58.文化祭1
「『お化け屋敷』はこちらでーす! 絶対面白から遊びに来て下さーい!」
「1年3組は10:30から『白雪姫』を上演致します! お見逃しなく~~!」
晴天の空の下、模擬店が並ぶ校門から昇降口の道を、生徒たちはプラカードを持ちながら客引きをしている。
その中でも、一際華やかな看板を首から下げ、メガホンを口に当て大声で客引きしながら歩いている生徒がいた。
「2年3組、『ぐるぐる迷路』開催中でーす!! 良かったら遊びに来て下さーい!!」
力いっぱい叫ぶ真理の横で、同じくらい華やかな看板を首から下げている奈菜は、心配そうな顔をして真理を見ている。
「真理ちゃん、気合入り過ぎな気がするけど、大丈夫?」
「大丈夫! 大丈夫! 折角の文化祭よ、楽しまなきゃ! それに、うちのクラス、一番の集客にしたいの!」
真理は元気いっぱいに笑っているが、その目は奈菜を見ていない。
「あ、2年4組『占いの館』さん! お疲れ様でーす!」
真理はすれ違う隣のクラスのプラカードに気が付いた。
「おお! ライバル『ぐるぐる迷路』! お互い頑張りましょう!」
至近距離なのに、お互いわざとメガホンを使って叫び合い、
「選挙かっ!」
などと突っ込み、キャッキャッと笑いながらすれ違う。
異様なまでのハイテンションの真理に、奈菜はますます眉をひそめた。
だが、ここで水を差すようなことをいう訳には行かない。
ここ数日前から急に真理の態度が可笑しくなった。
その理由は、本人曰く、
「もういいの」
その一言のみ。
それ以上は聞くことを許さない空気が親友二人を黙らせた。
それから、今まで以上に文化祭の準備にのめり込んで、自分の仕事枠を超えて張り切っていた。
今回だって、客引きは別の子が担当するはずだった。
だが、どうしても恥ずかしいと半泣きしたので、真理が代わりに名乗り出たのだ。
しかも、渋々ではなく、待ってました!とばかりに・・・。
敢えて何も聞かず、何も言わずにいた奈菜と梨沙子だが、このハイテンションぶりはあまりにも目に余る。
梨沙子は別の用事で傍にいられないため、奈菜がお目付け役として、客引き担当に加わったのだ。
真理はメガホンを口に当てるだけじゃなく、バンバンと叩いたり、頭上で振り回したりして、人の目を引いている。
寄ってきた人には、奈菜ともう一人のクラスメイトからビラを渡される。
「ぜーったい来てね!!」
とこれ以上無いと思われるほどの営業スマイルをバラまきながら歩いていた。
★
真理の外回り営業時間が終わり、自由時間になってもテンションは全く落ちず、一緒に回っている奈菜も梨沙子もハラハラしながら見守っていた。
楽しんでいればいいのだが、どうしても心から楽しんでいるようには見えない。
そして何より、特進科の棟には一切近づこうとしなかった。
もちろん、奈菜も梨沙子も理由は重々承知している。
二人とも決して特進科の「と」の字も口にしなかった。
だが、無情にも、途中、都とすれ違った。
都は親友の静香と腕を組んで楽しそうに歩いていた。
「あ、真理ちゃん!」
「あ、都ちゃん、静香ちゃん」
静香は都と幼馴染で、真理とも同じ中学校出身だ。
「真理ちゃん! 今ね、静香ちゃんと和人君のクラスに行ってきたの!」
「そうなの?」
「うん! 真理ちゃんも絶対行ってね! 和人君は調理担当だから教室にはいないけど。でも、本当は都、和人君にはウェイターやって欲しかったのに! 和服姿、絶対格好良いもん!」
「そう思ってるの、都だけよ。ねえ? 真理ちゃん?」
少し呆れた顔をして静香は真理に同意を求めた。
「あはははっ! そんなことないわよっ! 私も津田君の和服姿見たかった!!」
「でしょ~~!」
「無理しないで、真理ちゃん。でも、特進科もなかなか面白かったわよ」
「へえ!? そうなの?」
真理はにっこりと笑って静香を見た。
その張り付いた笑顔を、傍にいた梨沙子と奈菜は心配そうに見つめた。
「こんな時以外、特進科になんか行かないものね、都みたいに変わり者じゃない限り」
「それより、静香ちゃん! うちの迷路にも来てよ! 『ぐるぐる迷路』!」
真理は話を遮るように静香の手を取ると、キュッと握って微笑んだ。
「絶対面白いから! ね! 都ちゃんも!」
突然距離と詰められて、静香は目を丸めたが、都はにっこり笑って、
「うん! 絶対行くわ、真理ちゃん。今から行こう! 静香ちゃん」
そう言って、静香を引っ張った。
「そうね。今から行ってくるわ」
「ありがとう! 是非ともよろしくお願いしま~すっ!!」
真理は二人に敬礼して、送り出した。
そんな真理の様子を見て、奈菜と梨沙子は顔を見合わせた。
そして二人顔を寄せると、こそこそ話し出した。
「ねえ、明日の一般公開は彼氏が来るのよ。自由時間は真理と一緒にいられないわ」
「私もお友達が来るの。真理ちゃん、平気かな?」
「真理も友達来るって言ってた?」
「ううん、何も聞いてない・・・。あのテンションで明日も大丈夫かなぁ・・・」
二人は顔を見合わせて、小さく溜息を付いた。
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