27.迷子
「すいませーん。迷子の女の子を連れてきたんですけどー」
真理はセンターの入り口で声を掛けた。
すると、中から女性が飛び出してきた。
「まり!!」
「え?!」
真理は自分の名前を呼ばれてびっくりして飛び上がった。
「ママー!!」
しかし、次の瞬間、女の子は真理の手を振り切って、女性のもとに駆けて行った。
そして女性に抱き付くと、大声で泣き出した。
「まりー! よかったー!」
女性は女の子をぎゅうっと抱きしめると、抱き上げた。
そして、真理のもとへ来ると、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます! 本当にありがとうございました!」
「いいえ! 私は連れてきただけなので」
真理は慌てて手を振った。
「まり! まりもお姉ちゃんにお礼を言って!」
女の子はまだ泣き止んでないが、母親に促され、真理の方に振り向いた。
真理は女の子の頭を優しく撫でると、
「まりちゃんっていうんだ。お姉ちゃんも真理っていうの。一緒ね」
そう言ってにっこり笑った。
女の子は驚いた顔をしている。
「ね? ホントにここはすごい所でしょ?」
女の子は素直に頷いた。
「あ、あり、がと・・・、おねえ、ちゃん」
まだ涙が止まらずに、声を詰まらせながらも、何とかお礼を言う女の子が可愛くて、真理は小さい頭をもう一度優しく撫でた。
★
迷子センターから出た後、真理はさっきの雑貨屋に戻ろうとした。
だが、店名を覚えていない。
その上、サービスセンターに行き、迷子センターに行き、あちこち行っているうちに方向がまるで分らなくなっている。
店名さえ覚えていれば、館内地図で何とかなるのだが、さっぱり思い出せない。
うろ覚えの中、何とか歩くものの、全て同じように見える。
ここかも!? と思った店もよく見ると違う。
暫くさまよっているうちに、あることに気が付いた。
(あれ? 私、迷子?)
そう思い至った途端、急激に不安に襲われた。
(どうしよう・・・)
逸れてから、かなり時間も経っている。
それが真理の不安に拍車を掛けた。
(あれ? なんでだろう? さっきまで全然大丈夫だったのに・・・)
眩暈がしそうなほどの人混みに心臓トクントクンと鳴り始めた。
本当に人酔いそうだ。
巨大なジャングルのようなショッピングモール。
周りには大勢の人の群れ。
その中に一人ぼっち・・・。
どうしよう、みんな帰ってしまったろうか?
車で来たのに、どうやって帰る? 帰り道なんて分からない・・・。
もしかして、一生このジャングルから抜け出せないんじゃ・・・。
真理は頭を振った。
ちょっとパニックになってしまったようだ。
落ち着かなければ・・・。
(・・・そうだ・・・、迷子センター・・・)
迷子を迷子センターに送り届けて、自分が迷子になるって、何てアホなんだ?
そして自ら迷子センターに行くのか?
(それは恥ずかしくない? 自分が迷子ですって・・・。しかも、さっき行ったばっかりで)
でも、あそこは逸れた人と出会えるすごい場所なんだ。
自分でそう言ったではないか!
そうだ、恥を捨てて、迷子センターに行こう!
そう、一歩踏み出した時、走ってきた子供が真理の背中にぶつかってきた。
不意打ちを食らい、真理はビターンっと前に転んでしまった。
精神的なダメージを受けているうえに、この仕打ち。
「うっ、うっ・・・」
真理は、痛みからではなく、情けなくって切なくって涙が浮かんできた。
這いつくばって懸命に涙を堪えていると、
「何してんだよ? こんなところで」
頭上から、声が聞こえた。
目を開けると、目の前にスニーカーが見える。
そして、手も・・・。
真理は顔を上げた。
そこには真理に手を差し出している、高田がいた。
★
「う、う、た、高田君・・・」
真理は倒れたまま、高田を見上げた。
「とりあえず、立ったら?」
高田は差し出した手を、更に真理に近づけた。
真理はおずおずと手を取ると、高田はグイっ引っ張り、真理を立たせた。
「ったく、何やってんの?」
「う~~、迷子になったの~」
「まあ、逸れたってのは聞いたよ。母さんから電話あって。中井さんに何度も電話をかけてるのに出ないって」
「携帯忘れたの~~~。でも、携帯届けたの~~~」
「は?」
「迷子を迷子センターに連れてったら、迷子になったの~。だから迷子センターに行こうと思ったの~」
「・・・ちょっと、さっきから何言っているか分からないんだけど」
「迷惑かけてごめんなさい~~」
はあ~と高田は大きく溜息を付くと、泣き止まない真理の手を引いて歩き出した。
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