VRパックで散々体験をしていたが、解像度の違いもあり、ドキドキしてしまったのだった。
「あまり、我が国の令嬢を捕まえていじめないでくれると嬉しいな」
突然声がするとそこには自国の王太子であるアラインがいた。
(い、いつから居たんだ!?)
「あぁん? オレ様がいつそんなことをしたって?」
二人のイケメンのやり取りにいつしか周りに人が集まり、その中心に自分がいる状態になった。
するとエリーレイドとフォーラズ殿下の婚約者が現れ、共に場を収めていった。散り散りになっていく他の生徒たちにエリーレイドがユウヴィーに貴族とは階級というのは、という説明をするのだった。悪役令嬢節を炸裂していたが、ユウヴィーはエリーレイドが言っていることは至極まっとうなものであり、いじめというのではなく、ルールの再確認だと痛感し、頭を下げてたのだった。
この時、エリーレイドはユウヴィーを、このゲームを知っている転生者ではないのか、それともゲームの事を知らない転生者なのか判別がついていなかった。そのため、シナリオ通りの言葉を口にして、どちらかの選択をすると思っていた。
だが、選択肢にないセリフをユウヴィーが発し、エリーレイドはこのゲームをやったことがないと思ったのだった。
一方、ユウヴィーはやったことがあるものの転生して十ン年の歳月が経っていた為、忘れているのだ。ドはまりしていてもセリフの一語一句覚えているわけでもない。恋愛フラグを折る適切なセリフを言えるわけがないのだ。
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