59.文化祭2

翌日の文化祭二日目も、真理は相変わらずハイテンションだった。


昨日のように率先して営業活動をして回り、他にも進んで仕事を引き受け、自由時間など要らないとばかりにくるくると目まぐるしく働いていた。


「真理、休まなくていいの? これじゃ、どこも見に行けないじゃない」


梨沙子が心配して声を掛けてきた。


「いいの! いいの! だって、昨日二人とたくさん回ったじゃない。もう十分! それより、梨沙子も彼氏と楽しんできて! もう来てるの?」


「うん。今着いたってメール来た」


「梨沙子の仕事は終わってるんだから、楽しんできてね!」


「そう、ありがとう。行ってくるわね」


にっこりと満面の笑みで微笑む真理を、梨沙子は少し心配そうに見ながらも、スマートフォン片手に、恋人のもとに向かった。


迷路もとても盛況で、真理が現場に張り付いていたおかげで、他の生徒はどれだけ助かったか知れない。

真理以外にも、あまり文化祭に興味無いのか、自由時間を欲しがらない人が数名いた。

その数名いるだけで、他の生徒の自由時間が確保でき、ストレスなく現場を回すことが出来た。





16時になり、文化祭を終える鐘とアナウンスが流れた。


(終わったな・・・)


真理は受付の椅子に座りながらホーッと天井を見上げた。


(結局、高田君のウェイター姿見られなかったな・・・)


『面白~! 絶対見に行こう! 高田君にオーダー頼もっ!!』


そんなこと言っていたのに・・・。


真理は天井が歪んで見えてきたことに気が付き、慌てて目を擦った。

ちょうどそこに数名のクラスメイトが駆け寄ってきた。


「中井さん~~! 今日はお疲れ~! ホント長時間ありがとう!」

「真理ちゃん、感謝~~。もうゆっくり休んで! 片付けは免除!」


「ふふふ~、いいって! 片付けも楽しいわよ。だって壊すんでしょ!? 盛大に壊そー!」


真理は楽しそうに腕まくりして見せると、迷路の教室に入って行った。


片付け作業も真理は大いに活躍した。

大きなゴミも嫌がらず、何度も教室からゴミ捨て場まで往復した。

体力を使うからやらなくていいと男子生徒から気遣われる始末だ。


それでも、真理は同じ場所で作業をするよりは、移動している方が、気が紛れる思いがして、率先してゴミ捨てをしていた。


何度往復したろう?

さすがに疲れてきたが、これが最後と、大きな段ボールを箱の形状のまま抱えて歩いていた。

重くはないが足元が良く見えない。


以前に、同じような状況で転んだことを思い出し、足元に集中して歩いていた。

そうしていたら、今度は前方や横の注意を怠ってしまった。


同じように段ホールを抱えて歩きた生徒が横から出てきて、ぶつかってしまったのだ。


「きゃっ!」

「わわっ!」


真理はバランスを崩し、前にビターンと膝から転び、その上にぶつかってきた生徒が覆いかぶさるように転んできた。


「ぐえっ!」


思いきり背中に乗られ、真理は息が詰まった。


「ご、ごめんなさい!! って、真理ちゃん??」


真理の上に乗っかった生徒は慌てて飛び退いた。


「・・・み、都ちゃん・・・?」


真理は倒れたまま、顔を少し向けた。


「ごめんなさいっ!! 真理ちゃん! 大丈夫??」


都は大慌てで、真理を抱え起こした。

そこに、ドタドタっと駆け寄る大きな足音が聞こえた。


「都ちゃん!! 大丈夫!?」


津田だ。

津田は真理にも気が付くと、すぐに駆け寄り、都と共に真理を支えた。


「中井さんも大丈夫?」


「ははは、だいじょーぶ。へーき、へーき」


「平気じゃないわ! 膝小僧擦り剝けてるじゃない! 都のせいだわ! 和人君、どうしよう?! ごめんなさい! 真理ちゃん~!」


「すぐに保健室に行こう! 立てる? 中井さん」


「都がおんぶしてあげるっ!」


「いやいや、都ちゃん、私の方がずっと重いから・・・」


真理は力なく笑うと、立とうとしたが、両膝を殴打したばかりで、痛みでふら付いた。

よろめいたところを津田が支えると、そのまま真理を抱きかかえるように立ち上がった。


「大丈夫? 中井さん? 歩けなければ僕がおぶるよ」


そう言うと、真理の前でしゃがんだ。


「えっと・・・」


真理は躊躇した。

どうすればいいのだ? この状況・・・。

目の前の津田の大きな背中。そして、真横には心配そうな都。


津田の行為は人道的には正しい。

だが、彼女の目の前でおんぶってどうなのだ?

しかも、歩けないほどでもない。

ちょっと支えてもらえれば、痛いけど歩ける。


チラリと都を見た。


非常に複雑そうな都の顔。

自分のせいで怪我をさせてしまった申し訳なさと心配する思い。

それでいて、自分の恋人が背中を差し出していることへの嫉妬。

そして、こんな一大事に嫉妬している自分への嫌悪と真理への罪悪感。

素直な都はすべて顔に出ている。


真理はポリポリと頭を掻いた。


「大丈夫よ、津田君」


「でも、痛いでしょう?」


津田は気の毒そうにしゃがみながら真理を見上げた。


「津田君。中井さんは俺が連れて行くから、この散らばったゴミをお願いできる?」


近くから知っている声が聞こえたと思ったら、スタスタと誰かが近寄ってきた。

そして、真理の腕を取ると、くいっと引き寄せた。


真理は驚いてその人物を見上げた。

呆れた顔をして自分を見ている高田だった。

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