謎の動力源

 化学物質が焦げたような匂いが鼻を突く。脳にまで浸透してきそうな刺激臭だ。私の相棒は匂いを感じることができるのだろうかと思ったが、いつも何の抵抗もなく近づいている様子からすると、おそらく嗅覚センサーはついていないのだろう。


 敵の残骸は、私のレーザー銃と相棒の攻撃を受けて、右の脇腹と左肩を見事に貫通しており、千切れた左腕は衝撃によって10mほど奥に吹き飛ばされていた。


 敵を倒した後は、いつも奇妙な光景が見られる。相棒が敵の残骸に引き寄せられるように近づいていき、崩壊しかけの体をかろうじて維持していた表面の金属をめくっていく。そして、内部に格納されている円柱状の物体を拾い上げる。千切れた体の隙間から漏れ出る緑色の体液のようなものが、それから滴っている。


 緑色の奇妙な液体にはどうも慣れないが、それが赤色でないだけマシだろうとも思う。


 それを砂で綺麗に落とした後、自身の機体からも、同様の円柱状の物体を取り出し、交換する。おそらく、それがこいつら機械の動力源なのだろう。元々入っていたものは、昨日倒した敵から拾ったばかりのものであるが、早速交換している。あれほどの熱光線を放つには相当なエネルギーが必要になるということだろうか。


 また、私の持っているレーザー銃をこいつの脇腹あたりの差し込み口に刺すことによって、再度使用できるようになる。そのためにもかなりのエネルギーが必要になるのだろう。

 

 無事交換も終わり、次は自分が補給をする番になる。私のエネルギー源は、こいつとは打って変わってとても原始的になる。腰につけたサバイバルナイフを取り出し、砂漠にいるトカゲや蛇や蜘蛛などを捕まえ、焼いて食べる。最初は少し抵抗があったが、空腹が最高の調味料となっているのか、元々案外うまいものなのかむしろ好んで食べるようになった。


「うまいな。」


 静かな砂漠の夜空の下で、手についたトカゲの肉汁をもったいなさそうにすする。


「———―。」



 この世界にも慣れてきた。食事も美味しく、敵は来ると言っても、戦力差からして、正直自身に危険が及ぶレベルではない。私はこのまま、この世界で、幸せに暮らしていける、そう信じきりたい——。


 ——空腹が満たされていく。


 この世界を受け入れてしまおうとしている自分。本当に今のままでいいのだろうか。


 確信があるわけではない。ただ——。


 出会っては一方的に蹂躙されるだけの正体不明の機械兵。それと動力源を同じとする私の相棒。そして、そんな機械だらけのこの世界に、一人、記憶を失った私——。

 

 目を背けようとしていた。でも——。


 

 この世界は何かがおかしい



 雲一つない夜。煌々とした星から降る光の筋が、仰向けに寝ている自分の体を突き刺してくるような気がした。こんなにも綺麗な夜空を憎く思うことが、過去の自分にもあったのだろうか。


 焦燥感か、今まで何もしていなかった自分への苛立ちだちか。この世界に対する漠然とした対抗心が沸々と湧き上がる。


 かつての自分、今の自分ではなかった頃の自分が、私を駆り立たせているような気さえした。


 

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