13:40

 若者の街といえばやはり渋谷がメジャーなのかもしれないが、現役女子大生的には原宿の方が若者のストリートと呼ぶのに相応しい気がする。むしろ若すぎて、法的には成人になってしまった私たちには眩しい。それでもこの街の空気に当てられると、高校二年生くらいには戻れるように思える。


「うわーっ、派手」


 左を見ればおもしろおかしな店。右を見ればカラフルで写真映えしそうな店。その間を流れる人の川。ゴスロリ、ストリート系、きれいめ、学生服。髪の色も黒からピンクまで……を通り越してユニコーンカラーまで。竹下通りとはこういう場所だ。


「え……なんか勇気いるんだが」


 少し引き気味に見えるこの女も傍から見ればこの街の一員だ。彼女のような緑の髪をした女なんていくらでもいる。卒業式のあの日は「漆もコックローチも嫉妬する純黒」と自称していた髪だったのに。


「別に恥ずかしいことなんかないでしょ、ほら」


「いやそうなんだけどさ、なんか、なんかね」


「はいはーい、行きますよー」


 なんか、じゃない。私たちはアダルトショップを冷やかしたこともあるのになにを今更。いや、この女に関しては買い物もしていた。そんなしたたかでどちらかといえば私を振り回す方な彼女が東京にタジタジなのを私が引っ張るのは少々愉快だ。少々どころではないかもしれない。


「あのさ、服が見たいって言ったんだけど」


 左右をキョロキョロ見回す彼女は小動物のようだった。私より背が高いのが意外なくらいに小さく見えた。


「ああいうTシャツがほしいとは言ってない」


 細くてきれいな指の先に、奇抜なプリントの群れ。しょうもないもの、下品なもの、意味不明なものなど様々。むしろこの女は好きそうなものだが、気圧されてしまったのだろうか。


「いいじゃん、部屋着にどう?」


「いや私実家だから」


「あ、そっか」


 といいつつも、ちょっぴり欲しそうに見えるのは気のせいだろうか。そんなやり取りをしていたら肌の色が黒くてイカついお兄様方と目があってしまったので、背中を押して前に進んだ。もう「オネサンカワイイネ!」と肩を掴まれるのは勘弁だ。


「安心して、ちゃんとしたお店もあるから。チェーン店もそこそこあるし」


 思えば、この辺の店はあんまりこいつの趣味ではないかもしれない。パンツスタイルが腹立つくらい似合うこの女が楽しめそうな店があっただろうか。ま、いっか。


「コスメも色々見れるよ、JRの駅前の方にはコスメのデパートみたいなところもあるんだから」


「マジかよ、東京すご」


「あ、もう少し進むとコスプレ衣装のお店もあるよ? 入ってみる?」


「え、ええ〜……」


「てか原宿来たし甘いものほしくない? クレープ食べる?」


「え、あの」


「もっとガッツリいく? スイパラ?」


 甘い物の話をしているのに苦虫を噛み潰したような顔をされてしまった。それがおかしくてつい吹き出す。止まらなくなって、自分の口でケラケラと上機嫌な音が弾け続ける。


「あっはは、楽し。こういうとこいると『女の子』って感じ」


「女の子って本当に楽しい?」


「「キャンメイク東京!」」


 ゲラゲラ笑う。ああ、なんか、帰ってきたなあ。青春というか、地元感というか、昔のノリというか、全部ひっくるめて高校時代。


「あ、今はジェンダーレスなコピーに変わったらしいよ」


「マジ? このネタもう使えないじゃん」


「ね」


 そんなことを言う彼女の背筋はいつも通りすっぱり伸びて見えた。それが嬉しかった。

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