27.迷子

「すいませーん。迷子の女の子を連れてきたんですけどー」


真理はセンターの入り口で声を掛けた。

すると、中から女性が飛び出してきた。


「まり!!」


「え?!」


真理は自分の名前を呼ばれてびっくりして飛び上がった。


「ママー!!」


しかし、次の瞬間、女の子は真理の手を振り切って、女性のもとに駆けて行った。

そして女性に抱き付くと、大声で泣き出した。


「まりー! よかったー!」


女性は女の子をぎゅうっと抱きしめると、抱き上げた。

そして、真理のもとへ来ると、深々と頭を下げた。


「ありがとうございます! 本当にありがとうございました!」


「いいえ! 私は連れてきただけなので」


真理は慌てて手を振った。


「まり! まりもお姉ちゃんにお礼を言って!」


女の子はまだ泣き止んでないが、母親に促され、真理の方に振り向いた。

真理は女の子の頭を優しく撫でると、


「まりちゃんっていうんだ。お姉ちゃんも真理っていうの。一緒ね」


そう言ってにっこり笑った。

女の子は驚いた顔をしている。


「ね? ホントにここはすごい所でしょ?」


女の子は素直に頷いた。


「あ、あり、がと・・・、おねえ、ちゃん」


まだ涙が止まらずに、声を詰まらせながらも、何とかお礼を言う女の子が可愛くて、真理は小さい頭をもう一度優しく撫でた。





迷子センターから出た後、真理はさっきの雑貨屋に戻ろうとした。

だが、店名を覚えていない。


その上、サービスセンターに行き、迷子センターに行き、あちこち行っているうちに方向がまるで分らなくなっている。


店名さえ覚えていれば、館内地図で何とかなるのだが、さっぱり思い出せない。

うろ覚えの中、何とか歩くものの、全て同じように見える。


ここかも!? と思った店もよく見ると違う。


暫くさまよっているうちに、あることに気が付いた。


(あれ? 私、迷子?)


そう思い至った途端、急激に不安に襲われた。


(どうしよう・・・)


逸れてから、かなり時間も経っている。

それが真理の不安に拍車を掛けた。


(あれ? なんでだろう? さっきまで全然大丈夫だったのに・・・)


眩暈がしそうなほどの人混みに心臓トクントクンと鳴り始めた。

本当に人酔いそうだ。


巨大なジャングルのようなショッピングモール。

周りには大勢の人の群れ。


その中に一人ぼっち・・・。


どうしよう、みんな帰ってしまったろうか?

車で来たのに、どうやって帰る? 帰り道なんて分からない・・・。

もしかして、一生このジャングルから抜け出せないんじゃ・・・。


真理は頭を振った。

ちょっとパニックになってしまったようだ。

落ち着かなければ・・・。


(・・・そうだ・・・、迷子センター・・・)


迷子を迷子センターに送り届けて、自分が迷子になるって、何てアホなんだ?

そして自ら迷子センターに行くのか?


(それは恥ずかしくない? 自分が迷子ですって・・・。しかも、さっき行ったばっかりで)


でも、あそこは逸れた人と出会えるすごい場所なんだ。

自分でそう言ったではないか!

そうだ、恥を捨てて、迷子センターに行こう!


そう、一歩踏み出した時、走ってきた子供が真理の背中にぶつかってきた。

不意打ちを食らい、真理はビターンっと前に転んでしまった。


精神的なダメージを受けているうえに、この仕打ち。


「うっ、うっ・・・」


真理は、痛みからではなく、情けなくって切なくって涙が浮かんできた。

這いつくばって懸命に涙を堪えていると、


「何してんだよ? こんなところで」


頭上から、声が聞こえた。

目を開けると、目の前にスニーカーが見える。

そして、手も・・・。


真理は顔を上げた。

そこには真理に手を差し出している、高田がいた。





「う、う、た、高田君・・・」


真理は倒れたまま、高田を見上げた。


「とりあえず、立ったら?」


高田は差し出した手を、更に真理に近づけた。

真理はおずおずと手を取ると、高田はグイっ引っ張り、真理を立たせた。


「ったく、何やってんの?」


「う~~、迷子になったの~」


「まあ、逸れたってのは聞いたよ。母さんから電話あって。中井さんに何度も電話をかけてるのに出ないって」


「携帯忘れたの~~~。でも、携帯届けたの~~~」


「は?」


「迷子を迷子センターに連れてったら、迷子になったの~。だから迷子センターに行こうと思ったの~」


「・・・ちょっと、さっきから何言っているか分からないんだけど」


「迷惑かけてごめんなさい~~」


はあ~と高田は大きく溜息を付くと、泣き止まない真理の手を引いて歩き出した。

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