35.お弁当事件再び

ある朝、真理がダイニングに置いてあるお弁当が入った巾着を手提げに入れようとした時、触った感触に違和感を覚えた。


いつもよりお弁当箱が大きい気がする。

その上、ずっしりと重い。


「あれ?」


真理は巾着を開けて、中を覗いた。


「どうしたの? 真理ちゃん?」


そんな真理を不思議に思い、母が首を傾げた。

だが、何か思い当たったようにハッとした顔をした。


「嘘! もしかして、おばさん、お弁当間違えて入れちゃったかしら?」


慌てたように、真理と一緒に巾着の中を覗いた。


「ああ! やっぱり! これ、翔のお弁当だわ!」


母はしまったという顔をして、口元を両手で覆った。


「じゃあ、高田君が私のお弁当を持って行ったんですね・・・」


「そうね・・・。ごめんなさいね、真理ちゃん」


「いいえ! そんな全然問題ないですよ!」


「そんなことないわ。中身の量が全然違うのよ。きっと真理ちゃんには多過ぎるし・・・」


「私は食べれちゃいますよ。でも、私というより、高田君がきっと足りないでしょうね」


「あの子はいいのよ。足りなかったらパンでも買うでしょうから。それに・・・」


高田の母はちょっと残念そうに首をすくめた。


「これ、全然面白くないお弁当なのよ。ただの海苔弁で」


そうだった。

真理のお弁当はいつもキュートだ。母の力作だ。


真理は、自分の可愛らしいピンクのお弁当箱を前に座っている高田を想像した。

中身もとっても女の子らしく可愛いお弁当。

クールな高田がそれを口にする姿を思い浮かべて、吹き出しそうになった。


(それはそれでシュールで面白い・・・)


だが、真理の立場もある。

今まで可愛いお弁当だったのに、急にお手本のような「男子の弁当」を見たら、奈菜も梨沙子も不思議に思うだろう。


「食べきれなかったら残してね」


「大丈夫ですよ、おば様。学校でお弁当交換しますから」


「まあ、ホント? ありがとう、真理ちゃん! じゃあ、お願いね!」


「はい!」


真理はにっこり笑うと、巾着の紐を結んで、手提げに入れた。





大丈夫とは言ったものの、真理は学校に向かう道中、どうやって高田と弁当を交換するか頭を悩ませていた。


高田とは以前より心を許せる間柄になったとは言え、一緒に登校するほど仲は良くない。

もちろん、学校で話しかけるなんぞは、お互いに御法度だ。


ただし、以前のお弁当事件と違うのは、今の真理は高田とSNS上のやり取りが可能になっていることだ。


(L●NEで連絡取るにしても、どうやって渡そうかな・・・)


お互いの下駄箱に突っ込む?

えー、高田のはいいけど、自分のも下駄箱に入れられるのはちょっと嫌かも。

食べ物だし・・・。


そんな自分勝手なことを考えながらも、とりあえず、高田にメッセージを送った。


『おば様がお弁当間違えたって。どうする?』


するとすぐに返事が来た。


『別にそのままでいい』


(やっぱりね・・・)


想像通りの返事に真理は呆れた。

自分が持たされた弁当がどういう代物かを分かっていない。


『ピンクでめっちゃ可愛いお弁当箱だけど。中身も超可愛いけどいいの?』

『あ、もし、高田君がぼっち飯なら誰にも見られないから心配ないね』

『でも、量が少ないって』

『私はぼっち飯じゃないから。ギャラリーいるし、高田君のお弁当だと困るんだけど』


真理は立て続けにメッセージを送った。

少し経つとスマートフォンが震えた。


『俺もぼっち飯じゃないから、それは困る。学校に着いたら中庭に来て』


「中庭・・・」


真理はボソッと呟いた。

確かにあの中庭は人の出入りが少ない。特に朝などほとんど人はいない。

しかも、王道の体育館や倉庫の裏などは、朝は運動部が占拠している。


(なるほど、中庭は盲点だった!)


さすが高田!


真理は妙に感心しながら、分かったと返信をすると、スマートフォンをカバンにしまった。

ちょうどそのタイミングで、学校の最寄り駅に電車が停まった。


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